第二章『悪魔の宴』その一
「面白いことが始まる……そうだったはずだ」
「そうだ」
その問いに『少年』は静かに短く答えた。
エリオットの炎は魔王ヴァルダンテですら手に負えない、まさに煉獄の炎だった。炎がまといついた箇所は魔王の魔力を持ってしても決して再生できず、横たわったまま体は極細粒の粒子と化して崩れ流れていくばかりだった。
「あの男の炎には魔法が効かない……何故教えてくれなかった……」
「彼等には手を出すなとは言った」
「こんな部屋に死ぬこともなく居続けなければならない。退屈で死にそうだったから遊んだまでだ」
「死ねるじゃないか」
「うるさい……」
不死身の男魔王ヴァルダンテ。永き魔界の歴史において魔王は彼一人だった。
「この魔界も終わりか……?」
「そうだ」
「俺も……」
「……」
「友よ……。最後に頼みを聞いてくれ……」
「頼み?」
「俺以外みんな死んだ」
「そうだな」
「俺もこんな姿になった」
「そうだな」
「敵を討ってくれ。友だろ?」
「……」
『少年』はしばし考え、首を横に振った。
「何故だ? お前なら簡単だろ。誰もお前には勝てない」
「そうだな」
「お前が滅ぼしたあの世界の……魔女の世界のように……簡単だろ?」
「そう……でもない」
「なぜ……?」
ヴァルダンテはその答えが予想外だった。
「彼等には『あいつ』がついている」
「あいつ……?」
「そう。だから簡単じゃない」
「『少年』か? そいつも強いのか?」
「ああ、強い。恐ろしく……な」
「お前より……か?」
「……まさか。しかし『あいつ』は頭が切れる。迂闊なことはできない。それに『あいつ』と戦うことになれば『あの男』が喜ぶ。それは避けたい」
「『あの男』とは……?」
「化け物さ……」
「そんなヤツがまだいたのか……」
「そうだ」
「……もう、長くはなさそうだ……。悔しいよ……俺は楽しみにしていたのに……」
魔王の体の傷は広がりながらさらに崩れていき、残りは三分の一ほどになっていた。
「最後だな。……一つ聞かせよう。冥土の土産にするといい。預言書にある『悪魔の宴』という話だ」
「笑える話だと……最高だな……」
「最高さ。恐怖で震え上がるほどに、な」
「ハハ……それはいい……聞かせてくれ……友よ」
「ああ……」
『少年』は静かに『真話』を語り始めた。魔王ヴァルダンテはそれを聞きながら静かに息を引き取った。最後に少し笑ったように見えた。




