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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
最終章 適応者
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50/50

最終話 おはよう

 中学教育も終わり、卒業式が行われた。

 俺は半年近く授業に出られない時間があったので、一年遅れての卒業だ。


 俺と(精神的に)離れていた時期が長かった両親も泣いて喜び、俺もちょっと嬉しかった。


 けれど、俺の成長を伝えたい人はまだ、目覚めていない。


「……もうこの学校も使わなくなるな」


 校舎はまだ舟継島にある、グローバル接続が可能な建物の中で行われている。

 高等課程からはエアル・ヴェノスに新設された学校で行われるとガイダンスを受けた。そっち関係は早急に整える必要があるとの声が強かったらしい。


 俺はなんとなく、ステラと最初に出会った場所に向かった。

 もうBATTLE-ARMはほとんど起動しなくなったが、今でもプリセットには壁ジャンプ(すりぬけ)がセットされたままになっている。


「もう、本土にはいけないけど…… って、あれ?」


 物理的に舟継島のエリアは本土…… ディープ・アドバンスとは離れた場所に存在している。なので、以前のように階段下の当たり判定から他へ飛ぶことはできないはず…… なのだが。


「反応、してる」


 興味本位で近づき、試しに指を突っ込んでみる。


「反応したぞ? どこに繋がってるんだ」


 俺は懐かしくなってPM(プログラムモジュール)を起動した。




   ◇




 実行は一瞬で行われ、閉じていた目を開ける。


「あれ、ここって!?」


 見た目は、まるであの地下施設。

 しかしあちこちよく見るとわずかに違っている。


「……面白そうだな」


 なんとなく、ステラに出会った頃を思い出した俺はちょっとあちこち歩いてみることにした。


「どこかの艦内かな? 足音が反響してるから閉鎖空間だと思うけど」


 ひんやりとした長い廊下。ところどころで光る非常口のランプ。

 そこの見覚えのある扉の前で俺は足を止めた。


「……STELLA管理室?」


 以前ステラを見かけたときと同じような、奇妙な感覚を覚えた。

 しかし、STELLAの生成・管理はエアル・ヴェノスのほうで行われてるため、もし現役の施設ならここは艦内ではない。


「ってことは、今は使われてないはず――」


 そっと手を伸ばす。すると扉は左右に音を立てず開いた。電源は生きている。


 好奇心に身を任せ、中にはいると緑色の懐かしい環境光が部屋を埋め尽くしていた。設置されたモニタには幾層かの培養ケースが映し出され、STELLAボディの状態を確認できるようになっていた。


「……ステラも、新しい体だったら回復も早かったのかな?」


 その疑問は長く俺の中にある。

 けれど、そもそもステラの多次元素体(もとのからだ)が限界だったこともあり、今でも専門家ですらまともな結論が出せないらしい。レア中のレアケースなんだとか。


 まあ、地球人には理解できない世界なんだろう。


「あれ?」


 ふと、一番奥のモニタに目を向ける。

 他のモニタと違って、何かをインストールしているのか、終了間近のインジケータが細かく数字を増やしている。


「!?」


 俺はすぐそばにあった、どこか懐かしい物を目にして、慌ててその場をあとにした。

 インジケータはまもなく100%になる。


>【メモリーのアップロードが完了しました】





 歩き慣れたディープ・アドバンスの艦内を、俺は初めて駆け抜ける。

 誰かの叫び声が聞こえるたび「ごめんなさい!」と叫びながら走る。視線も顔も向かないままに。


 あの通路を、あの角を、あの扉を。

 なぞるように走り抜け、目的の部屋の前に到着すると、上がった息を整えてゆっくりと……


「あ、おはよう。みそら」


 窓から差す日の光が、彼女の横顔をより強く照らす。

 自分に向けられた懐かしい笑顔に思わず目頭が熱くなった。けど、それを何とか抑える。


「俺の、なまえ、覚えて……」

「そりゃそうだよ。大事な人の名前だもん」


 透き通った緑の髪は少し伸び、ルビーのように輝く瞳には、俺がしっかり映っている。

 たん、たん、と服に水溜りが浮かび上がる。


「心配かけたね。ごめん」

「あ、謝るなよ。俺は全然大丈夫だから」

「……あれ?」


 彼女はすっとベッドから降りると、俺の肩を掴んで立ち上がった。


「あ、危ないって!」

「やっぱり。背が伸びてる」

「そりゃそうだよ。あれから結構経ったん……」


 視線が合う。

 もうつま先を伸ばす必要もない。

 体重がかかるほどしなだれかかる彼女を支え、俺たちの影は失った時間を取り戻すかのように静かに重なり合った。




          完

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