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週の初めは憂鬱…


バルドは、その日の午前中にあった剣術の授業のおかげで、すっかり気を持ち直したようだった。けれど、僕は逆に気力をなくしていた。体を動かすこと自体は嫌いじゃない。でも、体力強化のための走り込みや素振りは、正直に言って、まったく楽しくない。


「疲れた……。帰りたい……」


更衣室で制服に着替えながら、思わずこぼれた愚痴に、コンラットが少し覇気のない声で返してくる。


「リュカ。そういうことは、思っていても口に出さないで下さい……」


「だって、本当に疲れたんだもん……」


「素振りとかしてると、気晴らしになるぞ!」


バルドが、いかにも名案だと言わんばかりに胸を張る。


「絶対に嫌……」


僕は即座に拒否したけど、それが意外だったのか、バルドは不思議そうな顔をしていたが、周りを見れば、元気そうなのは本当に一部だけだった。


「体力もそうだが、いざという時のために鍛えていた方が良いぞ」


その“元気な一部”に含まれているネアが、淡々と正論を口にする。危険な目にあったこともあるため、それは分かってはいる。でも、僕はつい問い返してしまった。


「その“いざ”って、いつ来るの?」


「いざは、いざだ」


まるで答えになっていない答えが、さらりと返ってきた。でも、どれだけ鍛えたとしても、戦えている自分の姿がどうしても想像できなかった。だからこそ、僕は気になったことを口にする。


「……なんでネアは、そんなに色々できるの?」


主席で入学するほど頭も良くて、体力だってバルドと遜色がない。そんな様子を不思議に思っていると、ネアは少しも気負った様子もなく、平然と言った。


「これくらい普通だろう?」


(……今ここでぐったりしてるクラスメイトに聞かれたら、確実に敵を作ると思う)


みんな疲れ切っていて、この会話が耳に入っていないことに、内心でほっとしながら、そんなことを考えていると、バルドが口を開いた。


「むしろ、二人の体力がなさ過ぎるんだよな」


「それは……否定できないけど……」


コンラットよりは体力があるけれど、他のクラスメイトの男子と比べると、やっぱり足りていないのも事実だった。

素直に認めつつ、少し不満そうな顔をしていると、先に着替えを終えたコンラットが口を開く。


「少しでも座って休みたいので、私は先に戻ります」


「ま、待って!」


声を掛けながら、慌てて後を追うために、僕も急いで着替えを済ませる。


剣術など、服が汚れる授業の時は、必ず稽古着に着替えてから受ける決まりになっており、入学時には制服と稽古着がそれぞれ二着ずつ、無料で支給されていた。もっとも、僕達のクラスの稽古着は、全員が体格に合わせたオーダーメイドを使っていた。


そんな学院内では、有料で様々なサービスを利用でき、汚れ物を渡せば、洗濯された状態で屋敷まで届けてくれる。だから、ネア以外の生徒は、だいたいこのサービスを使っていた。そのため、汗で汚れた稽古着を袋にまとめると、更衣室の外で待機している学院の用務員の人へ手渡して駆け出した。


「コンラット! 一緒に行こう!」


急いで追いかけたおかげで、すぐに追いつくことができた。けれど、そんなに急ぐ理由が分からないといった顔で、コンラットは振り返る。


「この後は昼休みですし、わざわざ急いで追いかけて来る必要はないと思いますが?」


「いや……次の授業でやるところ、教えて欲しくて……」


「ああ、午後の最初は歴史でしたね」


首を傾げていたけれど、僕の言葉を聞いて、コンラットは納得したように頷く。


「そうなんだよ……。だから、お願い!」


歴史の授業を乗り越えるためには、少しでも予習しておかないと厳しい。その必死さがそのまま声に出ていたと思う。


「私の予習にもなりますし、構いませんよ」


「ありがとう!!」


快く引き受けてくれたコンラッドにお礼を言い、遅れてやってきたバルド達と合流してから、軽く昼食を済ませた。その後、少しだけ勉強を見てもらってから、僕達は午後の授業へと向かった。


「ここは、先週の授業で扱った内容だ。お前は復習していないのか?」


(復習はしていなくても、予習はしたんだけどな……)


そう心の中で反論しながら、隣にいるネアに、こっそり教えてもらおうと視線を送った、その瞬間だった。


「誰かに教えてもらうようなことはするな」


先に釘を刺すようなことを言われてしまっては、何もできない。黙ったままでいると、先生はため息混じりに続けた。


「はぁ……。座っていい」


僕の前に当てられた子も、同じように答えられていなかったのに、その子にはただ、「座っていい」と言っただけだった。でも、僕の時だけ、必ず小言とため息がついてくる。だからこそ、そのため息が、胸の奥にじくりと残る。


(……本当にやめてほしい)


兄様は、公平で真面目な教師だと言っていたけど、どう考えても、僕にだけ厳しい気がする。僕は教科書の陰に視線を隠しながら、ひっそりと先生の様子を窺った。


水色の目に、白に近い、くせのないグレーの髪が風に揺れている。それだけ見れば、どこか儚げな印象を受けるのに、つり上がった眉と細い目が、その雰囲気を台無しにしていた。


(もう少し優しかったら、人気も出ると思うのに……)


リオ先生の優しさを、少しは見習ってほしい。そんなことを考えながら眺めていた瞬間、目が合った。


「随分と余裕そうだな?それなら、建国時に行われた改革も言えるな?」


完全に余計な事を考えた。その後、当てられる回数と小言が増え、僕は”考え事をすると酷い目に遭う”ということを学んだのだった。

お読み下さりありがとうございます

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