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第6話 「まだ知り合いレベルの関係だぞ」

 俺は趣味で小説をネットに投稿している。誰かに読んでもらえることはないのだが、自分の空想を文字という形で具現化するのがとても楽しいのだ。


 しかし今、少し前までカタカタとキーボードを叩いていた手が止まっている。何も面白いアイデアが思い浮かばないのだ。


「デジタルタトゥーなんてやめた方がいいよ。後々見てつらい思いするだけだし」


 ナインはそう言いながら俺の小説を読んでいる。そして一話読み終わる度、低評価と辛辣なコメントを残していくのだ。


「荒らすなよ。通報するぞ」

「黒金光太先生のファン第1号だぞ!丁重に扱えよ!」


 そう言っているがやってることはファンとは真反対だ。


「…ねえ最新話読み終わっちゃったよ。次回まだ?」

「うるせえな~ネタがねえんだよ」


 カチンと来て逆ギレを起こそうとしたその時、ピンポーンというチャイム音が鳴った。確か今日は灯沢が来る日だったな。


「頼むから静かにしてくれよ~うるさいと集中出来ないから」

「書けないことを他人のせいにしないでよ…そうだ光太、ユッキーとデート行ってきなよ。気分転換になるだろうし、良いネタが手に入るかもよ」

「ば~か行ってくれるかよ。まだ知り合いレベルの関係だぞ」

「そこで僕の魔法の杖の出番ってわけ!デート・ワンド!これを相手に振れば必ずデートに誘えるんだ!」



 はぁ~…ナインは色々な魔法の杖を持っているが、どれも幼稚くさい。そしてこのハート付いたの魔法の杖も、子どものオモチャみたいで幼稚だ。


「杖を出してやったのにリアクションが溜め息ってなんだよ!せっかく人が親切で用意してやったのに!」

「お前、好きな人にこの杖を使ってデートに誘われたら嬉しいか?」

「ユッキーは光太のこと好きじゃないと思うよ?」

「がっ!そういう話じゃなくてな…」


「おじゃましまーす。あれ、なにそれ可愛い杖だね~」


 部屋に上がって来た灯沢は早速、初めて見た杖に興味津々だった。


「これを振れば好きな人と必ずデート出来るんだ。ユッキーは好きな人いる?」

「う~ん…」


 デリカシーもないのなこいつ!


 もういいや、付き合うだけ時間の無駄だ。執筆作業に戻ろう。


「これって振ったらどんな人でもデートに連れて行けるの?」

「うん。海嫌いと海デートに行けるし、インドアの人と山にハイキングに行けるよ。自分に関心なさそうな人でも必ず!…ただ好感度が上がるかはユッキーの行動次第だね。もしデート中に飽きられたら相手は帰っちゃうし、どれだけ仲が深まっても、両想いでない限り告白してすぐに付き合うってことにはならないよ。何回もデートして、それ以外の所でもアピールを続けて、ようやく付き合えると僕は思うんだ。あぁ!恋愛ってなんてややこしいんだろう!」


 人の心を無視するような杖を作ったナインが恋愛を理解したような口振りだ。そうだ、次の敵キャラは相手の気持ちを理解出来ないサキュバスにしよう。


「へー…黒金君、試していい?」

「なんで俺なんだよ。学校のやつに使えよ」

「いやー別に友達だけど好きって感じじゃないし…それに黒金君、危なくなさそうじゃん」


 危なくなさそう…それってつまりヘタレって認識されてるってことでいいんだよな。


「別に良いけどその代わり杖は振るなよ。魔法の力でデートなんてプライドが許さないか──」

「スゴーイ!この杖本当に効果あったよ!」


 とっくに振られてたみたいだ…振られてたってなんだよ。まるで俺が灯沢にフラれたみたいじゃないか。


「それじゃあナインちゃん。しばらく黒金君のこと、借りるからね」

「晩飯までには帰って来るよ」

「はいはーいいってらっしゃーい!」


 デートなんて久しぶりだな。確か最後に行ったのは中三の時に…

 あんまり良い思い出じゃない。思い出すのはやめておこう。 


「どこ行こうか?カラオケ?」

「すまん、歌自信ないわ。ゲーセンは?」

「あー友達いるかも…見られるのは恥ずかしいかな」


 中々マンションの前からスタートできない。前はどんな場所に行ったかな…


「ねえ、ここら辺案内してよ?」

「ここら辺って…何もねえよ。子どもの頃から景色1つ変わってないんだ」

「思い出の場所とかで良いからさ。このままだとどこにも行けないよ?」


 それもそうだ。金が掛からないということに甘えて、俺は地元を案内することにした。




 まずはマンションから歩いて10分のところにある公園に来た。子ども達が沢山いて、流石に外から見るだけだった。


「賑やかだね。ウチの近所にも公園あるけど、ここまでじゃないよ」

「広いし遊具も多いからなぁ…」


 小学生の途中までは友達と一緒にここで遊んでいた。3年生になってからは皆ゲームをやり始めて、俺は習い事ばかりだった。


「…次、行こうか」

「え、もう?」


 暗くなる話はやめておこう。愚痴を聞いてもらうために一緒にいるわけじゃないんだ。


 そして次はバスを使って移動して、サッカー場にやって来た。今は小学生のクラブが練習で使っているようだ。


「俺、中学の頃はサッカー部だったんだ。本当は高校もスポーツ推薦で、今の場所に行くはずじゃなかった」

「…ポジションはオフェンス。ドリブルが上手だったけど、点は一度も獲ってない」

「よく知ってるな。もしかしてファンか?」

「マネージャーやってたんだよ。大会で私の学校と対戦もした」

「そうだったのか。その時はどっちが勝った…いや、やっぱりいいや」


 凄いドヤ顔を見せ付けられた。きっと負けたんだろうな。


「凄いドリブルだったよね~こっちの選手誰も追い付けなかったし。途中からいなかったけど、どうして?」

「足の怪我で引退したんだ。しばらくの間は激しい運動は控えろって」

「そういえば体育の授業中、皆と比べると静かだよね」


 それは単純に友達がいないだけだ。今はきっと大丈夫。


「そうだ!」

「うわぁ急に大声出すな!」

「ナインちゃんの魔法で怪我を完璧に治してもらおうよ!」

「頼んだけど、そういう系の杖は作れなかったって…それに一生治らない傷じゃないんだ。ゆっくり待つさ」


 ………良くないな。うん、暗い話をして急に雰囲気が重くなった。話題を変えよう。


「黒金君は部活入らないの?文化部とかで」

「俺は帰宅部だ。寄り道しないで真っ直ぐ帰ってる模範的な部員だ」

「あぁそうなんだね」


 あ、今スベったな。反応に困ったような口振りで分かる。


「…灯沢は何部なんだ?」

「園芸部だよ。B棟に屋上農園があるんだ」


 屋上農園!?珍しい物があるんだなうちの高校。そんなのテレビでしか観たことないぞ。


「どうせ暇なんでしょ。今度観に来てよ。先輩達の花、凄く綺麗だから」

「あぁ、そうさせてもらうよ」


 出発するのが遅かったのと、移動に時間を掛け過ぎたこともあったので、灯沢の門限が近付いて来てしまった。


「そろそろ帰らないと…また月曜日ね」

「あぁ。気を付けて帰れよ」


 俺も帰ろう。なんか良い文章を書ける気がする。




「えええええ!?そのまま帰って来ちゃったの!?」


 帰って来たら何故かナインに驚かれた。俺はこいつが高そうな寿司を食べていることに驚いた。

 こいつ、一人で良さげな物食いやがって。


「いや、別に付き合ってるわけじゃないしこれぐらいだろ。そもそも、魔法の杖で始まったデートだったわけだし」

「あああああああ!この馬鹿!」

「馬鹿はお前だ!いかにも高級な感じの寿司頼みやがって…俺にもよこせ!」

「手ぇ近付けるんじゃねえぶっ殺すぞ!…実はユッキーはね、杖を振ってな──」

「はいウナギいただきいぃい!」


 うめえええええ!回転寿司のよりもウナギが分厚いし、甘ダレも普通じゃない!こんな旨い寿司、独占させてたまるかよ!


「食いやがったなてめぇ!こうなったら…」

「そうやって仕返しする準備に時間を使うがいいわ!マグロいただきまあああす!」


 とりあえず今日のことは良い経験になった。スランプも脱却出来そうだ。

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