第50話 「チェーン!タダンダン!」
「ナイン!」
「おう!」
俺達は叫んだ。
「ナイーン!」
「おーう!」
俺達はまた叫んだ。
「ナアアアイイイイン~!」
「オオオオオオオオオオ!」
俺達はまたまた叫んだ。
「アーイヤイヤイヤー!」
「ドゥッドゥルルルルルル!ドゥッルルルルル!」
そして俺達は歌った。
「どうだ?何か変化あったか?」
「いや何も。やっぱり発動条件があるんだろうね」
ファーストスペルを研究するため俺はアパートの前でナインの名前をずっと叫んでいた。サウンドプルーフ・ワンドで音を消していなければ、近所迷惑だと警察を呼ばれていただろう。
「もしかして…気のせいだったんじゃね?」
「いいや。ロイドとの戦いの時、君に名前を呼ばれて確かにパワーアップした。実際に僕の身体が貫通力の高い弾丸を通さなかったじゃないか」
確かに…実際に名前を叫んで強くなった彼女をこの目で見てるから、気のせいではないか。
「…魔法を習得するのって難しい事なんだな」
「しかも普通の魔法じゃなくてファーストスペル関連だからね。参考になる資料もないし、自分で研究するしかないんだ…それにしても凄いなー光太は。ファーストスペルが分かったなんて」
しかし発動出来たのは最初の戦いだけだ。ウォルフナイトとの戦いで発動出来ていれば、倒せていたのに…
「発動すれば無茶苦茶強いミラクル・ワンドと、名前を呼ぶと僕が強くなるファーストスペル。光太は変な魔法に愛されてるねぇ」
「ナイン、ナインナインナインナインナインナイーン」
「気持ち悪いなぁ連呼しないでよ」
好きなタイミングで使えないのなら、結局これもミラクル・ワンドと同じ。運任せの力ってことになるな。
ブルルルン……
アパートの前に原チャリが停車した。乗っていたのは水城星河だった。
「ホッシーだ!凄い久しぶりな気がする!」
「久しぶりね光太君、ナインちゃん」
俺達がアノレカディアに行っている間、水城は魔獣に備えてくれていたんだっけ。結局魔獣は出現しなかったみたいだし、連れて行ってあげても良かったな。
「暇だったから遊びに来たわよ」
「あ~すまんな、帰ってくれ。俺達は魔法の特訓で忙しいんだ」
「…そうだ光太。ホッシーと戦ってみようよ!」
いきなり何を言い出すかと思えば…でも確かに、悪くない提案だ。
「私と戦う?まあ光太君がどうしてもって言うなら…でも、手加減はしないわよ。それじゃあ行く──」
「わああああああ!ここで始めようとするな!アパートがぶっ壊れるだろうが!」
俺達はアノレカディアへと渡った。そして滝の付近の木々を二人が伐採し、充分に戦えるスペースを確保した。
「さあ二人とも。本気でかかっていらっしゃい」
「こっちは二人だ。連携して追い詰めるぞ!ナイン!」
「おう!」
ナインは応えてくれるが、変化は見られない。意識して名前を呼んでみたけど、やっぱりダメみたいだ。
ナインが走り出すと、無数のチェーンが地中から飛び足した。
「マグネット・ワンド!」
俺が振った杖からエネルギーの球が発射された。球には金属類を寄せ付ける力があるので、これなら水城の攻撃を妨害出来る。
そのはずなのに、チェーンは球体に引き寄せられることなく、ナインに襲い掛かった。
「これは鎖は鎖でもプラスチックよ!」
「すまんナイン!」
「次の杖用意して!」
しかし簡単にやられるナインではない。自らを捕らえようとするチェーンを回避しながら、それを操る水城へ距離を詰めていった。
ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!ドゴン!
「チェーン・ヤマタノオロチ」
「束になった鎖が龍に見えるだけだ!」
地面から龍の頭は、ナインではなく俺を狙う。そりゃあ相手が複数人なら、まずは弱いやつから潰していくのが正攻法だよな。
「突っ込めナイン!防御に使える杖を既に引いてある!」
風を発生させるウインド・ワンドで突風を起こすと、8つの頭はグラグラと揺れてその場で止まった。いくら集まっても所詮はプラスチックだ!
ドゴッ!
ナインが横蹴りを放つ。それを水城は腕で防いでいた。
ドボッ!
そしてまた地面から新しいチェーンが現れ、ナインの足に巻き付いた。
無防備なナインを守るのが俺の役目だ。防御に使える杖が出てくるのを祈り、バッグから引き抜いた。
「この杖は…やるしかない!」
「喰らいなさい!」
「「チェーン!タダンダン!」」
水城は呪文を唱えた。しかし何も起こらない。それどころか、周囲のチェーンが消えてしまった。
「え…え?どういうこと?」
「光太、その杖…」
「どうする水城、降参するか?」
「チェーン!…魔法が使えない………参ったわ。降参よ」
「ナイン。解除してやれ」
「ホッシー!ジンクス!」
「…?」
俺はこのスペルジンクス・ワンドで水城の魔法を封印した。この杖を持っている時に、狙った相手と同じタイミングで同じ呪文を唱えると、その相手の魔法を封印出来るという強力な杖だ。
封印を解除するには1時間経つのを待つか、誰かに「ジンクス」と言われなければならない。
「凄いね光太!その杖の能力、僕だって一回も成功させたことないのに!」
「覚えてる限りで何を唱えるかって考えたんだ。ウォルフナイトとの戦いの時、拘束してからこれを唱えたから、もしかしたらって…」
チェーン・タダンダンはチェーンを何度も衝突させる恐ろしい攻撃だ。それをナインに放とうとしていたとは…容赦ないな。
「…まあ実戦もこんな風に上手く行けば苦労しないけどね!」
「魔獣は呪文なんて唱えねえもんな」
「光太君…私の呪文を覚えていてくれたのね…」
「いや、お前の呪文それしか知らねえから」
他にも呪文はあるだろうし、当てれたのはラッキーって感じだな。
「呆気なく負けて悔しいからもう1戦やりましょ!もっと色んな魔法を見せてあげる!」
「よぉぉし!光太、気合い入れてくよ」
「あぁ、もう一回負かしてやろうぜ」
それから俺達はまた戦いを始めた。
熱くなっているが後々、ファーストスペルの事をすっかり忘れていたことに気が付くのだった。