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大魔王ぽっちゃりピクシーの生存戦略は、勇者と密約・森の要塞化・国家を転覆……と、まるで自重せず。  作者: 枝垂みかん


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息つく間もなく第二ステージ①


 勝利を誇る遠吠えは、次第に悲しげな余韻を残して薄れていった。

 失った仲間たちへ向けたコイツらなりの鎮魂だったのかもしれない。


 援護から接近戦に移行したコボルト衆より、序盤から最前線で体を張っていたケットシー勢の方が損耗は大。短気な気質も相まってか現状把握を気後れするほどだ。だが、


「ブチ……」


 オレよりも喪失感に苛まれているヤツがいるのに、(おもて)に出すわけにはいかないか。


「オマエがケットシーのまとめ役だ」

「おおっ。ぽっちゃりピクシーは見る目あるニャあ」


 強がりを。らしいといえば、らしい。

 だが、どういうわけかブチは突っ伏したままピクリとも動かない一体のケットシーの背中に向けて、


「ニャあミケ、聞いたか?」


 と。

 ん? なんだか強烈な違和感……。


「ふっざけんニャ!」


 飛び上がったソイツは、ミケだった。


「待て待て、どういうことだ⁉︎」

「ニャにを驚いてる。ブチと違って賢いオイラは——」

「おいミケ、いまのは聞き捨てニャらねぇぞ!」

「まぁまぁそうカリカリすんニャって。でニャ、幻体にレガリアを持たせて囮にしたらどうかって、知恵者のオイラは閃いたわけよ」

「それで死んだフリしていたと」

「ニャるほどニャあ。やっぱしミケは賢いぜい」


 いいや、ぜんぜんだぞ。ちっともだ。

 幻体は首から下げた『幻惑の鈴』を残さず消える。こう前振りしたまではいい。実際にオレも騙された。

 だがだ、大前提として妖精は死んだら消える。ずっと転がってたらバレるだろ。


「せっかくオイラ、隙見て必殺猫パンチを叩き込むつもりだったのに。イイとこぜぇんぶピクシーたちが持ってくもんだもんニャあ」

「ニャんにしてもミケ、いっちゃん騙されてたのがぽっちゃりピクシーっつうのが……ぷぷっ」

「ニャ。必死すぎて笑い堪えるのにオイラも必死よぉ」

「「んニャっはっはっはっは!」」


 ぐぬぬっ。やはりどこまでいっても妖精は妖精か。


「ほぉう。ずいぶんと元気そうだな。だったらケットシー衆には、そこに捕虜を穴牢に運んでもらおうか。たぶんまだ生きてるから、武装解除と拘束も忘れずに頼むぞ」

「「「ニャんだって!」」」

「ほほう、文句を言う元気もあると。それならコロポックルたちの手伝いもやってもらうとしよう。なぁに、ダミーの砲身を片付けるだけの——」

「や、やるやる、やるから! ニャ、テメェら」

「「「はい、よろこんでい!」」」


 妙な返事と共に、シャカシャカ働きはじめる。が、すぐにブチの動きが止まった。


「縛って牢にぶち込むのは王様だけニャのか?」

「いいや。魔女もだ」


 いちいち当たり前のことを聞くな、と、つづけることはできなかった。なぜなら——


「その魔女はどこニャんでい?」


 いない。ヴェ・ネフィカがどこにもいない。

 未だに燃えさしに照らされる焼け野原。遮蔽物などまるでないのに、どっちを向いても見当たらないんだ。

 クッソ、ドサクサに紛れて逃げられたか。


「縄文!」

「ワウ!」


 コボルト衆はヴェ・ネフィカの纏っていたドレスの切れ端をクンクンクンと嗅ぐなり、方々へ散っていった。


 探索の結果も気になるが、これ以上状況が悪くならないよう、せめて王の身柄だけでも確保してしまわねば。ということでオレも装備品のひん剥きに加わる。

 とても独りでは着られそうにない重厚な造り。だというのにミケとブチはポイポイ簡単に脱がしていく。

 そうやって放られた鎧の表面が目に止まる。

 なんとはなしに観察すると、金の装飾はオレの過放電により歪に変形したりポツポツと穴があき、その周囲の金属部は燻んでいて黒い。さらに鉄球が命中したところを見やれば、クレーター状の中心には弾が潰れた卵みたいになって貼りついていた。


「おうおう、ぽっちゃりピクシー。イイご身分だニャあ」

「ブチ、オメェも手ぇ止めんニャや」

「ニャんだと!」

「待て待て。ボケっとしてたオレが悪かったから、いちいちケンカするなよな」


 まだ戦闘直後で気が立っているらしい。

 それでも慣れたもので、厚手の肌着や革製の補助防具なども余さず剥がし、パンツ一枚に。


「ハハッ。裸の王様か」


 ぜんぜん意味は違う。ケットシー勢はハテナと首を傾げるが、説明するのも億劫なくらいなんとなくで口にしたこと。


「それより拘束だ。普通に後ろ手じゃなくて、こう片方は上から折り曲げて、反対は下から……そうそう互い違いに。それで人差し指の付け根同士を結んでやればいい。あと足も交差させてから縛ろうか」


 いわゆる『牛の顔のポーズ』にしてから革紐で縛ってやった。

 身体の硬い人にはかなりキツめのストレッチなので、こんな姿勢で拘束したら亜脱臼しそう。だがここは一つ、切り落とされなかっただけマシだと思ってもらうしかない。

 もちろん治療もなしだ。それでも簡単にくたばったりしないんだろう。


「ニャんでヤッちまわないんだ?」

「それ、オイラも気にニャってた」

「「「オイラもオイラも」」」


 いざ運ぶ段になって、やっとケットシー勢は疑問に思ったようだ。……遅い。


「死なすとレガリアの所持が解除される。そうしたら皇帝に気取られてしまうからな」

「んニャもん皇帝っつうのもヤッちまえばいいだろがい」

「バカ言うな。これだけ手を焼いたカレックス国王よりも、レガリアをいっぱい持ってて強いんだぞ」


 加えて、レガリア固有の権能なしでこの有り様だ。皇帝はそれをいくつも使えるんだから話にもならない。少なくとも今のオレらでは。


「ふーん。まぁニャんでいいや。おうオメェら!」

「「「がってんでーい!」」」


 ブチの号令でケットシーたちは拘束済みのカレックス国王を担ぎ上げ、そのまま連行。

 こうして見ると、ブチの方が親分肌なんだよなぁ。というオレの心中をどう読み取ったのか、ミケは大事そうに『幻惑の鈴』を肉球で押さえ、


「フシャーッ」


 と威嚇。

 取り上げたりしないっての。


 牛の顔のポーズで拘束されたパンイチのマッチョ中年が、直立二足歩行の猫にバンザイの姿勢で運ばれていく絵面は、なかなかにシュール。そもそもここはファンタジー世界なんだから非現実的なのは当たり前なんだが、だとしても奇妙な笑みを呼ぶ。

 そういう心の余裕を持ちはじめたところへ——


「大変だワン!」


 縄文が穴牢の前から急かしてきた。

 これはイヤな予感……。


「なかにいるのか?」


 これはそうあって欲しい類の願望。だが返事は、首を横に振るだった。


「でも、開いてたワン」


 となると侵入してから出た? いや、ヴェ・ネフィカは逃走の時間稼ぎ目的で穴牢にいると見せかけただけかもしれない。

 その確認のため、中へ。

 ここにはエルラーレ所有の『告解の瞳』が隠してある。だがレガリアには、盗難防止機能とも言うべきオーナー以外は持ち上げ不可という便利設定があるから問題はないはず。

 しかしもう一つの方……。


「なんて間が悪い」


 やっぱり盗まれていた。倉久手メグルの所有するレガリア『闇の石板』が。これは同時に、死んでもコンテニューが発動したことを示す。


 オレの想定を大幅に上回る早さでカレックス国王が攻めてきた。だが、それをアイツらは知るすべがない。

 おそらく当初の予定どおり、冥王リクドーラの軍勢を王都へ誘きよせようと捕虜になったんだろう。そして、上手く唆せたかどうかは不明だが、冥王の手にかかったんだ。もしかしたらアンデッドにしようとして失敗したのかもしれないけど、結果は同じ。


 事後処理は盛りだくさんなのに、非常に面倒なことになってきたぞ。

 下手すると、このタイミングでアンデッドの群れによる王都襲撃が始まっているかもしれないんだから。


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