『天からの使者』 その五
ざわめきがリアルだった。僕たちは生きてる。そう信じられた。
「見て見ろ。あのメイド」
キッドが苦いコーヒーを口に含んでから指さした。
新入りのバイトの女の子はとても可愛い女の子で、キッド好みの美巨乳であった。
「ジン、おっぱいに目が行ってるぞ?」
キッドは鋭く指摘した。
「いってないよ!」
僕は否定した。
「そんなに好きか?」
「な、何言ってるんだ!」
「ジンはすぐ顔に出るな」
さらに美脚の素敵なメイドさん。僕だって嫌いじゃない。
「しかし……」
キッドは少し間を置いて、
「無事帰ってこれてよかった」
苦いコーヒーをまた口に含んだ。
「そうだね」
本当にその通りだった。
キッドはミカが集めてきた植物を食べさせられて死にかけた。
「マジで死ぬところだったんだぞ?」
キッドには悪いけど、笑いをこらえるのに必死だった。
「しかもあの世界は死んだらアウトの世界だったんだろ?」
後で確認したらあの世界は未完成で、死んでも魔法で生き返られる便利なシステムはなかったらしい。
キッドは甘いチョコパフェを追加注文した。
バイトのメイドを呼び、ゆれる胸を見ながら、
「俺の心も揺れている」
そう、こぼれるように言った。
メイドは注文を取り戻っていった。その後ろ姿を見ながら、
「ジン、スカートを超能力でまくってみてくれ」
「できないよ。そんなこと」
「トレーニングを受けてるんだろ?」
「うん。でも、できないよ」
「あの世界で見せた、お前の力がこの世界でも通用するのか、確認だ」
あの世界とは、スカーレットがプログラムした異世界風電脳パラレルワールドのことだ。
「あの雨はジンが降らせた。そうなんだろう?」
水のない土地で旧に雨雲が発生し雨が降った。それが僕の超能力と関係しているらしかった。
「そしてあのまずくて毒々しい植物は……」
「わかったよ、キッド……」
キッドが試食した植物は元々そこには生えていなかった。キッドが試食するなら少しくらいまずくても平気かも。そう僕が考えたらキッドの足下に突然植物が生えてきた。それをミカがキッドに食べさせた。
「本当にまずかった……」
「キッド……」
「この苦いコーヒーが甘く感じるほどに……」
「…………」
実はあの世界は僕の超能力を開発するプログラムが組み込まれていたらしかった。
苦しそうなキッドを見て僕はまずいことになったと思った。それで薬草が生えていたら助かるかもって思った。そこに薬草が生えてきた。
僕はその時点でようやくカラクリが見えた。
薬草はとても苦かったけど、キッド助かった。
キッドとミカはその時初めて、僕がスカーレットから超能力のトレーニングを受けていることを知った。
「危うくジンに殺されそうになったわけだ」
「悪かったよ。まくればいいんだろ?」
バイトさん、ごめんなさい。
「きゃっ?」
店内にメイドの悲鳴が響いた。
何人かのお客が彼女のパンツを見た。スカートは確かにまくり上がった。メイドは顔を真っ赤にして奥へ入ってしまった。
「ジン、今のはお前がやったのか?」
キッドがメイドがいた方向から視線を動かさずに質問した。カップを持つ手が少し震えていた。
「そう、かな?」
「お前、超能力者になったのか?」
キッドはまだ視線を動かさなかった。
「どう、かな?」
「俺もそのトレーニングに参加してもいいか?」
キッドの視線はまだ動かなかった。
「いいと思うけど?」
「決まりだ!」
キッドは生きよいよく店を出た。
「キッド!」
店の客が何事かとざわめいた。
後に残されたのは僕と会計がまだの請求書だった。




