見てる人
目を瞑って思い浮かべる。
「髪は黒髪、背は……そこに貼ってある薬物に手を出すな!ってポスターあるでしょ? そのくらいの高さかな。同じ学年でリュックに白いモコモコした犬のマスコットを付けてる」
「うん、うん!」
食い気味で前のめり。
「その人のことが好きですよね?」
「えーっ! なんでわかるの!?」
俺の前に座ってる女の子がキャーーッと真っ赤になってる。
「どうかな? 脈ありそう?」
女の子がちょっと声を潜める。
「言いたい? それとも言われたい?」
俺が問う。
「言われたい」
「それなら待ってていい」
「え……」
「その人もあなたのこと好きだと思うよ」
「キャーーッ!」
めっちゃ喜んでる。
「来てよかった!『見える人』って本当なんだね! ありがとう!」
と言ってスポドリをくれた。
どうも。
次に来た3年の先輩は直球だった。
「俺さ、好きな子いるんだけど、その子に告っても大丈夫だと思う?」
と相談された。
目瞑って思い出す。
この先輩は一方通行じゃない。
相手もちゃんと先輩を見てる。
でもだいぶ奥手のようだ。視線の数はそれなりにあるがちょっと弱々しかった覚えがある。
自信がないみたい。
ふむ。
「おとなしい感じの人ですね」
「そう!」
先輩が驚いてる。
「自信がないみたいです。先輩から伝えた方が良さそうです」
「告っても大丈夫そう?」
「自分に自信がないだけで先輩のことは好きだと思います。だから大丈夫です」
「マジ? 俺、自信なくてさ、でもちょっと勇気出たわ。ありがとな!」
またスポドリを貰った。
どうも。
俺は人間観察が好きだ、もはや趣味、特技と言っても過言ではない。
それに加えて好奇心旺盛で野次馬や噂話、恋バナが大好き。人の顔を覚えるのも得意だ。
学校で人間観察していると、時々おや? という場面に出くわすことがある。
人の視線が無意識に互いに向きあってることに気づくのだ。
更に観察を続けるとそれが確信に変わる。
ああ、なるほど。あの人とこの人はそういうことなのかと、それを発見するのが面白くてたまらない。
ある時、同じクラスの友人、高田にそれが起きた。
ほうほう、そういうことね。
俺は高田に、
「近いうちにいいことあるかもよ」
と匂わせた。
「何それ?」
「まあ期待してなよ」
「訳わかんねえな、笠原は」
と軽くあしらわれた。
数日後。
「笠原、お前が言ってたのってこのことだったのか!」
と高田が登校した俺をハグしてきた。
好きだった子から告られたと言う。
ほらな。
高田のことを熱い目で見つめている女の子がいた。
一方通行ではない、高田も見てる。
次第に女の子のその視線が強く感じるようになった。
これは告るな。
そう感じとったのだ。
見事ビンゴ。
高田には申し訳ないが、俺はそれをゲームとしか捉えてないし面白がってるだけだ。
しかし高田は俺を神と崇めて大喜び。
その噂が広まり、いつしか俺は『見える人』と呼ばれて、
「見てもらえませんか?」
と相談されるようになった。
『見える人』じゃなくて『見てる人』なんだよなあ。
俺も! 私も! と俺のところに来るが、全員を見てるわけではないし、進路を相談されても困る。
俺は予言者ではなく見たままを言ってるだけのリアリストだ。
全然知らない人や、恋の気配がさらさらない人に相談された時には、
「今はタイミングじゃないみたいですね」
と伝えている。
知らねえよと言ってしまうのは簡単だが、人を傷つけるのは趣味ではないので、上手い言い方を探してこれに辿り着いた。
さっきの女の子や先輩は、高田のパターンと同じだった。もう時間の問題、どっちかが告れば成就するだろう。
そういう人たちを後押しするのは俺も気分がいい。
「なかなか盛況じゃん」
その声は山野。
山野も同じクラスで仲良くしてる友達だ。
「見たことをそのまま言ってるだけなんだけどね」
「でも当たるんだろ?」
「たまたまだと思うよ」
「たまたまでスポドリ貰えんの? いい商売だな」
「商売じゃねえって」
俺の前に座り、コーラのペットボトルを置く。
「何これ?」
「それやるから俺も見てくれよ」
「は?」
「俺には何か見えないの?」
「そんなこと言われても」
「ほらほら、ちゃんと見ろよ」
そう言って俺をじっと見る。
見えるよ。
いつも見てるから見える。
俺の視線はいつだって山野、お前に向いてる。
でもその視線は一方通行で、友達として絡む時にしか交わることはなかった。
人の恋なら探れるけど自分の恋は探っても何も出てこない。
虚しすぎる。
救いは山野を見てる視線が一人だけなこと。
つまり俺だけ。
それを言うと山野はがっかりしそうだが、俺にとってはこれほど嬉しいことはない。
「今はタイミングじゃない」
見えてないし、本当にわからないからそう答える。自分にも言い聞かせる。
「なんだよ、詐欺じゃん」
「詐欺じゃない」
「そのタイミングはいつかわかる?」
え?
タイミング?
タイミングって告りたい人でもいるのか?
そんな視線、お前から感じないぞ? 見えてないぞ?
「無理」
「じゃ、これは没収」
コーラは取り上げられた。
無理か……
笠原は誰が誰を好きかがわかるようで、高田が告られることを予言して、一躍有名になった。
本人は、
「見たことを言ってるだけ」
と言い張っているが何かしらの能力があるのではないかと俺は思ってる。
人の心が覗けるとか。
あいつはよく人を見ている。
見られたら全部暴かれる。
俺の心を覗かれたら困る。
そう、困るのだ。
俺が笠原を好きだなんてバレたら困る。
だって脈がないのにそんなことがバレたらどうすればいいんだ。
同性だし、友達だし、気持ち悪い、友達でいたくないって言われたら俺は死にたくなる。
笠原に悟られないよう俺はいつもあいつのことを背後から見ていた。
これならバレないだろうと俺はこうすることにした。
笠原は人を観察するのに夢中で、自分が観察されていることには全く気づいていなかった。
これでいい、これなら俺はいつでも見ていられる。
でも……
本当は覗かれたい。
覗かれて全てぶちまけたい。
そんな方法でもいいから伝わればいい。
笠原のことが好きだと伝えたい。
無理。
いや、無理じゃない。
タイミングは自分で作ればいい。
そうだ、時間は有限。
とりあえずあいつにこっちを見てもらわなくては何も始まらない。
「やっぱりこれやるよ」
さっきのコーラを笠原に渡す。
「マジ? 炭酸飲みたかったんだよね、ありがと」
遠慮なく受け取る笠原。
ブシャーーッ!!
「うわっ! 何だよこれ!
山野てめえ!」
コーラをめちゃくちゃ振っておいた。
コーラまみれで笠原は怒ってる。
「うははは!」
笠原は残ったコーラを俺にかけようとする。
こっち見た。
目が合った。
俺の心を覗け。
覗かないなら俺が晒す。
「俺を見ろよ」
「え?」
「俺はいつもお前を見てる」
「え……」
「気づけ」
コーラまみれで立ち尽くす笠原。
「……だったら見えるところで見てくれよ。わかんねえよ」
「ここならいいか?」
笠原の正面に立つ。
「ちゃんと見てくれ、お前しか見てないから」
「……」
「心覗けるんだろ?」
「覗けねえよ、そんな能力ない」
マジか。
「じゃあ晒す。笠原が好き」
笠原の顔についたコーラにキスする。
「マジか……」
「マジ」
急に笠原が正気に戻る。
「これどうすんだよ」
制服がベタベタだ。
「ジャージに着替えるか」
「ジャージで電車とか萎える」
「俺んち寄れば?」
「……」
「来いよ」
「……展開早すぎねえ?」
ふはっ!
「ダメ?」
「……いいと思う」
俺を見ててよ、ずっとお前を見てるから。




