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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第一章 島の住人たち
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第2話 ガラス管の少女

「なんだろ、これ――」


 ガラス管の周りは特に装置らしきものはない。他のガラス管は空っぽで、このなかの少女以外に情報を得られるものがない。


「し、仕方ないよな」


 俺はガラス管に近づき、彼女を観察する。


 大まかな体のつくりは俺たちヒトに似ている。ただ、髪はきらめく蛍光色のグリーンに染まっており、肌の色もかなり色素が薄い。目は閉じているので瞳の色は分からないが、どことなく吸い込まれそうな雰囲気を感じる。


 女性だと思ったのは彼女が服を着ていないからで、身体的特徴が露わになってることが理由である。うん、しっかり確認した。

 

「ちなみに…… 死んでる、のかな?」


 周囲を色々調べてみるも、整いすぎていて何もわからない。資料らしきものがないのだ。


『未知のアクセスポイントからメールを受け取りました』

「うゎあっ!? ……ミストル(お前)かぁ」


 突然ARMからメール受信の通知を受け取る。俺は網膜内のメニューからメール一覧を呼び出し、届いたメールを開く。


「なんだこれ、地図? あ、戻るルートが書かれてる! あと変な文字列があるけど……」


 文面は文字化けしているのか、俺には何が書かれてるのかわからない。しかし、ぼんやりと眺めているといきなり文字が読める文体に変わった。


『翻訳完了しました』

「え、え? ミストル?」

『言語ライブラリの取得に成功しました。以降同言語は自動的に翻訳されます』

「すごいな、お前」


 メールの文章は「明日また同じ時間に来てください」と表示された。

 え、これもしかして……


「きみが、くれた?」




   ◇



 

『学校の地下? 校舎データにはないけどなぁ』


 翌日、俺はクラスの友達に昨日のことを話してみた。


「そう。見たことない施設っていうか、なにか捕まってて、また来てくれ、ってスマホにメッセージが届いてさ」


 しかし、クラスの誰もがこの話を信じない。

 それよりも俺のARMが故障したんじゃないかと疑われるほうが多かった。


『大昔流行った「学校七不思議」かよ。古い電子書籍でも拾ったか?』

「……もういい」


 からかいに変わりつつあった会話を一方的に切る。

……放課後、もう一度見に行くか。




 部活前の同じ時間、俺はまた階段下にある壁の前に来た。


「あ、あれ? 壁が」

『壁ジャンプ(すりぬけ)がセットされてません』

「いやだから…… 待てよ?」


 俺はBATTLE-ARMの外部アプリ『PMプリセッター』を起動する。これはゲーム中に使えるPM(プログラモジュール)を、ゲームを起動せずに変更できるアプリだ。


「昨日はこの中にセットしてたPMが反応したんだっけ」


 セットを変更すると、たしかに壁抜けできるポイントが二重写しに見えるようになった。ゲーム画面と同じことが現実でも起こってるってことか?


「じゃあ、またここから?」


 壁の隙間に手を差し込むと、やはり「ペタッ」と平べったくなる。俺は構わず一気に体をねじ込むと、体がふわりと何処かへ飛ばされる感覚に陥った。


「う、あぁぁぁぁっ!?」


 突然体重が戻った感覚に襲われ、前回と同じ場所に転送される。昨日も似たような戻り方で帰ったが、この感覚はまだ慣れない。


「っと、あの場所は」


 保存したマップ画像を開いて、再びあの子の場所へと急ぐ。


「……いた、やっぱり」


 夢じゃなかった。今度はより確信を得て彼女に近づく。

 昨日は怖くてろくに調べず戻ったが、今日はここで時間を使う気まんまんだ。


「他のガラス管は空っぽなんだよな。何に使うつもりだったんだろう」


 円弧状に並ぶガラス管は昨日と変わらず緑色の光を放っている。

 そのうちの一つ手を触れてみると、ひんやりと冷たい。少女のガラス管は人肌ほどに温かかったので、単純に使われていないのだろう。

 手を離そうとした時、微かに振動が起こるのをガラス管から感じた。


 ぴし。


 ぴしし。


「あっ、この子ガラス管がっ!?」


 突如、『わぁんっ!』と腹の底から低い音が轟いた。それと同時に少女の目が大きく見開かれる。


「……朱い、瞳?」


 ルビーのように輝く瞳に気を取られていると、再び腹に響く低い音が轟き、少女の入っていたガラス管が破裂する。


「う、わわっ!?」


 破損に反応したのか、満たされていた羊水がガラス管の開放と共に排出されて彼女はその場に座り込む。俺は慌てて近づき、上着を着せるために屈んで抱き上げる。


「き、君…… 大丈夫?」


 腕の中でうっすら目を開けると、朱い眼差しが俺の目を貫く。心臓が射抜かれたのかと思うほどの衝撃を受けつつも、制服を脱いで彼女にかけてやる。


「え、えっと…… あーゆーおーけー? だったっけ」

「ア、ア…… ゲーン」

「え? なに??」


 彼女は必死に何かを訴えるが、ずっと喋らずいたせいか発声がうまくできないようだ。


「あん、ぽぅわ、れらら、っせれっぺんで、に」

『翻訳完了しました。「わたしをたすけて」と申されています』

「はぁ!? この子、何語喋ってたの!?」

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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