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【第二部完結】新たなセカイの神話  作者: 御誑団子
黒い影
30/59

怪異殺し

 死体の山の中から裕を抱きかかえ、抱きしめる。

 吸血鬼の赤い瞳が咲哉を捉える。白髪の壮年の男性、金髪のホストみたいな男と、口が悪そうな美人の女が一堂に振り返る。

「あぁ?なんだてめぇ?」

 呼吸は弱く脈拍は遅い。死にかけでも、まだ助けられる。

「誰だって聞いてんだろうが!?」

 声がする方に咲哉は振り向かない。今は裕の応急処置をするので手一杯なのだから。

「質問に答えられねぇのかよこの豚!」

 振り上げられる拳、真っ当な人間なら木っ端微塵になる怪力を振るう若い男の吸血鬼は横から飛んできた拳によって壁まで飛んで行った。

 同時に、拳が触れた部分が酷い火傷に似た傷になり、声にならない悲鳴、見た目以上の痛みが全身を突き抜けた。

「こ、れ、聖職者の力か!」

 咲哉と裕を守るようにアインと冬樹が駆けつけた。

「吸血鬼かこいつら……、やるぞアイン」

「分かってるです。というか、さすがに腹が立ったです」

 二人ともその眼には怒りが見える。

 助けてください。そう言われた以上誰一人として見切りをつけるつもりはなかった。だが、彼、裕にはあった。自分を切り捨ててみんなを救うという覚悟があった。それが無為に終わるもの、無駄になってしまうもので、そんな覚悟を思わせてしまうほど追い詰められたその環境は看破出来ないものだった。

 故に覚悟を知らなかった三人は怒る。悟れなかった自分たちを、そんな環境を作り上げた元凶を。

 殴り飛ばされた吸血鬼はゆっくりと起き上がりながらアインを睨みつける。

「てめぇ」

 今にも襲い掛かりそうなその男を女は嘲笑い、壮年の男は止めた。

「やめよ、ヘリス。ここまで肥え太った『人』は久しい。ちょうど三体居るのだ。一人一体、食おうではないか」

「じゃ、わたしはあの茶髪ね。筋肉質なのは血が生臭いし」

「……俺様はデカブツか。フォルテのおっさんはアルビノ好きだもんな」

「あぁ」

 だらしなく、下品に涎を垂らし卑下た笑みを浮かべる。

 虫唾が走る。吸血鬼は人間を捕食する側で、人間も豚や牛を食う側であるから文句はないが、食欲を向けられるという事がここまで気持ち悪いとは冬樹もアインも思いもよらなかった。

 冬樹はもう既に星を三つ展開させ、アインもその肉体に吸血鬼退治の奇跡を宿す。

 その後ろで、咲哉が裕を抱えて立ち上がった。

 傷口をレーヴァテインから習ったルーンの魔術で傷口を塞ぎ出血を止めた。けれど心拍は弱い。抜けた血の量が多すぎた。

 この状況から助けるには輸血しかない。しかないが、血液型が分からないのに誰かの血を入れる訳にもいかない。

 専門家、すなわち医者、十輪に見せなければいけなくなっていた。

「冬樹、彼をよろしく」

「え、いやよろしくって」

「こいつらは『僕』がやる」

 咲哉が吸血鬼共を一瞥する。瞬間、死の錯覚させる悪寒が走る。

「怪異殺しの本領だから。こんな雑魚に遅れはとらない」

「いいんです?」

「……死ぬなよ、分かったな」

「あぁ」

 咲哉の雰囲気が明らかに豹変している。殺意殺気に満ちたその瞳は鮮やかな朱色に輝く、吸血鬼の瞳と違って宝石のようだった。

「行って」

 アインと冬樹が駆け出し、それを女の吸血鬼と男の吸血鬼が追う。

 刹那、吸血鬼の足が切り落とされる。黒い閃光と共に。

「ほう……」

「なん……こいつ、俺様の足を!」

 咲哉の手には黒く染まった紙が人差し指と中指で挟みこまれていた。

 それは咲哉の拡張斬撃、刃の延長線上にも斬撃を届ける咲哉の特殊技能。

「貴様、もしや天上か」

 壮年の男性、フォルテと呼ばれた男が笑って語り掛ける。

「フォルテ、久しぶりだな」

 その言葉に一切、眉一つ動かさず返す。

「は、ははは、随分とワシ好みの姿になってくれたな」

「そっちはそっちで相も変わらず気持ち悪いな」

 大きくため息をついて、咲哉は言葉を投げかけた。

「無駄話は終わりだ。アリスをどこにやった」

「……食った」

 動揺しない。予想の範疇だから。だが……。

「真祖を食った。肉も骨もその体を犯し尽くした上でな」

「力を奪ったのか」

「無論だ……」

 その時だったと思う。咲哉の殺意や殺気はより明確なものへ変わる。刺々しかった雰囲気が鋭く切り裂かれるような感覚へ変わる。

 その上で、珍しく少しだけ咲哉の顔が怒りに歪む。

「……フォルテ……、そいつはお前が好きにして良い女じゃない。……覚悟は出来てるよね?」

 その手には刀が取り出された。小さな門から吸い寄せれるように、意思を持っているかのように。




 赤い鳥居型の門を冬樹とアインが潜ると同時に閉じる。自動感知かもしくはタイミングを計ったか、どちらにせよ普段から口の悪い冬樹がより一層口汚くなる。

「あんのバッカぁ!?」

「前やったやつ!やるです!」

「わぁってるよ!」

 すでに虫の息の祐に最大限の注意を向けながら冬樹が三つの星を三角形に並べる。すると、その星は外と繋がった。

「咲哉の門の疑似再現だ!アイン、お前だけでも咲哉の門の手助けをしてやってくれ」

「はいです!」

 靴を脱ぐ暇はない、土足のまま居間に上がり込み横にして生存活動(バイタル)を計る。

「……弱い……咲哉の措置のお陰でなんとか生きてんのか」

 脈も息も弱く、顔色もこれが真っ青と言わんばかりに血の気がなかった。

 妹の奏は死にかけの兄の姿を見て手を伸ばしながら必死に兄の名を呼ぶ。

「だ、大丈夫、きっと」

 体が冷たい。火の近くに連れていき手で祐の体を擦る。

 焦ってしまう。けれど焦っても仕方ない。咲哉が帰ってこないとレーヴァテインの所へは繋がらないのだから。

 いや、この状況の人間を仮に高度医療技術をもつレーヴァテインと十輪に見せて助かるのだろうか?

「……血液型……」

 輸血には血液型を知っておく必要がある。この子は、自分の血液型を知っているのだろうか?

 輸血で命が助かるなら咲哉が裕を連れてレーヴァテインの所に門を繋げれば済む話だ。それでは助からないから、賭けに出たんだ。

 吸血鬼の力で治す、それに必要な協力者、アリスを連れて来るために。

 ならば、やはり咲哉に協力するのが最善。そう思い立って冬樹は自分が作った星の門を見た。

 そこには空を見上げ立ちすくむアインの姿があった。

「アイン!咲哉は!」

 その呼び掛けにアインは反応しない。まるで、釘付けになったように。

 仕方なく魔眼を開く。

 そうして見えた光景に絶句した。

 巻き上げられる瓦礫、異界と化す結界内、そしてその中で戦う咲哉。

 その咲哉が、一切勝負をさせないで瓦礫と結界を一蹴し、刀一本で敵吸血鬼を圧倒していた。




 あり得ない光景が広がる。

 吸血鬼フォルテ、壮年の老人の姿をした白髪赤目の吸血鬼である。その血脈は第二真祖に連なり、司るは夢の力。加えて第五真祖たるアリスを取り込み、第三真祖直属の下僕から掠め取った力を有していた。

 真祖を取り込んだからこそ使える領域結界、一定の空間内を自らの力で満たし異界とする絶対殺害の奥の手。

 夢の力で咲哉(てき)を眠らせ、アリスの力でその身に宿る神性を剥がし、第三真祖の下僕の力で確実にその心臓を穿つ。

 作戦は完璧だった。

 しかし、その作戦は最初の一手から咲哉が自らの舌を噛み千切り痛みで眠気を飛ばした事で瓦解した。

 反撃が開始される。直進し見えない速度で周囲を巻き込みながら斬擊を繰り出す。

 裂かれるタイルの床、石材の壁。一切を寄せ付けぬ高速の剣技は瞬きの後にはフォルテの喉元へ迫り首を薙ぐために振るわれた。

 瓦礫が巻き上がる。そうだ、この街に、この世界に人はもういない。あの頃のように力を押さえる必要はない。

 黒く染まる刀身、不死を殺す剣技、無条件の空間切断。

 咲哉は空間ごと領域結界を切り裂いた。

 逃げるように避け、吸血鬼フォルテは地下の天井や壁を破壊、崩落させ上に逃げ道を作り跳躍、空に身を投げ出した。そうでもしなければあの時より強くなっている咲哉に対抗できない。策を練れない。

 だからこそだろう。咲哉の追撃は完璧だった。

 体勢を整えられるよりも早くフォルテを切り落とさないといけない。故に、空中に浮かぶ不安定な足場に足をかける。

 空に落ちるが如き、空に舞った瓦礫を足場に高速で駆け上がり飛び移りながら接敵、フォルテの両手両足を切り落とす。

 吸血鬼はその再生力ゆえに防御を一切考えていない。だから、再生しなくなる攻撃、黒く染まった刀身により斬られれば簡単に致命傷になってしまう。

 意識が、咲哉という脅威への警戒が一切足らなかった。

 だから、濁った血のような赤い目ではなく、宝石のような赤い目がその吸血鬼の死を写す。

 咲哉が小さな不安定な足場に着地、体の向きをフォルテに合わせ真上から真下へ跳ぶ。

 激高したフォルテは自らの血を自在に変形、限界まで硬度を高め血の槍を咲哉へ突きつける。

 足場はすでにない、これが決戦場、瓦礫舞う空中がどちらかの死地だった。

 だが、この程度咲哉は読んでいる。

 直撃寸前、身を捩り回避する。白い髪を揺らしながら。

 フォルテには焦燥が、絶対に勝てるという自信があったにも関わらず勝負すらさせてもらえなかった悔しさが胸中を満たす。

 こんなはずではなかったと、勝てたはずと。

 だからこそ出た言葉はあまりにも情けなくて。

「戦え……正々堂々と戦えぇ!」

 悔しさと焦燥に顔が歪む。崩れる。

 また負ける。また奪われる。また取られる。ただあの笑顔の、永遠の『処女』の傍に居るだけが吸血鬼フォルテの願いだったのに、目の前の白髪の女みたいな男はたった三日で『処女』を奪っていった。

 女の顔をする、咲哉と別れた後も思い出す度に幸せそうな顔をする。だから殺したのに。

 フォルテの心の内を知ってか否か、咲哉の言葉はあまりにも冷たくて。

「戦わない。卑怯者」

 咲哉は刀を抜かず右手でフォルテの左胸を貫く。

 その手には心臓が握られている。

「『僕』の女だ。返してもらうぞ」

「ふ……ざけるなぁ!」

 艶めかしく腕を引き抜きフォルテの心臓を握りつぶし、空中に血潮がまき散らさせる。と、同時に血の色が真紅へ変色する。

 それは人の血の色ではない。人の血の色にしては明るすぎる。

 フォルテはその血の色を知っている。見たことがある。飲んだことがある。

 もはや伸ばす手はない。けれど悔しさと焦燥はその美しさの前に消し飛んだ。

「……アリス……様……」

 そこから再生する。姿形を失って、肉体を失って、魂すら取り込まれていた状態から真祖アリスは生き返る。

 切り落とされたフォルテの手足が溶けて血へ変わり真祖アリスの肉体を構築する要素へ変わる。

 体は咲哉の腕の中に、肉体は魂を引き連れて、意識を覚醒させる。

「……遅い」

「これでも急いだほうだよ」

 白い長髪、子供のような外見と童顔だが鋭くて赤い瞳に威厳すら感じさせる。咲哉の妹や娘と言われれば納得してしまう幼い姿。裸体で再生した肉体に冷たい外気はきついのか少しばかり震えていた。

 完全ではなくとも真祖アリスは復活した。誰でもない天条咲哉の手で。

「話は後だ、しっかり掴まってよ」

 咲哉の首に巻かれる白く細い腕、フォルテから逃げるように隠れるように咲哉の背に回るかつての主の姿。

 焦燥も悔しさもない、けれど美しさに目を奪われてもいない。もう、胸の内を満たすのは焼き尽くすような嫉妬心。焦げる心をもはや隠すことなく曝け出す。

 吸血鬼フォルテ、最後の抵抗だった。

「『吸血機構(ヴァンパイア)・死体曝し(・デッドツリー)』」

 燃える血が木のように枝分かれしながら腸から成長する。掠るだけでそこから血を啜る吸血鬼が個人で持つ吸血機構、すなわち本性を曝した場合の吸血行動だった。

 自らの血全てを用いて咲哉を殺す奥の手、けれど、端から勝負にならない。

 鞘の中で黒く染まる刀身、柄に手をかけ居合をお見舞いする。

 それは命をしらみ潰す災害の名を冠した剣技。

空亡(そらなき)

 足場のない空中で放つ、本来は跳び込んで放つ抜刀術。

 目にも止まらぬ速度の太刀筋はフォルテの体を右わき腹から左肩へと抜け真っ二つに、拡張斬撃は眼下に広がる廃墟の街に巨大な亀裂を入れた。

 吸血鬼フォルテ、華々しくもなければ輝かしくもない一生は、一人悲しく虚空に落ちるような終わりに向かっていった。




 本来ならば残心を行う。最後まで油断しないその表れであり、その命が息絶えた事に絶対の確信が得られるまで刀を構え続ける、のだがこの時の咲哉は内心かなり焦っていた。

 息絶える寸前の子供、裕を救うためにアリスは必須だった。

『処女』の真祖、その血に宿るは再生、一般人が想像する不死の怪物である吸血鬼が持つ不死性の源流だった。

 そんな彼女を咲哉はしっかりと抱きしめ空中で真下に門を開く。通った瞬間、胃の内容物が逆転するような感覚が吐き気と共に襲いかかり、目には空と地面が逆転した景色が飛び込んで来た。

 抱きしめていたアリスは明らかに吐きそうな顔とパニックになるも咲哉がなだめる。

 一瞬の無重力、その隙に体を上下半回転させ、門を閉じ、門があった場所に静かに着地した。

「おぇ、もう少し丁寧に……」

 咲哉の元に半纏が一着飛んでいく。よく見れば手のひらを家の方にかざしている。

 その半纏を全裸のアリスへ着せる。白い肌を隠すように少しばかり大きめの物を寄越して。

「アリスの服残してる?それ持ってき……」

「あんなもの姪にあげたよ」

 咲哉の真剣な表情に気圧されてアリスが一瞬黙り、何かを言いかけたところで子供を説得するように片膝を付き目線を合わせ、咲哉が肩を掴んで真っ直ぐと真紅の瞳を見る。

「アリス、俺は君を助けたよね」

「あ、あぁ。だけ……」

「なら、借りを返して。助けてほしい子が居るんだ」

「……いい、けど」

「ありがとう」

 相手の話も聞かず咲哉はアリスを抱え家に向かう。

 明らかに事情が呑み込めないアリスは困惑の表情を浮かべ家の玄関を抱えられたまま潜り居間へ到着した。

 囲炉裏の火が室内を揺らめきながら照らし、木製の壁に小さな影が十二、ひと際大きな冬樹の影が一つ映る。

「なん……これ」

 栄養失調で腹の膨らんだ子供達を見て言葉を失う。この子たちはアリスがかつて吸血鬼にならないように血清もしくは解毒薬を仕込んでいた子供なのだから。

 そして最も重症の裕が目に入る。

「アリス、彼を助けてあげて。……できるよね?」

 不安そうな声が真隣から聞こえてくる。やめてほしい。その声音を聞かされると無理と言えないのだから。

「……やる。連れてって」

「うん」

 出来る出来ないではなく『やる』と言った。それは何が何でも助けるという覚悟と共に発せられた言葉。何者にも代えられない信頼が咲哉にはあった。

 咲哉がアリスを裕の元に連れて行く。傍には冬樹が。

「靴脱がなくていいのか?」

「そんなこと言ってられないよ」

 アリスが咲哉の手から離れる。

「……アリス……ねぇ……ちゃ」

「うん、アリス姉ちゃんだ。今助けてあげるからな」

 咲哉が短刀を差し出すと何も言わず短刀を引き抜き親指を切って血を少しだけ出して裕の口に流し込む。

 一瞬、裕が飛び跳ね、もがき苦しむ。吸血鬼の体液、特に血は劇物並みの毒性を有するためたった一滴でも死に至るか、運が良ければ吸血鬼に成れる。

 再生の力を持つ真祖アリスの血は毒性が弱く多量に摂取しない限りは確定で吸血鬼に成るが苦しみは変わらない。また、吸血鬼にされる側の肉体は血を取り込んだ瞬間に即時健康状態まで戻る。もちろん人間時代の。そこから吸血鬼に置き替わるのでその一瞬を見計らって人間に戻す必要がある。

 アリスにはそのタイミングが分かる。だからそのタイミングで再度血を口に流し込む。今度の血はそれこそ血清もしくは解毒剤、毒性を抜き薬性を強めた血。

 裕が回復するまで数分と時間はかからず、その間にアインが土間に戻って来ていた。

 血色は良好、脈拍は元通り、血圧も正常値まで戻った。冬樹がバイタルを確認したときには命に別状はない、何なら栄養失調すら治っていた。

 唯一欠点があるとすれば、再生したばかりかつ力が限りなく失われた状態、その上で毒性の薄い真祖アリスの血液を血清に変えると吸血鬼に変える力の方が弱くなって今は一日に一人が限界であることぐらいである。

 だから、白い肌に少し赤みが戻って人間に近くなったアリスは振り返って力なく伝える。

「今は一人が限界、ごめん」

「ううん……ありがとう」

 咲哉がアリスに感謝を伝えた後、冬樹とアインを見る。アイコンタクト一つで行動を開始した。

「後でちゃんと説明してよ、どうなってるのか」

「うん。ちゃんとする」

 門が開く、レーヴァテインに繋がる。十輪と楓に説明し子供たちの中の年長組にも協力を仰ぎ全十二名を運び出す。動き出した流れを誰も止める事はできない。誰にも、例え咲哉にも。


 もし、その中に人間ではないものが混ざって居たとしても。


 人外は一人、最後尾にくっついて行く。

 臭いのする方に、人々が苦しむ方に、腹を空かして機会を伺う。

 ぐぅ~、と鳴った腹の虫、お腹を押さえ空腹を満たす為の獲物を定める。

「ん?大丈夫?歩けないなら俺が連れて行くよ」

 白露のようなふわりとした髪、玉露のようなザクロのような赤い瞳、その肌はきっと噛み応えがあるのだろう。

 涎を垂らし、しかし、ここで仕掛ければ返り討ちに合う。だから襲わなかった。

 ひとり呟く、その人外は子供の姿で騙す。無害であると。

「はら……へっ……た」

 笑いながらそう言った。

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