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それのこれから―――の前に

「名付けたは良いが、暴れるのはどうしようか」


「拘束器具なんかはここら辺にはなさそうだぜ、ウロ様」



 話しかけてきたのは斥候に長けた能力を持つ隊員、射手(イデ)だ。

 この管理局に向かう途中の間も道中は先行して、周囲の危険確認を行っていた。


 虚は陣形の中心に居たためあまり覚えていない。居たと言われれば思い出す程度だ。



「なんだ、もう部屋の中は調べ終わったのか」


「ええ、まぁそれが仕事なんでな。端から端まで物色してきた」



 虚を囲む集団の中では珍しく虚に対して口調を崩して話す射手(イデ)は、そう言いながらも高価に見える小型の機材や書物を懐から次々と出す。


 軽く十を越える物品をくすねてきた射手(イデ)に微妙な目線を送る虚だったが、目を逸らしてアダムとイヴを見る。



 両者ともにカプセルの中で暴れている。


 しかし、力が足りないのか、カプセルが頑丈なのか。カプセルにはヒビ一つはいらず、ただ二人が壁を殴る音だけが室内に響く。



「殺して連れ出そうにもな」

「私が近づけば再生されるのだから意味はない、か」


「お前のその無差別蘇生はひっこめられないのかよ。強弱はできるんじゃなかったか」


「強弱はできてもON、OFFができない」



 クリスティーナは興味深げにじろじろと見た後、「ほーん」と先ほどの虚の仕業で塵になった機材や資料の整理をしていた。



 クリスティーナは大将という軍の内部であればトップの発言力を持った人間だが、流石に保有する研究所の半分程度が塵になったことを隠し通してお咎めなしとなることはない。


 せめて資料の整理だけでもしていこう、という後釜への親切心である。それと釈明用の現物。



 虚や矢岸ら〈不死隊(アンデッド)〉はすぐに出て行ってしまったとしても不便はないのだが、流石に軍の大将ともなれば他所向きの理由が必要なのだった。


 今も書類探しと理由探してあちらこちらの資料へ目を通しながらいくつかの書類、データを確認しては何かを入力してを繰り返している。



「間違っても私が軍属になることは無いな」

「書類仕事なぞやったこともなければできる気もしない」

「そもそも文字が読めないのでな」



 虚はアダムとイヴを眺めながらキャスター付きの椅子へ座っている。


 現状この東部管理局から出ていくにしても、多少滞在するにしてもクリスティーナのことを軍全体に伝えねばならないし、この世界のことも勉強しなければならない。


 無知はほとんどのことに対して不利に働く。せめて常識と文字が読めるようになりたいのだ。



 そんなことを続けているなか、入り口の扉が叩かれ、呼びかける声がした。



「大将閣下!いらっしゃいますでしょうか!」



 軍人らしく声の張られたはっきりとした声は閉じ着られたこの部屋の中にもよく響いた。



「誰だ?」


「あ~、多分招集だな。五日間もここに籠ってんだ、呼び出しも食らうってもんだ」


「そういえばお前はこの中では偉いんだったな」


「ま、一応な」



 面倒くさそうに扉の方へ向かい、モニターで顔を確認した後に扉を開く。


 そこにいたのは平均的な身長をした軍人一人だけであった。

 特徴のない彼は、部屋の中にいる虚たちを見てギョッとした顔をした。



「以前おられたメンバーの方々はいらっしゃらないのですね」


「あー、多分私がいないことを良いことに好き勝手に研究をしているのではないかな?この部屋の使用申請の際に召集をかけたは良いもののずっと無視してしまっていたようだからな」


「ふむ」



 彼の目が細められ、疑惑の目がクリスティーナに向けられた。


 研究室の奥にいる虚たちにも意識は向けられたまま問答を続ける。



「彼らは誰です?ただの民間人だとは言いませんよね?」


「あぁ、協力者だ。今調べていることについての重要なサンプルを持っていてな。まぁ、解析はできても秘密だという約束をしているからおいそれと内容は話せないんだがな」


「そうですか」



「ではそちらの方々にも同行していただいてもよろしいでしょうか」



 真っ直ぐに虚を見つめ、確実に聞こえる声で言った。


 その瞳をみて〈不死隊(アンデッド)〉の面々は背中に氷を入れられたような心地悪さと冷たさを感じた。


 光の無い、業務にしか興味を持たない目。


不死隊(アンデッド)〉のような、処理のために危険地帯に放り出される部隊の隊員とは根本的に異なる「人」を相手にしてきた人間の目。



「なんでこいつらも?」


「大将閣下。あなた、気付かれないとでも思っているのですか?生体センサーが抜き取られていますよね?」


「……」



 クリスティーナは顔を顰める。


 完全に失念していた。体内に埋め込まれたセンサーが塵になった際に壊れていたのだ。流石に言い訳も思いつかなかったのか、虚に対して申し訳なさそうな顔をして目配せをする。



「はぁ、分かった」


「これは借りにしておくからな、いくつ溜まるのかが楽しみだ」


「お前に借りなんて作りたかねぇっての」



 虚は軍人に異常をきたさない距離まで近づき、挨拶をする。



「初めまして、軍人さん」


「私は(ウロ)。そのまま虚と呼んでくれ」



 虚に対して近づいたりはせず、その場で彼も挨拶を返す。



「初めまして、虚さん。僕は軍部書記官、伊那止(イナヤミ) (アキラ)と申します。それでは、後ろの皆さんもご一緒に参りましょうか」

        この先、星があるぞ     

   星を押すと良い、作者のテンションが上がる   


ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。

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