ボスウェーブ⑨
どうやら魔王縄文たちの咆哮は、陶器製メガホンで増幅&集約したおかげで多少のデバフにはなったらしい。
王と魔女、どちらも瞬く間の硬直を好機と捉えて動いてしまう。互いに発動速度に優れた攻撃で先手を欲した。結果——
間合いを詰めつつ抜剣したカレックス国王が、魔女の無詠唱魔法を上回る。接近を遮るための黒モヤの腕は虚しく足跡を追うカタチに。
そして王は肉薄するなり不可避な突きを放つ。が——
「ざぁんねん」
胸許を貫かれたかに見えたヴェ・ネフィカは、ダミーだった。
残ったベタ塗りシルエットはドロリと溶けるなり、王の手にする剣に蛇の如く絡みつく。このまま身体まで侵食されるのでは——と思いきや、
「小癪な魔法を!」
虚空を一閃してふりはらった。
しかし、鏡面のようだった剣身の一部は赤褐色に腐食。影蛇の這った痕だ。
顔をしかめる王の背後から、
「〝預言級闇魔法・影縛〟」
現れるなり、ヴェ・ネフィカは鞭の如く暗闇の荊を振るう。
対するカレックス国王は、己の胴を貫くかのような最短の軌道で急旋回、振り向く勢いそのままにナマクラらで魔女の鞭を跳ね除ける。
——メキッ。と、劣化した剣が折れ曲がる鈍い音。
しかし王は、直角定規と化したそれを手放さず、むしろ暗闇の荊鞭に絡ませた。と同時に、身体を捩って引きつけ、
「ふんぬッ!」
「——クハッッ‼︎」
半身の構えから踏み込むなり、魔女の谷間深くへと拳を叩き込んだ。いわゆるハートブレイクショットってやつだ。
ズザザッと、地面を爪先で引っ掻きながら後退するヴェ・ネフィカ。
この機を逃すものかと追撃のための前傾姿勢をとるカレックス国王。
双方とも攻撃か防御か、眼前に意識のほとんどを持っていかれる。その明確な隙を——
「ニャひゃ〜ッ‼︎」
猫爪が襲う。
跳躍した魔王ミケの幻体複数が相手の頭上をとり、他のケットシー勢は地を這うほど低く。
カレックス国王はガントレットやグリープで防ぎ、ヴェ・ネフィカは黒モヤと暗闇の荊鞭で遮る。
だが、さっきまでと違って遇らわれていない。手を伸ばせば届く距離、互いの間合いに強敵を置いた状況でのバックアタックに、王も魔女も防戦一方。
ますます嵩にかかるケットシーらを、
「「「グワルルルゥガォオオオオオッ‼︎」」」
コボルト衆は咆哮で援護。
与えた硬直のデバフは直ちに回復されてしまう程度。とはいえ無数の猫爪を捌いている状況では、一瞬が命取り。
確実に追い詰めてるぞ。まともな一撃が入れば一気に傾く。
ケットシー勢が果敢に攻め、コボルト衆はさらに追撃の咆哮を繰り返す。手に汗握る攻防。
それが二度目三度目、四度目でとうとう陶器製メガホンがひび割れて、五度目で砕けてしまった。
だが想定内。コボルト衆は慌てることなく、むしろ待ってましたとばかりに焼け野原を駆け出した。妖精の森を侵す王と魔女の素っ首に犬牙を突き立てようと。
そんななか、森の茂みからはギラリとガラス質な砲身が覗くのだ。
意識せざるを得まい。
振り返ればそこには互角の存在が隙を晒していて、されど猫爪や犬牙に対処しているのは自分も同じ。いわば二人は『前門の虎、後門の狼』状態。
さらに加えて、遠方から狙いを定める未体験の攻撃にも備えなくてはならないわけだ。
わざわざ、ひびの入った不良品を取っておいたのこのため。
これ見よがしに大量のモックを並べられては注意を払うだけで、さぞ消耗を強いられることだろう。
クックックッ。やはり数こそチカラ。この場合の数は手数でも人数でもなく、どれだけ多くの伏線を貼れるかを指すがな。
さぁて、ここでもう一つ追加だ。
オレからするとちょっと遅い、がしかし、王と魔女にとっては青天の霹靂。闇夜より放たれる亜音速の矢に、慄け!
突如として——カレックス国王の肩が爆ぜた。思わず顔を顰めるほど硬質な破砕音が響き渡る。と同時に王はガクリと傾き、膝をつく。
その顔の歪みは苦痛ゆえか『いったいなにが⁉︎』という驚愕ゆえか……ククッ。
備えのなかった空からの攻撃は、フェアリーズなよるもの。
容量二リットルほどのミサイル型陶器。ちなみに尾翼は木製。これを上空から投げ落とすだけの単純な攻撃。まさか当たるとは思ってなかったが。
というのも、本来の意図はここからだからだ。
空からの高速攻撃でビビらせたところへ、爆ぜた陶器製ミサイルから飛び散る——山椒パウダー。
「キャッ! ケホケホッ。な、なにこ、れへッくちッ」
「ニャぶへッし! んニャ、ッッ、くっちッ」
飛散した場所が王の肩付近だったので、膝をついたカレックス国王や低い位置にいたケットシー勢もコボルト衆も巻き込まず、その背後を狙ったヴェ・ネフィカと飛び跳ねていた魔王ミケだけが吸い込むハメに。
これはこれは。王と魔女を両方同時に狙撃タイミングが訪れるとは、なんたる僥倖!
「いまだ、ヤれぇええええーッ‼︎」
オレは有らんばかりの声をあげた——直後、四方より鉄の礫が音もなく放たれる。




