表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/17

口実

「よう」


「あ、どうも」


「ロイ、元気か?」

「ランちゃん、いい子だね」


大知(だいち)くんと知り合ったのは、こいつらがきっかけだった。

大知くんの飼い犬、黒柴のロイが俺の飼い犬の柴犬ランに興味を持ってすり寄ってきた。


「すみません! ごめんなさい! すぐ離します! こら、ロイ、やめろ!」

「大丈夫ですよ、仲良くなりたいだけみたい」

「いや、でも……」

「ほら……って、ちょっと待て! ラン!」

「やっぱり! ロイッ! ダメだ、離れろっ!」


ロイくんとランが交尾しようとして慌てて止める。


「本当にすみませんでしたっ!!」

ロイくんを抱き抱えて……というか力ずくで押さえ込んで、ほぼ地面に這いつくばるような格好で謝りまくりな大知くん。


こっちはこっちでランがロイくんに近づきたくて仕方がないのを抑えるのに必死で、

「こちらこそ申し訳ないです!」

と二人して犬に振り回されながら謝るという出会いだった。


家が隣町で散歩コースが同じ、俺が高3で大知くんが高2で一つ違い、犬たちだけでなく飼い主たちも仲良くなるのに時間はかからなかった。


それ以降、特に示し合わせているわけではないが、散歩中に会うと二人でよく話すようになった。

音楽の趣味が似てたり、二人ともサッカーが好きだったり、なにより柴犬好き同士なので、会話に困ることはないし学校の友達とちょっと違って楽しかった。


共通点は多いけど一つだけ大きく違うのは大知くんには彼女がいる。

写真を見せてもらったけど、めっちゃかわいい子だった。

つーか、大知くんがなかなかのイケメンだし性格も温厚だから、モテないはずないよなあと彼女のいない俺は羨ましい限り。

時々惚気られるのが腹立つけど微笑ましい。



欧雅(おうが)くんはもう大学決めてる?」

ロイくんと同じ顔した大知くんがこっちを見て聞く。

犬と飼い主が似るって本当なんだなと笑っちゃう。


ふっ

「なんで笑ってんの?」

「いや……w本当にロイくんと大知くんそっくりだよねw」

「それよく言われるw」

「二人とも笑ってる顔だからかな?」

「みんなそう言うんだよね」

「マジで似てるんだよw」

「ランちゃんと欧雅くんはあんまり似てないね。髪と毛の色が似てるけど」

「毛w茶色ってことかw」


「で、なんだっけ? 大学?」

「そう」

「俺は獣医になりたいから、そっち方面に進む予定」

「へえ、獣医か」 

「うん」

「俺は血とか怖いから無理だ」

ふっ

「ロイの注射でさえ怖くて目逸らしちゃってるもん」

「ふはっw」」

「欧雅くんすごいね」

「動物好きってだけじゃ甘いんだろうけど、小さい頃から憧れてたから」

「じゃあ欧雅くんが獣医になったらロイも診てもらおうな」

ロイくんが大知くんに戯れる。


「大学は都内?」

「学費のこと考えると国公立狙いたいんだけど、親が許してくれたら北海道に行きたい」

「北海道! なんで?」

「こっちにはいない動物もいるし、なんとなく本場って感じしない?」

「本場w」

「親は受かればいいよとは言ってくれてるから出来れば行きたい」

「ということは卒業したら会えなくなっちゃうんだね」

「受かればね」

「ちょっと淋しいね。ランちゃんも淋しいよね?」

とランの頭を撫でる大知くん。

ランもすっかり大知くんに懐いている。


ただの犬友達なんたけど、いざこれが無くなると思うと確かにちょっと淋しいな。



散歩コースは川沿いの整備された遊歩道。

俺たちは春は散歩がてらにお花見したり、夏は暑すぎて歩けないから夜気温が下がってから散歩してた。

その頃になると俺も受験勉強も本格化してて、散歩に行けない日もあった。

ランがリード咥えてきても、

「こめんな、今日無理かも」

と言っても玄関でずっと待ってるから、俺の代わりに親父や母さんが行ってくれてた。

大知くんには散歩に行けないとか連絡はしてない。

だってたかが犬の散歩だもんな、連絡するほどのものじゃないよな。


でも今度大知くんにあったらこの話しようとか、あそこの店のパン美味いんだよって教えてやりたいなとか、大知くんに話したいリストだけがどんどん溜まっていって、久しぶりに会えるとランやロイくんそっちのけで話しちゃって、誰のための散歩なのか?って状況になってたりする。


ランは口実で、俺が大知くんに会いたいんだって思うようになってることに気づいたのは秋の終わり頃だった。


ランの散歩は勉強に集中しろと親父と母さんが率先して行ってくれるようになった。


ある日散歩から帰ってきた親父が

「ランは仲良い子がいるんだな」

と言ってきた。

「ん?」

「お前知ってる? 黒柴のかわいい男の子」

「ロイくん?」

「そうそう! ロイくん! ランがすり寄って行っちゃって離すの大変だったよ」


相変わらず仲良いんだな。

「お前くらいの男の子に『欧雅くん、今大変な時期ですよね、頑張ってくださいって伝えてください』って言われたぞ。知り合いなのか?」

大知くんだ。

全然会えてないな……

「うん、犬友達」

「ロイくんとその子顔がそっくりだな」

「あははは! そう、似てんだよ」


ちょっと会いたくなっちゃった。


12月に入ると本格的に寒くなってきて、親父も母さんもランの散歩を渋り始めた。

「あったかい日だけでいいだろ?」

そんなのランには通用しないよ。

「たまには俺が行くよ、気分転換になるし」

「行くなら暖かくして行きなさいね」

「わかってる」


久しぶりのランの散歩。

空気はキンと冷たいけど、ランは元気だ。

引っ張られるようにランに付き合っていると、川沿いのベンチに見慣れた背中を二つ見つけた。


ふっ

後ろ姿までそっくりってなんだよw

絶対大知くんとロイじゃん。

そっと近づき、後ろからスマホで写真を撮る。

そのシャッター音に気付き大知くんとロイが振り返る。


「よう!」

と声をかけようとしたのに出来なかった。

大知くんの顔には笑顔がなかった。


「あ……欧雅くん」

「久しぶりだね」

「うん……」

元気がない。

「なにかあった?」

聞いてしまった。


ちょっと間が空いてから、

「彼女に振られちゃった」

と大知くんは言った。

振られた?


「……ランちゃんかわいいんだよって話ばかりしてたら誤解されちゃって……」

「ん?」

「他の女の子のことだと思ったみたいで物凄く怒っちゃって……」

「うんw」

「犬だよって写真見せたら納得してくれたけど、『じゃあ欧雅って誰? なんでその人の話ばかりするの?』ってまた怒られて……」

え……

「ランちゃんの飼い主だよ、男だよって言っても、『だったら尚更気持ち悪い! いつもその人の話ばっかりじゃない! そんなのもう好きじゃん!』って振られた」

「……」

「俺、そんなに欧雅くんの話してたのかなあ」


あははと力無く笑う大知くん。

「あ、そうだ、これ」

そう言って何かを差し出す。

「なに?」

「お守り」

「俺に?」

「うん、受験頑張ってね」

「ありがとう」

「北海道行っても時々ロイのこと思い出してやって」


「変えたんだ」

「え?」

「北海道には行かない」

「え?」

「こっちの大学に行く」

「どうして?」

「俺が淋しいから」

「え?」

「大知くんに会えないの淋しくて嫌だから」

「でも……」

「こっちでも学べる」

「……」

「側にいたいんだ」


「大知くん、ランがいないと俺と会ってもらえない?」

「え?」

「犬の散歩じゃなくて、二人で会いたい」

「……」

「気づいたばかりなんだけど、俺、大知くんが好きなんだと思う」

「……」

「気持ち悪い?」

「……ううん、嬉しい」


泣き笑いの大知くんの笑顔はやっぱりロイくんそっくりで、そっと繋いだ手は温かくて離したくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ