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ロマンス  作者: shigure
12/29

おかえり

 スカーレットを迎えたエリオットの表情は明るかった。

「聞いてくれ、スカーレット!」

 なぜ何もせずに帰ってきたのかと、つまらない質問攻めを覚悟していたのに、エリオットにはその気がなかった。

「おもしろい話を聞かせてあげよう。笑っちゃうから」

 エリオットはすでに笑っていた。スカーレットはあえて彼の心をのぞかなかった。それは温かく迎えてくれた彼への礼儀だった。

「キッドという少年が君に夢中なんだ!」

 ハハハ、と笑うエリオットの前でスカーレットは静かに聞いていた。

「少年?」

 スカーレットが問い返した。

「ああ、高校生なんだ。自分のことを中二病とかいってたな」

「中二病?」

「若さあふれるエネルギーってやつか? コントロールの利かない妄想に支配されるらしい」

「どうして私に夢中に? 会ったこともないのに」

「魔女が君に化けてね。ボディラインスーツを着た君の姿で、彼を誘惑したんだ!」

 エリオットはとても楽しそうだった。

「さぞかし魅力的だったんでしょうね?」

 地味なコート姿のスカーレットはやはり静かだった。

「でもキッドは正しい判断をしたと思うわ。私の魅力に気づくなんて」

「魔女の魔術さ。魅了チャームってやつ。魔術にかかると使用者の虜になるアレさ」

「へえ、私って魔術を使わないと魅力がないのかしら?」

 スカーレットの言葉にエリオットは一瞬ギクリとした。

「そ、そんなことはないが、確実に落としたかったんだろう?」

 エリオットは慌てて取り繕った。

「そう。話を続けて」

 スカーレットはやはり静かだった。

「ああ、それでだな……」

 エリオットは一呼吸入れて落ち着く努力をした。

「向こうの世界ではゲームというのがあって……」

「こっちにもあるでしょ?」

「いや、ビデオゲームというやつで、電気で動くんだ。コンピューターというテクノロジーが発達してる世界で、電子の動きがゲームの世界を構築する。旧型のゲーム機をもらったよ。格闘対戦ゲームが大人気だった頃に売れていたやつらしい」

「殴り合うの?」

「そうなんだ。レバーとボタンで操作してね。プロのゲーマーがいて大会で賞金を稼いだりするらしい。話を聞いて面白そうだったから僕もやりたくなってね。ジンが中古のゲーム機を探してくれたんだ。御礼にとしてプレゼントしてくれた」

「御礼?」

「僕の写真を撮りたいっていうからモデルになったんだよ。おかげでゲーム中に殺されずにすむからって。『死ね、死ね、このスライムめ!』って呪いの言葉をかけられるらしい。ミカという少女は魔女かも知れないね、ってジョークを飛ばしたら、キッドが『あれは魔王の生まれ変わりだ』って。面白い子たちだろ?」

「私のいない間にそんなことがあったなんて……」

「そうだ。君もジンたちに会うといい。ジンは君の写真も撮りたいといってたよ。それと仮想空間というのも結構面白い」

「仮想空間?」

「コンピュータのテクノロジーが生み出した新しい時空間さ。電脳パラレルワールドとしての機能もあるらしい。とにかくいろいろできちゃうんだ」

「へえ……」

 スカーレットが興味を示し始めたのを見て、エリオットはとどめを刺そうととっておきの話題に移った。

「それと、君が会いたがっていた『少年』はジンとすでにコンタクトしているよ」

 スカーレットは何もいわなかった。エリオットは勝利を確信した。

「こんな展開が待ってるなんて……。あの時、名前をいわなくて正解だったのかも」

「会いに行くかい?」

「もちろんよ」

「ジンには秘密がありそうだ」

「でしょうね。魔女の興味はジンなんでしょ?」

「その通り!」

「『少年』からコンタクトしてくるくらいだから、とんでもないものを持ってそうね」

「だろうね」

「じゃあ、いってくるわ」

 スカーレットは飛ぼうとした。

「ちょっと待って。その前に」

 エリオットはスカーレットを止めた。

「なに?」

「おかえり。スカーレット」

 エリオットは笑った。

「ただいま」

 スカーレットも笑った。

 そして、ジンたちの世界へスカーレットは飛んだ。

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