速く言って!
週末の昼、僕は玄関ホールで、落ち着きなくウロウロと歩き回っていた。
「リュカ様。お友達がご到着されたら、ちゃんとお知らせしますよ」
「それは、分かってるんだけど…」
リタが言う事は分かるんだけど、初めて誰かを屋敷に迎え入れるとなると、緊張して落ち着かない。他のみんなは出かけていて、僕しか屋敷にいないというのも落ち着かない原因になっていた。
その時、馬車の音と小さな馬の鳴き声のような物が、玄関扉の向こうから聞こえて来た。僕は、急いで扉を開けて外へと飛び出る。
「おぅ!リュカ!遊びに来たぜ!!」
「お、お邪魔します」
扉を開けると、ちょうど馬車から降りて来る2人が見えた。
「いらっしゃい!待ってたよ!!」
「ネアは?まだ来てないのか?」
バルドは、辺りを見渡すような仕草をした後、僕に訪ねた。
「うん。まだ来ていないんだ。どうする?このまま待ってる?」
「リュカ様。お客様をこのまま外でお待たせするのは、如何なものでしょうか。先に、お客様をお部屋に案内されては如何ですか?」
「分かった。書庫は、こっちだよ!」
僕は、ドミニクの言う通りに、2人を先に書庫まで案内する事にした。
「リュカの家、俺やコンラットの屋敷よりも広いな」
「当たり前な事言わないで下さい。バルドの家はともかく、私の家が比べる対象になるわけないでしょう」
「だって、他に比べる場所なんて学院くらいしか行った事ないし、それにコンラットの家も格段小さいわけじゃないだろう?」
「2人の屋敷は何処ら辺にあるの?僕の家から近い?」
屋敷の廊下を歩きながら、3人でたわいない話しをする。
「ん?少し遠いな。貴族街の外れ方にあるから、学院の方が近いか?」
「それは、貴方だけです。貴方は、走って学院に通っているから近いですが、私は馬車を使っているので、迂回しなければならない分時間がかかります」
「え!?バルド走って通ってるの!?」
「おぅ!朝の鍛錬を含めて、走って通ってるぞ!走って行くと、小道とか庭を突っ切って行けるから近いんだよな」
「庭って…。勝手に人の敷地に入るのは、駄目だと思うよ…」
「バルドには今更ですよ…。私の家に来る時も、抜け道しか使わない男です…」
呆れた目で見つめる僕達の視線に、少し照れたような顔をしているけれど、何も褒めてないからね…。
「ここが、兄様の書庫だよ」
「ここが、オルフェ様の書庫なんですね。そ、それで、好きに読んでいいんですよね?」
コンラットは、辺りを見渡すように見た後、そわそわ落ち着きなさそうに聞いてきた。
「うん。兄様が良いって言ってた」
僕の言葉を聞くと、早速いそいそと本棚の方へと行って、本を探し初めた。
「それにしても、難しそうな本しか置いてないな。リュカも、兄貴と一緒にこんなの読んでるのか?」
「まさか、僕が読んでいるのは、こっちに置いてある本だけだよ」
「なんか、この本棚だけ他の本棚と違うくねぇ?」
たしかに、この本棚に入ってる子供向けの本が、最近少しずつだけど増えて行っている。
「ここの本の入れ替えは、ドミニクがやってくれてるから、僕もよく分かんないんだよね?でも、読んでみたら面白かったよ!」
「ふーん。俺は、眠くなりそうだから、別に読まなくていいな。それより、騎士とか出てくる奴はないのか?」
バルドは、本棚の本に興味を失ったのか、他の本を物色し始めた。
面白いのに…。せっかく、面白いと思う本を薦めたのに、そんなにあっさりと、拒否されると少し面白くない。
コンコン
部屋をノックする音が聞こえて振り向けば、ドミニクが部屋に入って来る所だった。
「ネア様が到着なされたので、ご案内致しました」
ドミニクに連れられて来たネアは、手に持っていた小さな箱を、僕に差し出して来た。
「遅れて悪かった。これ手土産」
ネアから渡された箱の中には、チョコのお菓子が入っていた。
「わぁ~!チョコのお菓子だ!!よく僕の好きな物が分かったね!!」
「初日の自己紹介で、チョコが好きって言っていただろう?」
「なあ?手土産っているのか?俺、コンラッドと出かけて来るって行って来ただけで、何も持ってきてない…。コンラッドは?」
「私も、レグリウス家に行くと言ったら兄が煩そうだったので、バルドと出かけて来るとしか言ってこなかったので、持ってきてません…」
「不味い…かな…?」
「分かりません…。私も、初めての事なので…」
「どうしたの?」
僕がネアと話している間、2人が何かコソコソと話していたようだったので、気になって聞いてみた。
「え!?あ、そのだな…。俺達何も持ってこなかったけど…良いのかな…?って…」
バルドが、何処か気まずそうに僕に尋ねて来た横で、コンラットもこちらの様子を伺うように見ていた。
「え?別に良いよ。お土産が欲しくて、みんなを呼んだわけじゃないから」
「俺も、挨拶周りとかで、手土産を持って行く事が多かったから持って来ただけだ」
「リュカ様のご友人なら、ご自身のお屋敷と思って、何時でも気軽に訪ねて貰ってかまいません」
ドミニクが、そう言った事で安心したのか、バルドは何時もの明るい表情に戻っていた。
「じゃあ、そうするわ!」
「馬鹿ですか!少しは遠慮を覚えて下さい!!」
「ネアは、この本読んだことある?」
2人でまた話し初めてしまったので、僕はネアにさっきバルドに勧めた本を渡して聞いてみる。
「仕入れの荷の中にあったのは見た事があるが、読んだ事はない」
「読んで見てよ!面白かったから!!」
「分かった。読んでみる」
そう言うと、椅子に座って僕が勧めた本を読み初めた。その姿を見ていると、ネアって良い奴かもしれないと思う。最初は、いい印象がなかったけれど、僕が勧めた本を素直に読んでくれるし、何よりチョコのお菓子を手土産で持って来てくれた。うん!ネアは良い奴だな!!
その後も、みんなで好きな本などを進めあったり、読んだりしているうちに、あっという間に夕方近くになっていた。そろそろ帰る時間になってきた時に、ネアが本を片手に僕に尋ねて来た。
「リュカ?勉強はしなくて良かったのか?」
「……。ネア!!そういうのは、速く言ってよ!!」
「お、俺が、悪いのか…?」
驚き戸惑うネアを無視して時計を見るが、今から勉強をやる時間は、ほとんど残っていなかった。
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