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第97話 「やってやる!」

 サヤカを潰したハンマーが溶けていき、赤く染まった頭部が現れた。あの傷じゃもう戦えない。

 僕一人で、何故か変身出来たこの不安定な超人モードで戦うしか勝ち目はない。


「タイムフリーズ…喰らえ!」


 魔獣人の動きが見える…僕は止まっているはずの世界の中で炎を噴射して後退。サヤカを殴った氷の鎚を避けることに成功した。


「え!なんで動けるの!?」


 相手は困惑していた。それにしても氷属性の魔力を全身で感じる…

 こいつは氷魔法が得意だ。もしもこの時間停止も氷魔法だとすると、相性が悪い炎の力を備えた超人モードを止められないんじゃ…

 それよりも攻撃だ!


「やってやる!」


 以前と変わらないスピードで魔獣人の背後に回り込む。そして背中に両手で触れて炎を噴射した。


「ぐあああ!」


 敵に纏わせた炎を操りリングへ変形。防御出来ないように拘束してから、さらに高熱の炎をぶつけた。


「もう一度……タイム…フリーズ!」

「僕は止まらないぞ!」


 炎を推力に加速。そして燃える拳を腹に打ち込んでぶっ飛ばした!


「うっ!」


 魔獣人は空中へと吹き飛んだが、氷の翼を広げてそのまま宙に留まった。


「これならどう?!」


 空中に氷塊が出現。魔獣人は指揮者のように腕を動かしてそれを操り、地上にいる僕を狙い撃つ。


「…ハアアアア!」


 攻撃の軌道上に炎の壁を作り出す。それでも突っ込んで来る氷解は、僕の元へ到達する頃には液体になってしまっていた。


「相性最悪ね…」

「はぁ…はぁ…」


 ヨウエイとの戦いもあったから息が切れるのが早い。逆転される前に、この姿でケリを付けないと…


 炎を操り武器を形成。接触と同時に最大火力で焼き尽くす!


「烈火!焔ノ槍(ほむらのやり)!」


 炎の槍を握り締めて、脚からの炎で上昇した。


 僕を迎え撃とうと、空中に再び氷塊が現れる。炎は攻撃に使うので、飛んでくる攻撃を回避しつつ、魔獣人を目指さなければならない。


「くっ!」


 今度の氷塊はさっきみたいに溶かすことは出来ない。少し擦れただけでブルッと震えるくらい冷たかった。

 直撃を受けたら今の僕でも凍ってしまうだろう。


「避けてばっかりじゃない?」


 前後左右だけでなく、下から上を舐めるように相手を観察する。氷塊は発射されるとすぐに新しい物が用意されてしまうので、雑な投擲では防御されてしまう。


「…はぁ…はぁ…」


 さらに息が荒くなる。そんなに僕は疲れているのか。確かにさっきも戦ったけどその時は無傷だった。ここに来るまで魔力の消費を避けるために走って来た。


「こうなったら…!」

「…はぁ…はぁ…」


 違うぞ。さっきから聞こえるこの呼吸音は僕のものじゃない。


「あれは…」


 そして魔獣人の周りを飛び回っている時に見つけた。

 フェンスの向こう側に立つ、傷だらけの光太を…


 彼は足元に血溜まりを作りながら、ミラクル・ワンドを握っている。頭は力が抜けているように下を向いていて、意識があるようには感じられない。

 そもそもあれは…生きているのか?


「光太!?」


 動揺して槍が消えた!しかも身体が力が抜けていくこの感覚!もしかして超人モードが終わっちゃうのか?!


 僕は残りの力で戦うのではなく光太の元へと滑るように落ちていった。


「光太!どうしてここにいるの!?」


 そもそもここに来る前、彼には魔法で眠ってもらったはず。小学校側から続いている血痕を見るに、誰かに運ばれたんじゃなくて歩いてここまで来たんだ。

 いつからここに立ってたんだ…?冷気にやられたのか、唇が紫色じゃないか。


「…はぁ…はぁ…」


 さっきの荒い呼吸音は彼のものだ。ミラクル・ワンドを通して僕に聴こえてきたんだ。


「これで終わりだ!」


 しまった!魔獣人の攻撃が来る!


 振り返ると魔獣人は超巨大な氷の大剣を振り下ろそうとしていた。超人モードが解けた今、移動も出来ず逃げられない…


「ナイン…」


 サヤカが立ち上がろうと肘を曲げているが、それよりも先に刃が振り下ろされた。

 杖を使う魔力も残ってないし…


「光太逃げろ!その身体でここまで来れたならあれくらい避けれるだろ!」


 無理に決まってる!見れば分かるだろ!怪我人相手になんて注文してるんだ!僕が守らないといけないのに!

 こうなったら…白刃取りだ。あの巨大な刃を残った力で受け止める。


「いや無理だろ!」


 死の間際だからか考えることが馬鹿になってる!けどそれ以外にやれることがない!


「超絶白刃取り!ウオオオオオオ!」

「ミラクル…ワンド…」




 大剣は頭上で止まっていた。思いとどまってくれたのか…?


 違うな。大剣も含めて全て凍っている。氷の魔力が暴発したのか?


「…あれ?」


 身体がヒンヤリする。氷の魔力が内側から溢れてくるみたいで…


「そうだ!」


 考察している場合ではない。フェンスを破り、血塗れの光太を抱き上げた。後は大剣が動き出さない事を願いながら、なるべく遠くへ歩いた。


 歩いた?どうして脚がないはずの僕が歩けるんだ?


「…この姿は…」


 カーブミラーには傷だらけの光太とそれを抱える僕が映る。

 そしてそこに映る僕は蒼白く、まるで氷のような印象を持つ姿へと変貌していた。実際に氷の足で今も立っているのだ。


 ドガーン!


 いつの間にか動き出していた大剣が地面へ落ちて衝撃波を起こした。


「まさか氷の魔獣を宿した私を凍らせるなんて…凄い才能を持ってるんだね」


 もしかして、僕が自分であいつの攻撃を止めたのか?


 魔獣人が人間の姿に戻った。その隣には遥の時と同じように裂け目が開いている。


「私も疲れちゃったし、今回はお開きってことで。サヤカ、また戦おうね」


 女はサヤカの頭を撫でると、裂け目に入ってこの場から姿を消した。倒れたミラーを覗いた時には既に元の姿に戻っていた。


 蒼白い超人モード…赤い姿と違って氷の魔力を強く感じた。

 傷だらけで意識のない光太だったが、ミラクル・ワンドだけは力強く握っている。

 僕はこの杖に何度も助けられて来た。初めて超人モードになった時もこれの力があったからだ。

 しかしこの杖が光太を連れて来たのだとしたら…危険だ。


「こんなに傷だらけなのに…痛かったよね。ごめんね」


 支援が役割の光太は、僕が身体を張って守らないといけない。それなのにこんなに傷付けてしまった…


 これ以上、彼に甘えるような戦い方はしちゃダメだ。そのためにも、狼太郎がウォルフナイトの状態で戦えるようになってもらわないと…

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