第96話 「魔獣の力が必要なの!?」
「タイムフリーズ!」
お姉ちゃんが呪文を叫んだ!そして姿が消えた!
「ナイン!」
隣にいたナインは、目の前に現れたお姉ちゃんの氷の剣を喰らう。それでも平然としていた。
「凄いね君」
「ディフェンスアップ・ワンドで防御力を上げた。単純故に便利な能力で強いけど、魔力の消費が大きい魔法の杖だよ」
バキン!
それからナインは両拳で刃を叩き折り、お姉ちゃんが持っていた剣を叩き落とした。そしてパンチを繰り出すが、凍った地面を滑って避けられた。
「お前だってそうだ。時間を止めるなんて大技、何かデメリットがあるんじゃないのか?」
「そう尋ねて素直に教えると思う?」
「ウインド!」
敵はさらに後方に跳んでいく。それを見た私は風を起こし、彼女を追うナインを加速させた。
「インフェルノ!」
さらにお姉ちゃんの向かう先に炎を放つ。簡単に避けられてしまうだろうけど、動きが制限されてナインが捕まえやすくなるはずだ。
「アイスアーマー!」
氷の鎧を身に纏って炎の中を突っ切った!あんな瞬時に鎧を作成できるの!?
すぐに炎を消してナインが通る道を開通。転んでしまうかもしれないけど、さらに風を強くするしかない。
加速したナインは腕を伸ばすが、お姉ちゃんはそれでも逃げ続けた。
ピキピキ…
するとお姉ちゃんが氷で何かを作り始めた。
あれは…さっきナインが砕いた物と同じ剣みたいだ。
「やっぱり…そうか!」
何かに気付いたナインは次の蹴りで急加速して、お姉ちゃんの腕を掴んだ!
「時間を止めるのは大した芸当だけどそれだけだ!武器がなければダメージを与えられない!まずはそれが弱点だ!」
「それはどうかな?」
次の瞬間、ナインは一瞬で凍らされた。
そうだった!ツバキ達もそうやってやられてたじゃないか!私のバカ!どうしてそんな大事なことを伝えなかったんだ!
「さっむ~!」
ナインが氷から出てきた。どうやら凍らされる直前に、魔法の杖を抜いていたようだ。
「ヒート・ワンドとアイスピック・ワンドを使った高速氷解だ!そして喰らえ!」
ナインはヒート・ワンドをお姉ちゃんの顔面に押し付ける。
僅かな時間で氷を溶かすぐらいだし、あれは熱いぞ…
「アアアアア!」
「デリャア!」
さらにアイスピック・ワンドの鋭い装飾を胸に突き刺した!
「どうだ!」
ピキピキ…
杖が2本とも凍り始めてる!?あんな攻撃を喰らってもまだ魔法を使えるなんて…
それだけじゃない!身体の形が変わり始めている!?
ナインは杖を手放し、お姉ちゃんを蹴ってこちらに戻って来た。
「ようやく本気出すみたい…魔獣人に変身するよ」
「う…」
大好きなお姉ちゃんが化け物に変わっていく光景はあまりにも残酷だった。
「…サヤカ、大丈夫?」
動揺させられて、魔力を上手くコントロール出来るか自信はないけど、とにかく頷いた。
「時間を止めるだけじゃないの。魔獣の力で強くなれるんだよ。お姉ちゃん凄くなったでしょ?」
「強くなって生き返って、それでやることが妹を傷付けることなのか!?」
「あのさ君、妹との奇跡の再会真っ最中なの。クビ突っ込まないでくれるかな?…サヤカ、昔お菓子を賭けた時みたいに試合しようよ」
昔…よくお姉ちゃんに試合の相手をしてもらった記憶がある。その時はツバキと一緒に2対1で挑んでは負けて、賭けた物を根こそぎ取られていた。
「…お姉ちゃんは強かったじゃん!なのにどうして魔獣の力が必要なの!?タイムフリーズなんていらなかったじゃん!」
「…私は弱いよ。タイムフリーズ」
バキッ!
ナインの両脚が破壊された!また時間を止めたんだ!
「うわっ!脚がなくなった!」
「やろうよサヤカ」
あの時はこんなに殺気立っていなかった…もっと笑ってたはずなのに。
そして私の応答も聞かず、お姉ちゃんは呪文を唱える。
「タイムフリーズ」
強い衝撃と共に頭が上を向いた。顎を殴り上げられたみたいだ。
「アイスバレット!」
「ヒートアーマー!」
発射される氷の弾丸に対して炎属性のヒートアーマーを発動。弾丸の威力を弱めるがそれでも痛い…
戦いたくないけど倒さなきゃいけない。でもそれ以前に勝てるの?お姉ちゃんに勝てたことなんて一度もないのに。
「ワイヤー!」
後方に魔力の紐を射出する。それを掴んで縮むように入力し、私の身体はあっという間にお姉ちゃんから離れていった。
「器用になったじゃん!凄い凄い!…タイムフリーズ」
しかし一瞬で追い付かれた。防御も間に合わず、氷のハンマーで地面に叩きつけられた。
「グフゥッ!?」
視界が霞む…寒い…ヒートアーマーが解けた…
「降参する?」
「するわけ…ないでしょ」
「そうだサヤカ。諦めちゃダメなんだ」
暖かい…ナインが燃えてる…
「相手が強くたって僕は戦う!」
「…氷属性に対して炎属性。単純だけど良いんじゃないかな」
ナインが超人モードになっている!最初の発動から一度も成功しなかったのに!
「でも相性有利だからって、私に勝てるとは思わないでね」
火力を増していくナインの超人モード。
髪が赤く染まり角は燃えている。壊れた義足は外され、手と脚から噴射される炎で浮遊していた。
それを見たお姉ちゃんは私からナインに狙いを切り替えた。ここからは二人の戦いだ。
もう動けない私は、ナインが勝つことを祈るしかない…