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エンデヴァー・プロジェクト  作者: 国見 紀行
第四章 真空の大海原
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第16話 ディープ・アドバンス

「船! 沈む! ちょ!!」

「落ち着きぃな。良ぉ見てみ?」


 つかみかかった八雲ねーちゃんに押さえつけられつつも、言われた通り周囲をよく見る。すると、船全体が透明なカプセルに包まれて水の侵入を防ぎつつ、徐々に水中へと下降を開始していた。

 反響する狭い部屋に押し込められたような閉塞感が耳を圧迫し、次いでゆらゆらと足元が揺らぐ感覚が三半規管を刺激する。


「う、うぐぐ……」

「あーら、乗り物酔いかいな? 無理せんとトイレ行ってき」

「う、う()


  船内に入って薄暗い通路を渡り、トイレに駆け込むと先ほどまで飲んでいたジュースが食道を逆流する。酸っぱいような苦いようなエグみが口の奥に広がり、さらに気持ち悪くなる。


「ぉお…… うぇっ……」

『だいじょぶかいな?』

「ええ、あ、ん…… え?」

『ん? どしたん?』


 唐突に知った声が耳元に響く。


「八雲ねーちゃん?」

『せやで』

「どこにいるの?」

『何処て…… まだ甲板におるけど?』

「ARMの音声通話って島の外でも使えたっけ?」


 一瞬沈黙が走る。

 再び聞こえたのは深いため息だった。


『……落ち着いたら甲板来てみ』


 ねーちゃんそれだけ言うとプツン通話を切る。呆れたような心配したような声だっただけに、俺は気になり胃の中を頑張ってカラにする。


「ていうか、どこに向かってるんだよこの船は……」


 自販機でお茶を買って軽く口をゆすぐ。飲み込まずまたトイレで流すと鞄に突っ込んで甲板へ戻る。扉を開けるときに『ごうっ』と空気が室内に流れ込んで開放を妨げて妙に重たい。


「よ、っせ…… と。ん、ん?? はぁあ!?」


 やっとの思いで外に出ると、周囲は既に水中ではなくなっていた。

 それどころではない。


「なに、あれ……」

「その顔は、メインドックに来るのも初めてっちゅう感じやな。ま、ウチもやけど」


 船が浮かんでいた水が抜かれ、左右をアームで掴まれた透明なカプセルは、片側がガラス張りになったパイプ状のエレベータを下へと移動していた。

 周囲はグレーの鉄板で囲まれ、島の学校よりも広い空間が広がっていた。はるか下を覗き込むと、乗っている船よりさらに大きな飛行機が数台並んでおり、空港さながらの様相を見せている。

 ……いや、あれは飛行機ではない。ネットアニメや電子漫画で見たような宇宙船が所狭しと並んでいるのだ。


「なに、ここ」

「メインドックやって言ってるやん。大人数を一気に収容できる区画を用意できるまで、ここで待機なんやて」

「いや、そうじゃなくてさ」


 船が最下層に到着する。カプセルが開いて空気が入れ替わると潮の香りは完全に消えて鉄錆の強い匂いが鼻を掠め、先ほどとは全く違う空間であることを認識させられる。

 誰も動こうとしない中で大人しく待っていると、接舷した金属の岸から金網のタラップが下り、こちらが船から下りるより先に女性が甲板に乗り込んできた。


『避難船に乗船されている皆さん、私は副艦長のピア・ノーラと申します。皆さんのための避難民収容施設が完成するまで、今しばらくこの船に乗船したままお待ちいただきます』


 女性は茶色の髪を後ろで束ねたビジネスウーマンを彷彿とさせ、白いブレザーに動きやすそうなズボンを履いている。声の張りもARMを通じたとはいえよく通る気持ちのいいものだった。


「ふくかんちょう、さん?? どういうこと?」

「そら宇宙船やし、副艦長くらい()るやろ?」


 八雲ねーちゃんは顎で周囲をくるりと指し示す。


「もう地球を出発して十二年。……って、そうなるとみそっちは地球のことは覚えてへんか」

「え、え? どういうこと?」

「学校でもさらっと()ろたやろ? この宇宙船は小さい有人島『舟継島』を内包した超巨大恒星間航行宇宙船、その名も『ディープ・アドバンス』やん」

「だから、島から出たことないからわかんないって!」


 確かに、小学校の頃社会の授業でなんとなく習ったのは覚えてる。

 だけど、島から出たこともなければ地球の生活なんか覚えてない俺にとって、あの島がすべてだった。

 今更「はい、やっぱり宇宙船です」って言われても実感がないんだよな。


「そらそうや。舟継島は非乗員用の永住居住区やしな。滅多なことで本土…… いわゆる艦内には入れへんことになっとるんやし」


 そんな話をしていると、副艦長さんが一緒に来ていた軍服姿の男性と何やら話を始めた。甲板の避難民をぐるりと見渡すと、一人一人に言葉をかけていく。物々しい雰囲気で場が静まる中、その内の一人がこちらに向かってきた。


「君が巡里くんかな?」

「は、はい」

「悪いが私たちと一緒に来てもらいたいところがある。構わないかね?」

「?? ……わかりました」


 そのまま俺は副艦長さんと一緒に船を降り、彼女らが乗ってきた電動自動車に乗せられてそのまま船の内部へと連行された。

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