公園
子どもたちの元気な声が響く、昼間の公園はいつも賑やかだ。
そろそろ昼時、弁当持参の親子連れがあちこちでシート広げて楽しそうに弁当を食べている。
俺の会社はこの公園の目と鼻の先。
社食も飽きてきたので最近は昼になると外に出て、キッチンカーなどで買ったものをこの公園のベンチに座って食べることが多くなった。
雨の日はさすがに社食にするが今日みたいに天気がいいと気持ちがいい。
毎日のように公園に来ていると、あの人また来ているなと顔馴染みが増える。
顔を知ってるだけでどこの誰かもわからない。
わかるのは顔と性別だけ、正確には本当の性別なんてわからないけど見た目の性別で判断してる。
俺はいつもキッチンカーの近くのベンチに座る。近いと楽だし。
公園にはたくさんのベンチがあって大体昼は同じメンバーになるということに気づいてきた。
キッチンカーの反対側にいつも来るサラリーマンがいる。
俺と歳は変わらないように見える。
そいつもキッチンカーで飯を買って食べている。
ちょうど向かい側に座るから嫌でも目に入る。
ある日子どもが蹴ったボールがそいつのところに転がっていった。
すぐに気づいて拾ってやるがその子の母親に、
「投げてもらえますかー?」
と言われて投げたのだが、明後日の方向に投げていて子どもと母親が慌てて拾いに走っていった。
鈍くせえ。
頭を下げて謝ってるそいつを子どもが笑ってる。
「おにいちゃん、へたくそ」
母親がこら! と言いながら笑いを堪えてる。
俺も吹き出しそうになる。
かと思えば、秋の心地いい風と少しポカポカした陽気に誘われたのか、食事を終えるとそいつはウトウトし始めた。
わかる、わかる、眠くなるよなと思いながら俺は本を読んでいた。しばらくするとそいつのスマホからけたたましい音楽が鳴り響く。誰もが知ってるネズミーの音楽だった。
どうやらアラームをセットしていたらしい。
その場にいた子どもたちは即座に反応し
「◯ッキーだ!」
と大はしゃぎ、みんなで大合唱。
当の本人は大音量に驚き、慌てふためきスマホを落とす。更に慌てるもんだから全然音楽は鳴り止まない。
ママさんたちは声をあげて笑ってる。
俺も本に隠れてめっちゃ笑った。
それからというもの、そいつのやらかしは止まらない。
膝の上に弁当を広げて食べてる最中に、なにかが気になったのか手で払おうとして膝の上の弁当をぶちまけたり、スマホと缶コーヒーを両手に持ってスマホを飲もうとしたり、以前、子どもに、
「へたくそ」
と言われたのを気にしてるのか、フリースローの投げ方のフォームを随分練習していたが、いつの間にか素振りの練習に変わっていて、ママさんたちに、
「なんで打つ方? サッカーボールだよ?w」
と密かに爆笑されてたり、とにかく見ていて飽きない。
鈍くさすぎるこの男が面白すぎて気になる。
また面白いことが起きるのではと、つい見てしまう。
そんなことをしていたらそいつもだんだん俺の存在に気づき始め、あまりに目が合うようになったので、お互い気まずさもあり、会釈をするようになった。
相変わらずそいつは定期的にやらかしてくれるので、俺は笑いのツボを刺激され表情筋が緩みっぱなしだ。
子どもやママさんたちにも『おもしろいおにいちゃん』として認知されている。
秋風は冷たさを増し、北風へと変わり始めた。
そろそろ公園で食べるのも限界かなと思い始めている。あれだけ響いていた子どもたちの声もだいぶ少なくなっていた。
あの鈍くさい男ともお別れだなとちょっと笑う。
と同時にほんのちょっとだけ寂しいなとも思った、ほんのちょっとだけ。
そう思うと気になっちゃうし、見ちゃう。
目が合う回数が増え、会釈をしても何度も何度も見てしまう。
俺だけでなくそいつも。
来週から社食に切り替えよう、そう思って公園に来て北風に吹かれながら食事を取る。
温かい缶コーヒーを飲んでいるとコートの裾あたりを引っ張られる感触があった。
女の子がいた。
たしか『ももちゃん』と呼ばれている子だったと思う。
「なに?」
と声をかけると、
「こっち」
とコートを引っ張る。
こっち?
ベンチから立ち上がるとももちゃんの母親らしき人が来て、
「すみません、来てください」
とももちゃんと一緒にコートを引っ張る。
「なんなんですか?」
「いいから来てください、あとで謝ります!」
は?
謝るなら今謝れ。
向かい側からは俺と同じように子どもとその母親らしき人に引っ張られてる鈍くさいあいつがいた。
こっちのベンチとあっちのベンチの真ん中あたりで引き合わされる。
そいつを引っ張ってきたのはももちゃんとよく遊んでる『あーくん』と呼ばれている男の子とその母親だった。
ももちゃんが、
「つれてきたー」
と言うと、
あーくんも、
「ぼくもつれてきたよ!」
と得意げに言う。
ももちゃんとあーくんのママさんたちは、俺たちを引き合わせると、
「もう見てられない! いつまでぐだぐだやってるのよ、季節変わっちゃうじゃない!」
「大きなお世話なんて分かりきってますけど、世話しないとあなたたち動かないでしょ? 特にこの人鈍くさいし」
とナチュラルにそいつをディスる。
「あの……これどういうことですか?」
とそいつが聞く。俺も同意見だ。
ももちゃんとあーくんのママさんたちは盛大にため息をつくと、二人でこう言った。
「気になってるんでしょ?」
え?
思わずそいつと顔を見合わせる。
あ……なんか照れる……なにこれ?
俺どうした?
そいつも下向いて真っ赤になって照れてる。
「ほら、これだよ。ちっとも進展しない!」
「見させられてるこっちがヤキモキするからさっさと知り合いになればいいじゃない!」
ほら! とママさんたちに促される。
どうすればいいんだ? そうだ、名刺だ。
「あの……俺こういう者です……」
と名刺を差し出そうとしたら、
「商談じゃないんだから! 電話番号とかLINEとかでいいでしょ!」
と怒られる。
ママさんたちの勢いに負けてLINEを交換する。
「はあーーっ、やっとだよ」
「どれだけ時間かかってるんだか」
二人のママさんはそう言うと、
「余計なお世話なのは重々承知してますし、無礼なのも理解しております。強引なことをして大変申し訳ございませんでした」
とさっきまでの砕けた調子とは全く違うトーンで深々と頭を下げる。
思わず、
「いえ、そんな滅相もない!」
とこちらも二人で頭を下げる。
ママさんたちは、
「夜にでも飲みに行ったらいいんじゃないですか? 大人ですし」
とにっこり笑う。
ももちゃんとあーくんも、
「おとなですし~」
と声を合わせる。
ふっ
ふふっ
「そうですね」
「行きましょうか」




