リュカの屋敷で(コンラット視点)
私が、誰かに怒られたり謝る時は、何時もバルドが原因だったけど、自分にも原因がある事は、理解はしていた。だけど、叱られるのが嫌で、バルドが悪いと言っていたし、本人も素直にそれを認めていたので、怒られるのは何時もバルドだけだった。
私は、その事に何処か後ろめたく感じつつも、それがいつの間にか癖になっていた。
だけど、今回、原因を作ったのは私だ。なのに、何時もの癖で、バルドを非難するような言葉しか口から出て来ない。
それでも、2人に謝る機会はないかと、様子を伺っていたら、私への配慮は一切なかったが、バルドが謝る機会を作ってくれた。
内心では、恐れを抱きながら、2人に謝罪すれば、快く私を許してくれた。でも、隣でネアと楽しそうに笑うバルドの気楽さには、感謝の言葉ではなく、ため息と皮肉が出ていた。
普段は、後先を考えていない言動が多くて、付き合うのは疲れるけれど、意外と私の気遣ってくれている所もある。きっと、探検の話しだって、オルフェ様の弟と仲良くなりたいと、前に言っていたのを覚えていたんだろう。
否定と皮肉が口に出やすくて、素直になれない私のためだとは分かっていても、勝手に人の気持ちを言い触らすバルドの事を睨んでしまった。
その後、書庫で問題を起こした事で、図書館が使えなくなったと思って落ち込んでいたら、思いがけずリュカの屋敷に招待された。
事前に聞いていた通り、オルフェ様には会えなかったが、途中で挨拶に来たリュカの母親は気さくな方だった。顔を赤らめて、必死で母親を止めるリュカの様子を見ていたら、思わず笑みがこぼれていた。
「何だと思う?」
学院に来た、リュカから聞かれた事が、気にはなっても、詮索するつもりはなかった。だから、突撃しようとするバルドの事は、隠し事を使って全力で止めた。普段は見ていない振りをしているが、今回話しが違う。
身内でもない私が、隠し事を暴くような事をすれば、不興を買ってしまう。その話は、授業を受けている間に、有耶無耶になっていたので、私も話題に触れない事にした。
週末になって、リュカの屋敷に行く日。今度は約束を忘れないように、私が昔読んでいた本を数冊持って行く事にした。リュカの分からない部分が、分からないので、範囲を広くして持っては来たのですが…。
「ぜんぶ…?」
「全部」
全部分からないとは、思っていなかった。さすがに、初代国王の名前さえ、うろ覚えだったのは驚いた。
私が本を取りに行っている間に、ネアと何か話しをしていたようだった。表紙を見たら、憧れの人が頭に浮かんで、私にも本を貸して貰った。
私が持って来た本をリュカに渡すと、前回と同じように、それぞれ本を読みながら過ごしていた。すると、部屋をノックする音が響き、まさかの声が聞こえて来た。
「入ってもいいか?」
実際に、声を聞いた事はなかったが、口調を考えても使用人ではない。そうなれば、考えられる人物は1人だ。
リュカの方に視線を向ければ、何処か気まずそうにしているのを見て、予想が確信へと変わった。リュカは、私の心の準備をしているうちに、入室の許可を出してしまった。
話したい事は沢山あったが、憧れの人を目の前にすると、何も浮かんで来ない。何か、失礼な事を言って、嫌われてしまうのは絶対に嫌だ。隣で、バルドが話しをしていても、非難の言葉が出そうで、会話に混ざれない。
それでも、何とか気持ちを落ち着けようとしていたが、アルノルド様がお越しになってからは、ほとんど記憶がない…。何か、失礼な事を言っていないと願いたい…。
お2人が退出なされてから、リュカにどういう事なのか問正せば、伝え忘れていたと謝罪された。
事前に、伝えておいて貰えたら、もう少しちゃんとした挨拶が出来ていたはずだ。それに、ちゃっかりと約束を取り付けたバルドにも、不満が募る。
だから、八つ当たりだと分かっていても、バルドとリュカに非難する言葉が出てしまう。また、悪い癖が出たと分かっていても、簡単には治りそうにない。だから、本当はリュカの事を責められない。
1人落ち込みながら、反省をしていると、お二人にリュカがフォローを入れてくれると言った。私は、さっきまでの事は忘れて、何度もリュカに念押しをしていた。憧れの人に、良く思われたいという気持ちは、どうしても止められなかった。
今日は、色んな意味で寝られなさそうだ…。
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