大丈夫じゃないです!
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そんな時、部屋の扉をノックする音が聞こえて、皆の視線が扉の方へと集まる。
扉の横にいたドミニクが扉を開けて、来客と何か話しをしていたが、声まではこちらに聞こえてくる事はなかった。話が終わったのだろうか、ドミニクがこちらの方へと歩いてきた。
「アルノルド様、医者が到着なされたようです」
「分かった。入って貰ってくれ」
リタが扉を開ければ、他のメイドに連れられて、背広を着た中年の男性が軽く会釈をしながら部屋へと入って来た。手にカバンは持っているものの、特に目立た所がない外見をしていた。今度、何処かですれ違ったとしても気づかないかも知れない。
男性は、僕が寝ているベットの横まで歩いて来ると、片膝をついてしゃがんだ。
「手をお借りしてもよろしいですか?」
「?」
言われるがまま手を指し出せば、医者はそっと僕の手を握った。すると、何処か体が暖かくなったような気がした。それは、つかの間では合ったけど、何だかさっきよりも体が軽くなったような気がする。
「特にお体には異常は見られません。念のために回復魔法は使用しましたので、今日のところはゆっくり休むのがいいかと思います。もし、何かありましたらいつでもお呼び下さい」
僕の手を離すと、医者はそう言って立ち上がって、両親に向かって一礼した。
「ありがとうございます。外までは、ドミニクに送らせます。ドミニク」
父様が目線を送れば、ドミニクは軽く一礼して、医者を連れ立って部屋を出ていった。
「まずは、リュカに何事もないようで安心したよ。リュカ、何かして欲しい事はないかい?」
「アルノルド様。リュカ様には、医者が言った通り休息が必要です。我々が、何時までも留まったら休めるものも休めません」
「…そうね。ドミニクの言う通りね。アル、リュカを休ませてあげましょう」
「……そうだね」
父様はまだ納得してなさそうな顔をしていたけど、母様の言葉に納得したようだった。
部屋を出て行こうとする父様に、これだけは言わなければと、父様を呼び止める。
「父様。一ついいですか?」
「ん?何かして欲しい事でもあるのかい?」
「違います。兄様の事です!」
「?オルフェが…どうかしたのかい?」
「どうしたもなにもありません!僕、ご飯の時とかにしか、兄様が父様達と一緒にいる所をあまり見た事がありません!僕ばかりじゃなくて、もう少し兄様の事も気にかけてあげて下さい!!」
いくら家の跡取りだからって、遊ばせもせずに毎日のように勉強続きなんて、兄様があまりにも可愛そうだ!兄様にだってもっと遊ぶ時間があったっていいはずだ!
でも、僕の言葉を聞いた父様は、何処か気不味けに僕から視線を逸らした。そんな父様を、母様は何処か苦笑するようにして見ている。両親の様子に、僕は訳がわからず首を傾げた。
「オルフェにも…色々と声はかけているんだよ……。前も、部下に仕事を押しつけ、じゃなくて、部下に仕事を任せて帰って来た時に、オルフェに家族で何処に出かけないか?と声をかけたんだ…。だけど…自分にかまう暇があるなら、仕事をして下さいと…叱られてしまったんだ……」
「………」
父様は、話の途中からしょんぼりと項垂れたように、視線を下に下げた。大人としては、なんとも情けない姿のはずなのに、見た目がいいせいか、周りに儚い雰囲気が漂って、絵になっているのだから謎だ……。
それにしても、父様…兄様に叱られたんですか…?
兄様に叱られたと、落ち込んでいる父様の姿を見ていると、この家は大丈夫なんだろうかと少し不安になってしまった…。
それにしても、部下に仕事を押し付けて、出掛けようとしていたら、兄様だって怒りますよ……。
「なら、兄様にもう少し、遊ぶ暇を上げて下さい…。僕は、勉強してる兄様しかほとんど見た事がないです……」
項垂れている父様に、兄様の勉強の時間を少しだけでも減らせないかとお願いしてみる。
「私も、オルフェには、子供らしく遊んで欲しくて、授業を減らそうとした事があるんだけど……。それらをするたびに、オルフェから、勉強の邪魔だけはしないで下さいと叱られるんだよ……」
父様はどれだけ兄様に叱られてるんですか!?
父様!そんなしょんぼりした目でこっちを見ても、僕は何も出来ませんよ!?母様も苦笑いしてないで、父様を何とかして下さい!
「アルは、ちょっと不器用な所があるのよね」
僕の視線に気付いた母様が、フォロー?したおかげで、父様の気持ちも少し持ち直したようだった。
「はぁ…。まず、父様は部下の方に家の仕事を押し付けずに、ちゃんと仕事を終わらせたら、兄様も一緒に出かけてくださる……と思います…」
兄様の普段の様子を思い出し、途中で自信がなくなる。
「ん?外には持ち出せない書類もあるから、家の仕事は城の執務室で私がこなしているよ?家の仕事は他の者には任せられないのが多いからね」
「?」
僕は、父様の言葉に首を傾げる。部下に家の仕事を押し付けたんじゃないの?
「だから、私が部下に任せているのは、宰相としての仕事だよ」
「!?」
僕の驚きをよそに、父様は不思議そうな顔をしていた。
「あれ?リュカに、言っていなかったかな?私は、城で宰相の仕事をしているんだよ?」
「父様!それ大丈夫何ですか!?」
父様の仕事に、今まで興味なんて持ったことがなかったから知らなかったけど、宰相の仕事をしていたなんて!それにしても、その仕事を部下に任せきりにして大丈夫なはずがない!
「大丈夫だよ。レクス、国王陛下が泣きながらやればいいから、何も問題はないよ」
爽やかな笑顔で言ってますけど、父様、何一つとして大丈夫じゃないですよね!?
まずは、仕事してきて下さい!!
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