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そして、最期に、作者が消える。

 ラストは、こうするしかなかった。

 安易に人が死ぬ小説も、安易に夢オチする小説も嫌いで、ずっと悩んでいた。

 考えに考えて、考え抜いて。10年後。私が出した結論は、「小説のキャラクターを助けたい」だった。


 容易じゃなかった。あんなにも夜と歩がこじれていたら、ほとんどのことを解決してくれる『時間の流れ』さえ、2人の間では怪しかった。


 だから、ラストは、こうするしかなかった。


 でも、私は『自分の書く小説がくだらないこと』を誰よりもよく知っていた。私は朝が何よりも怖い。夜更けに書いた小説が、朝になると夢から醒めたように、ガラクタになっている。


 そして、夢から醒めた私が言う。


「お前の小説なんか、くだらない」って。


 これは、5年も小説を書かなかった、私に対する罰なのだろうか。私はすでに。自分が書いたものに次々と突っ込みを入れていかないと、書き続けられないくらいに文章力が落ちている。


 別に面白いことをしようと思って、今まで自分の文章に突っ込みを入れていたわけではない。私は、こうしないともう、書き続けていられなかった。


 どうすればいい? ろくに書けないのに、書きたいことだけが5年分ある場合は。


 ずっと、この小説のように、自分の文章に突っ込みを入れながら書き続けていく?


 でも、私はこの小説のくだらなさをよく知っている。読んでくれた人のいる文章を否定して、読んでくれたものを次々と無意味にしていく、くだらなさ。


 そもそも、私は小説に関する全てを捨ててきた。プロの作家になったゼミ生との関係も。プロの作家や批評家である大学の先生との関係も。唯一の、師匠との関係も。


 全部、捨てて。それで、今さらなんで。もうやめると決めたはずの小説を。こんなところで、独りきりになって書いているのか。


 やめられないなら、やめるべきじゃなかった。やめるなら、きっぱりとやめるべきだった。


 上達できる環境を全部捨てた後で。今さらなんで、独りで書き続ける?


 目を閉じると、涙が流れた。そして、懐かしい風景が浮かぶ。師匠に憧れた時のこと。師匠の、最高に格好良い文章。


 私が情景描写をするとパノラマ写真のようになってしまうのに対して、師匠の情景描写はいつも映画のワンシーンのようだった。躍動感があって、色彩が鮮やかで。


 師匠さえ戻ってきてくれたなら、私はもう1度、立ち上がれる気がした。私は暗闇の中で、師匠の名前を呼んだ。迷子の子どものように何度も、何度も。でも。その声は、誰にも届かない。

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