生誕祭
授業中に戻る気になれなかった僕は、終わる時間まで時間を潰してから教室に戻った。すると、バルドに何の話だったのか聞かれたので、さっき言われた事を話したら、少し同情されたような目で見られた。
「リュカも大変だな…」
「他人事のように言ってますが、貴方も同じような物でしょう」
「俺は、三男だからか、兄貴達ほどは厳しくないぞ。それに、貴族らしくしろなんて、親父からも言われた事ないからな」
「僕の父様だってそうだよ…」
「そうなのか?まあ、俺の親父よりも優しそうだったしな」
「うん。注意された事はあっても、父様から怒られた事はないよ!」
「怒られないからと言って、好きにして良い訳でもないですけどね…」
少し誇れしげに言った僕の言葉に、コンラットが水を指した。
「まあ、今後、リュカも気を付ければいいんじゃねぇ?」
「バルドに言われたくないよ!」
「貴方が言っていい事ではないです!」
「え?」
バルドは、僕達の言葉にキョトンとした顔をしていて、怒られた意味を分かっていないようだった。
その日、ネアを睨むように見ている事はあっても、彼が、僕達に突っかかって来る事はなかった。
その後も、授業の勉強で困る事はあっても、何事もない平穏な学院生活が続いた。休みの日には、みんなが僕の屋敷に集まって勉強したり、兄様と一緒に陣を作る練習をしていたら、入学から1ヶ月の月日がたっていた。
「もうすぐ生誕祭か…。礼服は、動き難くて着たくないから、行くたくもないなぁ…」
「動きやすさを考えて、作ってる服ではないと思うよ…」
「でも、新年祭の前は、王城に行くのも楽しみにしてたではないですか?」
「伝記とかで、出て来てたから憧れてたんだよ!でも、退屈だったんだよ!!パーティが、あんなに退屈だと思わなかった!」
バルドの気持ちは、僕も分からなくもない。僕も、最初は退屈だったけど、兄様のおかげでつまらなくは無かったな。
「はぁ…。パーティに行くより、街で遊んでた方が楽しそうだよな…。そういえば、ネアはその日、何してんだ?」
「仕事だな」
「家が、商会やってるんだっけ?」
ネアから、あんまり家の事を聞いた事がない。それに、ネアの雰囲気も商人らしくないから、忘れそうになる。
「荷物の準備や、運ぶくらいしかやらないがな」
ネアは、何でもない事のように言うが、僕と同じ歳で働いているのは、凄い事だと思う。
「偉いんだな!」
「バルドも、少しは見習ったらどうですか」
この後も、学院に来るたびに、バルドは行きたくないと愚痴っていた。
生誕祭の日
僕は、会場に来ているだろう2人を探しに行きたかったけれど、前回迷子になって迷惑をかけた事があるため、両親の側を離れないようにしていた。
兄様も、仕事をやり始めたせいか、新年祭の時とは違って、挨拶に訪れる人がいて忙しそだ。何もやる事がない僕は、誰か知っている人はいないかと、会場内を見渡していた。
「あ!リオ先生!」
「これは、レグリウス公子様。お声を掛けて下さり、ありがとうございます」
僕が声を掛けると、学院にいる時とは違って、丁寧な仕草と言葉を返して来た。髪も、ウェーブがかかっていた髪を寝かせているから、雰囲気も違って別人に見える。
「リオ先生も、来ていたんだね?」
「はい。分不相応の身ではありますが、この度も陛下にご招待頂きました」
「君は、リュカの担任だったかな?」
先生と2人で話しをしていたら、僕達の会話に父様が混ざって来た。
「お久しぶりです。レグリウス卿。あれから、お変わりはありませんか?」
「変わりはない。担任である君に、私が望むのは1つだけだ。息子達には、自分の思ったように学院生活を過ごして欲しいと、私は思っている。だから、それを邪魔されるのは不快だ…」
「はい。分かっております。担任として、問題が起こらないように、気を配ります」
リオ先生は、軽く笑みを浮かべながら、父様に頭を下げた。
「それならばいい…。私は、まだ挨拶をしなければならない者が残っているので、これで失礼させて貰う」
「貴重なお時間を割いて頂き、ありがとうございます。私も、これにて失礼させて頂きます」
父様が、他の貴族の元へ戻るのを見届けると、リオ先生は人混みの中へと消えて行った。
「あの教師は、あまり好きではない…」
いつの間にか、僕の側に来ていた兄様が呟くように言った。
「どうして?優しい先生なのに?」
「……。リュカが、気にいっているのなら、私から言う事はない。それよりも、此処にばかりいては退屈だろう。お菓子でも食べに行くか?」
「いいの!?」
「挨拶も終わったから問題ない。リュカが、行きたい所に行けば良い」
「やったー!!」
僕は、兄様を連れてお菓子がある場所を目指した。
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