笑顔
「リュカ、何か体調に変わった所はあるか?」
仕事に出掛ける父様を見送った後、兄様から体調について聞かれた。
「大丈夫です!特に、何も変わった所もないので!」
「そうか…」
兄様の表情には、あまり変化がないのに、兄様が何処かほっとしたように、笑っている気がした。
「今日は、何か予定があるのか?」
「休みは、昨日までだったから、もうすぐフェリコ先生が来ると思います」
「そうか…」
ん?今度は、兄様が何処かがっかりしているような気がする?兄様の表情に変化はないのに、どうして兄様が、何を思っているのか、何となく分かるんだろう?
兄様は、学院が今日も休みらしく、いつも通り書庫で過ごすようだった。だから、部屋の途中で別れたけれど、何だか少し寂しそうだった。
「オルフェ様の表情ですか?」
「そう!フェリコ先生、分かる?」
フェリコ先生が、部屋に入って来た時、兄様の事を真っ先に聞いてみた。兄様の家庭教師も、やった事があるフェリコ先生なら、兄様の表現についても分かるのかと思ったのだ。
兄様が無表情なのは、何にも興味がないからだと、今まで思っていた。だけど、表情に出なかっただけ、という事が分かってからは、なるべく注意して見るようにはしていた。でも、何だか今日は、昨日よりも何となく、兄様が何を感じている事が、分かるような気がした。
「オルフェ様は、表情に出ないだけで、感情が乏しいわけではないので、何となく分かりますよ」
「父様や母様も?」
「ええ、分かっているようですよ」
つまり、家族で、兄様の事が分かってなかったのは、僕だけだったんだ……。
「でも、急に分かるようになったんですよね?最近、何かありましたか?」
何かあったかと聞かれればあったけど、フェリコ先生に話していいのかな?良いような気もするけど…父様から、周りには秘密にするように言われているしな……。
「どうかしましたか?」
「な、何でもないよ!!何もなかったよ!!」
「……そうですか」
フェリコ先生は、僕が嘘を言っているのに、気付いているようだったけれど、何も聞いて来なかったのでありがたかった。
それにしても、兄様には、少し悪いと感じるけれど、兄様の事が知れるなら、紋が出て良かったなと、思ってしまった。
夕食の席でも、兄様が何だか楽しそうにしている気がして、何だか僕も楽しくなってきて、何時もよりたくさん話していたような気がする。
次の日、朝食を終えてた僕は、書庫へと向かう兄様の後を追っていた。
「兄様!」
「どうした?」
呼び止めれば、兄様は僕の事を待っていてくれる。
「この後に、何か予定はありますか?」
「特にないが?」
「なら、今日、僕のピアノを聞きに来ませんか?授業でピアノを引くんです!」
「…いいのか?」
「はい!それに、ピアノを聞かせるって、約束したじゃないですか!」
「そうだったな。邪魔ではないなら…行こう…か…」
「はい!!」
そうして、僕達はフェリコ先生が来る前に、部屋へと向かったのだった。
「今日は、オルフェ様も一緒にいるのですね?」
「……」
「兄様は、僕のピアノのを聞きに来てくれたんですよ!」
「素直なオルフェ様なんて、珍しいですね?」
「…煩い」
「それにしても、良かったですね。リュカ様」
「はい!!」
授業中、兄様は何も言わずに、ただ目を閉じて、僕のピアノを聞いていたけれど、何処か楽しそうで、引いている僕も楽しくなっていた。
「兄様!どうでしたか!?」
授業が終わった後、兄様に演奏の感想を聞いてみた。
「リュカらしくて、良かった」
「!!?」
兄様の表情を見て、僕は驚いて固まった。
「何だ?」
「多分、オルフェ様が笑ったからだと、思いますよ?」
「私だって、笑う事はある…」
「それが、表情に出る事は、少ないですけどね…」
そう。兄様が、口元を緩めて、僕に笑いかけてくれたのだ!兄様の笑った顔が、もっと見たい!!
「兄様!もっと笑って!!」
「え…いや…笑えと…言われても…」
戸惑ったように、目尻を下げる兄様の表情も珍しくて、さらに兄様に色々駄々をこねれば、そのたびに表情が、僅かにだけど動くから、途中から楽しくなっていた。
「オルフェ様、良かったですね。リュカ様に、懐いてもらって」
「余計なお世話だ…」
「その割に、口元が緩んでますよ?」
「え!見たい!見たい!」
「…見なくていい」
何処か照れるように部屋を出た兄様を、フェリコ先生と一緒に、追いかけるのだった。
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