21、嫉妬
ジョンさんに連れられて、海岸エリアの奥までやって来た。そこには名前の無い人の形をした黒いモンスターが立っていた。
「ジョンさん、あれは?」
「あれは悪魔に殺された人間の魂が変質した物だ」
ジョンさんはタバコを1本取り出すと火を付け、ゆっくりと煙を吐き出す。
「この国の伝説にもある7つの罪の悪魔や一部の上位種や変異種は殺した生物の魂を所持し変質させる能力を持っている。この能力を使い自分の配下を増やしていくんだが、1度変質された魂は悪魔達がいなくなっても消える事は無く永遠に現世を彷徨い続ける事になるんだ」
「どうするんですか?」
「魂を浄化するしかない。光属性の弾を創り出して浄化と唱えるんだ」
ジョンさんに言われた通りに光属性の弾を創り浄化と唱えた瞬間、魔導銃の銃身が少し伸びMPが殆ど無くなってしまう。
装填されている弾も1発だけだ。
「1発でも創り出せたなら上出来だ」
「この弾を当てればいいんですね」
「体の何処でもいいからその弾を奴に撃ち込むんだ。チャンスは1度だけだからよく狙って撃てよ」
僕は人型の黒いモンスターに向けて発砲する。
弾はモンスターの左胸に命中する。
「よし。そしたら飲み込まれないように気張れよ」
「どういう………」
僕の中に重く黒い物が入ってきて、一瞬でも気を緩めれば意識を失いそうになる。
魔物を中心に闇が溢れ出し僕を包み込む。
『何で私だけ…………』
闇の中で女性の声が聞こえる。
水色のローブを纏い、金の杖を持った女性は泣いていた。
『どうしてですか!?』
背後で女性が初老の男性に詰め寄る。
『私は巫女になる為にこれまで頑張って来たんですよ!』
『そうだがとある島国で君よりも適任の子供が見つかった。彼はまだ幼いが水の精霊に愛され、君よりも遥かに力がある』
『私は………、私はもう…………』
『今までお疲れ様。明日の朝までに神殿から出て行きなさい』
男性はそう言うと女性の静止の声を無視して去って行く。
女性はそれから旅をした。多くの国を周り困っている人達を無償で助け、人々は彼女を聖女と呼んだ。
『ここから出して!』
『黙れ魔女め!』
場面が変わり、彼女は暗い牢の中にいた。
目の前にはあの時の初老の男が立っていた。
『まったく、困るんだよ。ただの精霊使いである君が聖女なんて呼ばれてしまうとは、我々にとって君は邪魔な存在でしかない』
『聖女と呼ばれたという理由で私を処刑するんですか?』
『当たり前だろう。我々が判断して神殿から追い出された者が、聖女などと呼ばれている事など断じて認められない!我々教会が育てた本物の覡では無いといけないのだよ!』
初老の男は怒鳴り声をあげて部下達を呼び、一体の精霊を連れてくる。女性はその精霊を呼ぶが、精霊は彼女を威嚇すると水の矢を飛ばして攻撃までした。
『ウル!?何をしたの!』
『我々は何もしていない。精霊使いが契約を解除され、その精霊が街で暴れればどうなるだろうな?』
初老の男が笑い部下達を連れて牢の外へと出て行き、女性が必死で精霊の名を叫んだが答える事無く去って行った。
『魔女め!』『私達を騙していたのか!』
また場面が変わり、女性は処刑が決まり街を歩かされる。暴走した精霊ウルが覡によって倒され、教会は幼い少年を水の覡で世界を救う存在だと各国に発表し人々は水の覡の誕生を祝福した。
その逆に女性は人々から怨みの言葉をなげ掛けられた。その中には女性が助けた人達もいて彼等は女性に騙されたとか魔女だと人々に吹聴した。
処刑台に立たされた女性は絶望した。
自分は今まで何をしていたのか。人を助ける事はこんなにも無意味な事だったのか。
『何で私が…………』
女性は水の覡になった少年を思い出す。
『狡いわ』
才能が有り精霊に愛される少年に対して、女性は人生で初めて羨み、妬み、嫉妬した。
その嫉妬心が悪魔を呼び寄せた。
『素晴らしい。これ程に真っ黒で純粋な嫉妬心は見た事が無い』
悪魔は女性を見て笑う。
『私はルシファー、お前を大罪の悪魔として生まれ変わらせてやろう』
『来ないで!私に近付かないで!』
『怖がる事は無い。お前は力を受け入れ、裏切った者達に死と恐怖を刻み込んでやればいいんだ。すぐに私の与えた力に感謝する事になるだろう』
ルシファーという悪魔の手から闇が溢れ出して女性の中へと入って行く。
女性は助けを求めるが周囲の時間が停止している様で、誰も動かず女性を助ける者は誰もいない。
『誰か………助けて…………………』
闇に呑み込まれる最後まで女性は助けを求め続け意識が消滅した。
「見たな!」
闇の中にあの洞窟で会った黒いローブの女性が立っていた。女性は僕に近付くと首を締めながら狂った様に叫ぶ。
「許さない!許さない!あんたも精霊も神も皆、皆殺してやる!殺してやる!」
女性はそう言って力を込めていくが、闇が徐々に消えていき女性の体も透けていく。
そして闇と女性が消える前に僕を見る。
「助けて」
女性は最後にそう言うと完全に消えて無くなり僕も砂浜に戻って来た。
「無事だった様だな」
「ジョンさん」
「今見ていた物は魂の記憶だ。魂に深く刻まれた記憶の一部を浄化を通して見る事が出来るんだ」
ジョンさんは新しいタバコを取り出し火を付ける。
「あの禍々しい力と闇の気配からして相当高位の悪魔が関わっているみたいだな。これは近い内に厄介な事になる」
ジョンさんは僕にマガジンのパーツを渡してくる。
「試験は合格だ。そのパーツを使わないとしても今後役に立つ時が来るだろう」
「ありがとうございます」
「ソラ、今でも君の実力は相当のものだがもっと強くなるんだ。これから君の想像を超えるような大きな戦いが何度も起こる。何を言われているのか分からないだろうが、俺の言った事は忘れないでくれ」
ジョンさんは真剣な顔で僕に言うので、静かに頷くと満足したように微笑む。
「それじゃあ、俺はもう行くとするよ。また何処かで会おう」
「はい!」
ジョンさんが去って行くと同時にクエスト達成の報告が響いた。




