↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!  作者: ユーリ
2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/393

ギャラリー


時間が残り少なくても、今から少しでも勉強をしようとした、そのときだった。書庫の扉がノックされ、聞き慣れた声と共に、扉が開く。


「まだ、間に合ったようで良かったわ」


帰ってきた母様が、にこやかに部屋へ入ってくると、そのまま僕の友達へと向き直り、挨拶を始めてしまった。


「今日は来てくれてありがとう。リュカと仲良くしてくれて、嬉しいわ」


「え、えっと……お邪魔してます……」


コンラットがかしこまって頭を下げると、バルドもそれに習って、少し戸惑いながら頭を下げる。ネアだけは普段通りの表情で礼をしたけれど、それでも顔を上げると、堂々とした様子で、母様の視線を正面から受け止めていた。


「リュカの学院での様子はどうかしら?夫と少し甘やかしてしまったところもあって、心配していたのだけれど?」


(あ、やめて……!)


今までも、父様達の知り合いに紹介されることはあった。けれど、それを“僕の友達”の前でされるのは、どうしてこんなにも恥ずかしく感じてしまう。


「母様! えっと……その話は、今はいいから……!」


慌てて止めながら、楽しそうに笑う母様をどうにか部屋の外まで連れ出した。けれど、何だか部屋の中には生暖かい空気が流れていた。結局、その日は勉強どころではなくなってしまった。それもあって、勉強会は来週へ持ち越しだ。


(次は……絶対、乱入されないように、家族に頼んでおこう……)


みんなを見送る時、僕は心の中で、固く誓った。


「それで、勉強するの忘れちゃったんだ。だから、また来週、コンラット達を呼んで教えてもらうんだ」


僕の話を、母様は微笑みながら聞いている。だけど、母様の乱入もあったため、少しやりづらさを感じて、どうにも落ち着かない。。そんな時、隣から、ぼそりと小さな声が聞こえた。


「……のに」


「兄様?今、何か言った?」


「……何も」


兄様は涼しい顔をしていたけれど、確かに、何か言葉が漏れた気がした。でも、そこまで深く考えるほどのことでもないと思い直し、僕は父様の方へ向き直る。


「それでね、父様。来週も、みんなを呼んでいい?」


「……」


「父様?」


いつもなら、すぐに返事が返ってくるのに、今日は違った。不思議に思ってもう一度呼ぶと、一拍遅れて、父様がはっとしたように顔を上げる。


「……え?あ、ごめんね。何の話だったかな?」


僕の話を聞いていなかったことに、少しだけ驚きながらも、もう一度同じ質問を繰り返す。


「来週、またみんなを呼んでいいって」


「もちろんいいよ。好きに呼んでかまわない」


返事はいつも通りなのに、どこか、いつもと違う。父様は落ち着きなく、何度も母様のほうへ視線を向けている。


(母様はいつも通りなのに……何で?)


理由は分からないけれど、胸の奥に小さな違和感が残った。その答えが見つからないまま、食事の時間が過ぎていく。そして、部屋へ戻る途中の廊下で、兄様に声をかけられた。


「リュカ。クラスメイトが来るのが来週なら、明日は何か予定があるのか?」


突然の問いかけに、僕は首を傾げながら答える。


「特にないけど?」


本当は、明日でもいいと言ったけれど、コンラットが二日続けて来るのは迷惑だろうと遠慮して、来週にしたのだ。だから、空いてしまった明日をどう過ごそうかと考えていた。その時、兄様が口を開いた。


「ならば、午後から時間をもらえるか?」


「いいけど?でも、仕事は?」


兄様が忙しいのは知っているからこそ、そう兄様に尋ねると、何の迷いもなく言った。


「午前中までに片付けておく」


「うん、分かった」


兄様がわざわざ時間を作るなら、きっと大事なことなのだろう。そう思って、僕は素直に頷いた。


次の日、昼食のために食堂へ向かうと、兄様の姿はまだなかった。それから、少し遅れて現れた兄様は、席に着くなり、僕に申し訳なさそうに言う。


「すまない。まだ少し仕事が残っている。昼食後も、少し待ってもらってもいいか?」


「うん。僕はいいけど……忙しいなら、別の日でもいいよ?」


僕は無理はする必要はないと言うと、兄様は首を軽く振った。


「あと少しだから問題ない」


そう答えながらも、料理が運ばれてくると、兄様はいつも通り優雅に食べているように見えて、皿の上の料理は目に見えて早く減っていった。


(え……早い……)


思わず見入っている間に、兄様はあっという間に食事を終え席を立つ。


「私は先に戻るが、リュカはゆっくり食べてくれて構わない。リュカが部屋に来る前までには片付けておく」


そう言い残して、兄様は足早に食堂を後にした。忙しいはずなのに、わざわざ時間を作ってくれる理由が分からなくて、胸の奥に小さな疑問が残る。僕は料理をゆっくり口に運びながら、兄様の背中を思い浮かべていた。


コンコン。


「兄様。入ってもいい?」


ノックをしながら部屋を覗くと、兄様は書類から顔を上げて、静かに言った。


「あぁ、構わない」


許可をもらい、僕は執務室の中へ足を踏み入れる。すると、中央にある机の横には、もう一つ机が置かれていて、兄様はそこで書類を書いていた。前に聞いた時、新たに部屋を用意するよりも、資料がすべて揃っている父様と同じ部屋で作業した方が効率がいいのだと言っていたのを思い出す。


「これで終わるから、もう少し待ってもらえるか?」


「うん」


まだ仕事が残っているらしく、そう言われて僕は素直に頷く。兄様は再びペンを走らせ始め、部屋には紙を擦る音だけが響いた。


父様の執務室に入るのは初めてで、僕は落ち着かず、視線を部屋の中に彷徨わせる。そこで、ふと、違和感に気付いた。父様の机の横に、この部屋にはあまりにも似合わない、“とまり木”が置かれている。


(……なんで、ここに?)


疑問が浮かんだ瞬間、まるでそれを遮るように、兄様の声が響いた。


「待たせてすまない」


仕事が終わったのか、手を止めた兄様が席を立ち、机の上を片付け始めた。そして、僕の方へと向き直ると、どこかいつもよりも真剣な面持ちで、僕の方へとやって来た。


「それで、今日はどうしたの?」


僕が問いかけると、兄様は今回僕を呼んだ理由について話し始めた。


「前々から父上とも相談していたのだが、今日はリュカに、召喚に必要な陣の作り方を教えようと思ったんだ」


「でも、召喚関係の授業はまだやらないって、学院でも言ってたよ?」


それで怒られていた生徒のことを思い出しながら言うと、兄様は真っ直ぐに僕の目を見て、静かに言った。


「学院の方針としてはそうだ。だが、父上とも、教えておいた方がいいだろうという話になったんだ。ただし、リュカが嫌だと言うなら、無理に強要するつもりはない」


その言葉は丁寧で、こちらに選ぶ余地を残してくれているのだと分かった。それに、僕に無理をさせないよう、気遣ってくれているのが伝わってきて、胸の奥が少しだけ温かくなる。


「僕は別にいいよ」


父様達が決めて、兄様が時間を割いてまで教えるというのなら、きっと必要なことなのだろう。そう思って、僕は迷いなく頷いた。


「それで、どうするの?」


これからのことを尋ねると、兄様は少しだけ、きまり悪そうに視線を逸らした。


「本当なら、私が昔使っていた教本が、離れの保管庫に置いてあるから、先に持ってくるつもりだったのだが……」


仕事が忙しくて、そこまで手が回らなかったのだと、兄様は申し訳なさそうに言う。


「言ってくれれば、僕が取りに行ってきたのに」


朝から特に予定もなかったし、その間に行けたのにと、そう思って言うと、兄様は軽く首を振った。


「私は、同じ轍は二度と踏まないようにしている」


(……同じ轍?)


意味が分からず、僕は首を傾げるけれど、兄様の声には、はっきりとした決意が滲んでいた。


「まぁ、本の管理を任せているドミニクに頼めば良いのだろうが、父上が母上を怒らせた件の対応で、忙しいと思ったからな……」


(父様、また母様を怒らせたんだ……)


兄様の言葉で、昨日のらしくない父様の態度が、ようやく腑に落ちた僕は、思わず静かな苦笑がこぼれたのだった。


その後、離れへ向かう道中、兄様が学院での出来事について尋ねてきた。


「それで、学院はどうだ?」


「うーん……僕にだけ厳しい先生がいて、少し大変……」


過保護すぎる父様には言えない不満を兄様へとこぼすと、兄様の目が、ほんの少し細くなった。


「それは、何という教師だ?」


「リータス・ティーティアって言う先生」


その名前が意外だったのか、兄様は考えるように視線を伏せた。


「私が通っていた頃も厳しいとは聞いたが……同時に、公平で真面目な教師とも聞いている。誰か一人にだけ厳しくするなど……ましてやリュカに対してだけ、というのは本来あり得ないはずだが……」


(でも、僕にだけ厳しいもん……)


兄様の言葉は正しいのかもしれない。でも、嘘をついていないのに疑われているみたいで、胸の奥が少しだけざらついた僕は、むっとして視線を逸らす。その先に見えたのは、装飾の施された大きな扉だった。


「兄様。ここが保管庫?」


「……そこは保管庫じゃない。ギャラリーだ」


離れに来ることもほとんどなく、どんな部屋があるのか分からない僕が尋ねると、兄様の答えはどこか歯切れが悪かった。


「ギャラリーって、絵が飾ってあるんだよね? どんな絵が飾ってあるの?」


何気ない質問のはずなのに、兄様は一瞬だけ躊躇い、それから静かに答える。


「……家族の肖像画などだ」


「本当!?ちょっと見てきて良い!?」


駆け出した僕は、兄様が止めるより早く、扉に手を伸ばしていた。


「待て!リュカ!」


後ろから制止の声が聞こえたけれど、既に扉を押して開けていた。すると、ひんやりとした空気とともに、壁一面に並ぶ肖像画が目に飛び込んでくる。そのまま中へ足を踏み入れると、兄様はそれ以上止めることもなく、何も言わずに後ろについてきた。


入口近くには最近の絵が飾られており、奥へ進むほど古い絵が並んでいる。進むにつれて、家族の姿が少しずつ若くなっていくのが何だか楽しい。


(……父様だけ、あんまり変わってない)


母様や兄様の姿には確かな変化があるのに、一人だけほとんど変わらない存在に、どうしても違和感を感じる。それでも、幼い頃の兄様の絵を見つけた瞬間、思わず頬が緩んだ。楽しい気持ちのまま奥へ進むと、しばらくして、僕はもう一つの違和感に気付いた。


「兄様?なんで、ここだけ絵がないの?」


一箇所だけ、ぽっかりと空いた壁。両隣には、子供時代の兄様の肖像画が飾られているのに、そこだけ何もない。僕が不思議に思って尋ねると、兄様は露骨に視線をそらした。


「そ、それは……」


「それは?」


滅多に言い淀むことのない兄様に問いを重ねた、その瞬間。兄様の喉が、小さく鳴った気がした。


「……いつまでもここにいては、保管庫で本を探す時間がなくなるな。私は先に行って探してこよう」


何も答えないまま、兄様は足早にギャラリーを出て行ってしまった。


(えっ……?もしかして、逃げた……?)


兄様らしくない行動に驚きながらも、置いていかれまいと、僕はその背中を追うように部屋の外へ飛び出していた。

お読み下さりありがとうございます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。