第6話
―港区 白金―
電車に揺られ小一時間、俺は豪邸の前で立ち尽くしていた。
「おぉ…」
鏡のように磨かれた天然石に覆われた外壁、広々とした庭。
都心の高級住宅街、それも港区の白金の角地に5階建ての大邸宅が建っている。
「すごいですね……これが実家ですか?」
「べ、別邸ですが、一応そう…です」
「別邸でこれとは……流石、日本最大のメガバンクなだけはありますね…。
ちなみに本邸はどちらの方に…?」
「京都の南禅寺…です」
「…」
思わず言葉を失ってしまった。
流石は元財閥と言ったところか。
住む世界が違いすぎる。
「……その、驚きました…?」
不安そうにこちらの顔を伺ってくる。
「…まぁ、驚いてないと言えば嘘になりますが……生まれでなにかが変わるわけでもありませんし」
その言葉を聞いて、茜はほっと安堵した様子を見せる。
やはり、家柄のせいで色々孤立してきた過去があるのだろう。
「…じゃ、じゃあ中へどうぞ」
「はい。お邪魔します」
俺は、茜の家に足を踏み入れた。
―――――――
―冴咲家 別邸―
洋風ではあるが豪華すぎず、どこか現代的でもある落ち着いた内装。
元とはいえ、財閥の邸宅もこんなものなのかな。
そんな事を考えていると、ふと使用人っぽそうな人がどこからか現れた。
「お帰りなさいませ、お嬢様。
そちらの方はどなたか伺ってもよろしいでしょうか?」
「お、お友達……です」
「承知いたしました。応接間までお連れいたします」
そう言ったかと思うと、使用人さんはどこかへと歩きだした。
俺達もそれに続く。
「す、すごいですね…まさか使用人をこの目で見る機会があるとは……まさにご令嬢って感じですね」
「…っ///」
恥ずかしいような、嬉しいような。
そんな顔を茜はした。
そんな事を話していると、やけに重々しい雰囲気を纏った部屋の前に到着した。
「どうぞ、お入りください」
使用人さんが扉を開ける。
「…っ」
少し緊張して息を飲む。
―冴咲家 別邸 応接間―
「君が浩一君か」
応接間に入ると、中年ほどの男性に話しかけられた。
「茜から話は聞いているよ。
娘に色々親切にしてくれて感謝しているよ」
握手を求められたので、快く返す。
「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」
「君は謙虚だね。よくできた人間だ。
まぁ、立ち話もなんだし座ってくれ」
「失礼します」
促されるままにソファーに座り、テーブルを挟んで対面する形で話す。
「さて、自己紹介がまだだったかな。
私は冴咲源治、石井銀行の会長を務めている。
よろしく」
「ご丁寧にありがとうございます。
お会いできて光栄です」
俺の緊張を感じ取ったのか、彼は少し笑ってみせた。
「あはは、そんなに緊張しなくてもいいさ。
君は恩人だしね」
「え?」
「昨日、茜が絡まれている所を助けてくれたんだろう?」
「あれはなんというか……まぁ、困っている人を助けるのは当たり前の事ですので」
そう言うと、彼は少し驚いた様な顔を見せた。
「いやいや、見知らぬ人を進んで助ける人なんて、意外と珍しいものだよ。
誇るべき事だ」
「そこまで言っていただけるとは…ありがとうございます」
深々と礼をする。
「あ、そうだ。
これ、心ばかりの品だが受け取ってほしい」
そういって彼は菓子折りを差し出してきた。
……これ、確か相当高いやつじゃ……。
「流石にこんな高価な物は受け取れませんよ……」
「大切な一人娘を助けてくれた事への感謝の気持ちだ。
受け取ってくれ。
それとも……現金のほうが良かったかな?」
少し茶化すように彼はニヤリと笑った。
やはりというかなんというか、流石だな。
「…わかりました。ありがたく頂戴します」
一段落ついた後、源治さんがふと思い出したように話始めた。
「……あぁ、そうだ。
私は学生恋愛には理解のある方だから、心配はしなくて大丈夫だよ」
「…?」
一体何のことだろうか?
ふと隣に座っている茜を見てみると、顔を赤くしていた。
ふと窓の外を見てみるともうかなり暗くなってきている。
「遅くまで時間を取らせてしまって済まなかったね。
駅まで送ろう」
「そこまでしていただくのは流石に気が引けますので、ご遠慮させてください」
「そうかい?
じゃあ茜、門まで案内してあげてくれ」
そんなこんなで、俺の茜の実家への訪問は終了することとなった。




