それぞれの隠し事
お礼を受け取らないと、猫が帰らなそうだったので、形だけ受け取った後は、庭の隅に埋めておいた。
僕は、手に付いた土を軽く払うと、手を洗うために噴水がある方へと向かった。本は、なるべく汚さないように、脇に抱えながら持って行った。
噴水で手を洗っていると、1台の馬車が、フェンスの向こうの道を通り過ぎて行くのが見えた。視線で追いかければ、よく見慣れた馬車だった。僕は、服で軽く手を拭くと、本を持って玄関の方へと駆け出した。
「父様!!」
玄関が見える場所まで来ると、ちょうど父様が屋敷に入ろうとしている所だった。
「急いでどうしたんだ?」
「見慣れた馬車が通ったから、父様かなって!それでね!今日は、兄様と陣を作る練習をしたんだよ!!」
「だから、裏庭の方から来たのか」
父様は、何処か納得したような表情で頷いた。
「今日は、父様速いね?どうしたの?花は母様へのお土産?」
父様が何時も帰ってくる時間より、今日は少し速かった。それに、左手に花束を抱えていて、母様の好きなキキョウの花も見える。
「ああ、綺麗だったから買って来たんだ」
「でも、キキョウはまだ時期じゃないよね?」
花が好きな母様のために、庭には色々は種類の花が植えてあり、キキョウの花もあった。でも、庭の花は蕾すら付いていない。
「少し値は張るが、時期外れの花も売っている」
「ふ~ん」
父様が、母様や僕達にお土産を買って来ることは珍しくはないけれど、何時もみんなで食べれるお菓子とかだったのに何で花?それに、父様もいつもと何か違う気がするんだよね?まあ、何が?と聞かれたら、答えには困るけど…。
「アルノルド様、花を渡されるなら急がれた方がよろしいかと。花は、速めに処理をしないと、痛むのも速く、枯れてしまいます」
「そうだな。リュカも、本を汚さないよう部屋に置いて来なさい」
出迎えのために出ていたドミニクに言われて、屋敷に入って行く父様は、やっぱり何か変だ。
「いったい何だと思う?」
次の日、学院に向かった僕は、みんなに昨日の事を話して聞いてみた。
「仕事の事で、話せないのではないですか?」
「仕事の事なら、ちゃんとそう言ってくれるから違うと思うよ」
「よし!なら、今週リュカの家に行った時に調べてみよう!!」
「オルフェ様達に迷惑をかけるような事をしては駄目です!!」
僕の話しを聞いていたバルドが、名案を閃いたとばかりに言った言葉を、コンラッドがすかさず止めた。
「何で?コンラットも気になるだろ?」
「気にはなっても、それとこれとは話しが別です!オルフェ様に嫌われでもしたら、どうしてくれるんですか!!」
「大丈夫!こっちには、リュカがいるから何とかなる!!」
「う、うん…」
あんまり当てにされても困るけど、少しくらいなら大丈夫だとは思う…たぶん…。
「よし!それなら…」
「花壇を掘り返しますよ…」
ピタッ
コンラットの言葉を聞いて、さっきまではしゃいでいたバルドの動きが止まった。
「な、何の事!?」
ようやく動き出しだが、目が泳いでいて明らかに動揺していた。
「先月、私の屋敷がある側の花壇に、何か埋めていましたよね?」
「し、知らない!!」
先程よりも目が泳いでいて、どう見ても何か隠しているのがバレバレだ。
「そうですか。たしか、その日の夜に、貴方のお父上が、陛下から貰った記念のグラスが無くなったと、騒ぎになっていたと思うのですが…覚えていませんか?」
「お、覚えてないな…」
「なら、帰ったらすぐにでも、花壇を掘ってみましょうか?」
「待て!速まるな!!」
「なら、オルフェ様に迷惑をかけないように…」
「リュカ悪い!俺はこの件から手を引く!!」
バルドは手を合わせると、勢いよく頭を下げて、僕に謝ってきた。
「リュカも、人の秘密を暴こうなんてしないように…」
「は、はい…」
コンラットの何とも言えない気迫に、思わず頷きながら返事をしていた。
僕にも話せない事はあるから、コンラットの言う通り何だけど、兄様を崇拝し過ぎているような態度にちょっと引いた…。
「俺も、コンラッドに賛成だ。秘密は、誰にでもあって暴くものではない」
「そうだぞ!秘密を暴くのは良くない!グラスを割った事を、親父にバレるわけにはいかない!!」
「割ったんだ…」
「割ったのか…」
「割ったんですね…」
「巧妙な罠か!?」
罠というよりも、ただの自爆かな…。頭を抱えながらうずくまるバルドは、もうどしようもないと思う…。
「自首した方が、罪は軽いですよ」
「自首しても、罪が軽くなるとは思えない!」
バルドは、コンラットの言葉に首を左右に振りながら否定する。
「バルドの家族には、あった事がないから分からないけれど、王宮であった陛下は優しそうだったから、大丈夫じゃないかな?」
「ならリュカが代わりに謝ってきて!!」
「何で僕!!?」
僕、まったく関係ないよね!?そもそも、バルドの屋敷に行った事も無ければ、時期も合わないから!
その後も、バルドは自首を進められていたが、頑として拒んでいた。
「こういうのは、自分でも忘れた頃にバレるものだ…」
小声で言ったネアの一言を、僕は聞こえなかった事にした。
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