第94話 「…知り合い?」
魔獣人となったヨウエイに追い詰められた僕と光太。敵の攻撃を受けそうになったその時、ウォルフナイトとハンターズが駆けつけた。
「すまない。高校に10体もの魔獣が攻めて来て対応に手間取った。そっちは君の友人と基地に残っている隊員に任せている」
10体!?会長がさらっと恐ろしい報告をしたけど…サヤカ達がいるからきっと大丈夫だ。
それよりも僕たちは目の前の敵を倒さないと!
「ガブガブガブガブ!」
「う!離れろこいつめ!」
「光太、後は任せて」
「まだ…俺は…戦える…」
光太が巻いていたウエストバッグを取り外して装着した。その後、彼はハンターズの衛生兵に運ばれて後退していった。
ウォルフナイトはヨウエイに振り放されて、相手の正面に着地した。こうなってしまったら、敵視されないように気を付けながら、ヨウエイの妨害をするしかない。
「ガウッ!」
「このクソ犬め!こいつを喰らえ!」
「「ソードスプラッシュ!」」
よし、予想が当たった!
「…なに、どうして魔法が使えない!」
僕が今使ったジンクススペル・ワンドで封じたからだ!この杖を持っている時、狙った相手と同じ呪文を唱えれば、そいつの魔法を封印できる!
…なんて手の内を明かすような解説したら今後警戒されるよな。やめておこう。
このタイミングで液状の斬撃を放つソードスプラッシュを唱えるのは予想できた。学園にいた頃、機嫌が悪い時はサヤカ相手だろうと容赦なく放って血だらけにしてたのを覚えてるからな!
「ガウッ!」
「うああああ!?」
魔法の不発に気を取られていたヨウエイに、ウォルフナイトの引っ掻き攻撃が炸裂した。けれど今の一撃じゃ決め手にならない!
「サキュバス!またお前のクソ杖か!」
「アタックアップ・ワンド!」
ウォルフナイトの攻撃力を上昇させた。後はその動きを止めるだけだ!
「各員、魔獣人へ向けてアンカーを射出!」
ハンターズの隊員が先端に重りが付いた紐を発射した。特殊な重りがヨウエイを取り囲んだ後、各部にグルグルと巻き付いて拘束した。
「アオオオオ!」
「やめろおおお!」
ヨウエイの懇願は届いてすらいないだろう。
ウォルフナイトは防御の出来ない獲物に対して、容赦ない連続爪撃を繰り出した。
味方になると頼もしい…後は狼太郎の意識で動かせれば完璧なんだけどな。
ヨウエイの魔獣部分が少しずつ削られていき、人間の姿に戻りつつある。殺してはまずいから、敵が人間に戻ったタイミングでウォルフナイトを止められるように、僕は杖を用意した。
「ガルルルルルル!」
「あああああああ!」
「狼さん。その攻撃やめてよ」
謎の声の後、突然ウォルフナイトが攻撃をやめた。
今喋ったのは誰だ?でもとにかく、ヨウエイを拘束するなら今しかない!
「喰らえ!」
「魔法使いさん。杖を降ろしてよ」
ガクン!
杖を振ろうとした僕の身体は、直前のウォルフナイトと同じように急停止。そして持っていた杖を地面に降ろしてしまった。
「誰だ!?」
「ヨウエイ。こっちまで攻撃を避けて来てよ」
今度はヨウエイが動き出した。ハンターズの隊員はライフルを構えてトリガーを引いた。
しかしヨウエイは背後から飛んでくる弾を避けながらグラウンドの端まで逃げていった。
「誰だあいつ…」
ヨウエイが逃げた先には知らない少女が立っていた。あいつから感じるのは…魔獣の魔力だ。まさか七転星士の一人か?
「ねえ飛鳥。魔獣退治はどうしたの?」
その少女は生徒会長の名前を呼んだ。
知り合いなのか?
「まさか…そんなはずはない…」
「飛鳥。私の事を皆に説明してあげてよ」
「彼女の名前は宮前遥。私の中学の頃の友達で、魔獣に襲われて命を落とした…口が勝手に動いた…」
分かったぞ。どうやら彼女は命令した通りに相手を動かせてしまうという恐ろしい能力を持っているみたいだ。
だがそれよりも恐ろしいのは…
「どうして…どうして君が生きているんだ!?」
その遥という少女に、死亡した経歴があることだった。死んだ人間が目の前に立っているという、普通ならあり得ないことだ。
「会長、死体は見たの?」
「私は彼女を…守れなかった。腕の中で息を引き取って…亡くなった」
「そうだよね。その時に約束したよね?魔獣に苦しむ人が増えないように戦うって」
「ガルルルル!」
「狼さん。人間に戻って」
遥が頼むと、威嚇していたウォルフナイトが人間の姿に戻ってその場に倒れた。
口で頼むだけで能力すら操れてしまうのか…
「なのにどうして魔獣の力を持つその子を生かしてるの?」
「彼はこの身体に魔獣を宿しているだけの人間だ!」
「そういうのを魔獣人って言うんだよ。飛鳥、その少年を殺してよ」
ドゴッ!
会長が狼太郎に向かって歩き出したので、僕は咄嗟に殴って気絶させた。
「ごめんよ!」
流石に意識がなくなると動かなくなるようだ。
遥の方を向くと何か喋ろうとしていた。僕は手で耳を塞いで、口の動きだけで言葉を受け取った。
「あなたの名前を教えてよ」
どうやら耳から言葉を受けとらなければ、あいつの言う通りにはならないみたいだ。
「会長と知り合いならどうしてあんな酷いことをさせようとした!」
「うるさいな…君、自殺してよ」
命令したって無駄だ。お前の声は僕には…
グググッ
「か、身体が勝手に!?声が聴こえなければ大丈夫じゃなかったのか!?」
「私の中にいる魔獣は言葉を通して狙った相手をコントロール出来る。そして私のユニークスキルは暗号省略。言葉という暗号を無視して、伝えたいことを直接意思に届ける事が出来る。狙った相手に声が聴こえていなくても、私と魔獣の能力を合わせれば命令に従わせる事が出来る」
身体が勝手に動いてしまう。腕がウエストバッグを漁って魔法の杖を取り出した。しかし魔法を発動することはなく、装飾の鋭利な部分を首に向けた。
「ナインちゃん!」
ハンターズの隊員が自傷を阻止しようと走って向かって来るが、その前に遥が立ちはだかった。
「させないよ」
「撃て!」
皆が銃を構える。しかし遥は魔獣人に変身して、弾丸をその身で全て受けきった。
「痛くないよ」
僕は踏ん張って抵抗しているが、腕は喉を切ろうと杖を近付けている。
このままだと本当にヤバい…
「くっ…うぅ…ああああああ!?」
装飾が肌に振れた!僕はここまでなのか!?
「ミラクル…ワンド…」
バギバギバギ…
握っていた杖が突然崩壊を起こして、僕の身体に自由が戻った。
「え…なんで自殺やめてるの?」
「今のは…光太!?」
ウエストバッグに入っていたはずのミラクル・ワンドを、衛生兵に運ばれたはずの光太が握っていた。
あんな傷だらけの身体で立っていられるなんて…
「ナイン…俺は…狼太郎よりも役に立つだろ?」
「…疲れちゃった。でも時間は充分稼げたはず」
「どういうことだ!?」
遥はヨウエイを抱えて、隣に現れた次元の裂け目を通って消えた。
「大変だ!高校の防衛に当たっていた隊員達と連絡が取れなくなったぞ!」
通信機を背負っていた少女が叫んだ。
サヤカ達が負けたのか!?ハンターズと協力していれば魔獣が多くたって何とかなると思ってたけど…とりあえず急いで行かないと!
「僕は先に行くよ!会長殴っちゃってごめん!」
「ナイン…俺も…」
「君は休んでろ!」
魔法で光太を眠らせて、僕は転点高校へと走った。
光太の元カノ…ヨウエイ…会長の友達…敵は誰かの知り合いばかりだ。
なんだか嫌な予感がする…