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第48話 「誰!」

 大会が終わった次の日、かつてサヤカ達との修行で移動する時に使ったスキップトラベル・ワンドでラミルダへ飛んでいた。


「凄いですよ会長!俺達飛んでますよ!」

「そうだな狼太郎。あまりはしゃぐな。落ちてしまうぞ」

「ほら鳥!鳥ですよ!」

「魔獣みたいな鳥だな。殺した方が良いんじゃないのか?」

「なんでもかんでも殺そうとしないでよ!…もう会長さんは二度と連れて来ないようにしよう…」

「凄いよ黒金君!足元に海がある!なにあれ!?龍みたいなのが泳いでるよ!」

「知ってるぜ。あれはリヴァイアサンってやつだろ」

「あれはウナーギャっていう魔物だよ。蒲焼きにしてご飯と一緒に食べると美味しいんだ」


 灯沢も楽しんでいるようで何よりだ…眠い。もう少しだけ眠っていたかったな…


「ナイン、体調はどうだ?」

「まだ痛いところとかあるよ…それにお腹も空いた!早く帰って何か食べたいや」


 いつも通りの能天気具合で安心した…にしても大会の運営委員会め。

「大会が終わった後の治療は有償です」だなんてふざけたこと抜かしやがって!


「…そうだ光太。僕の名前呼んでよ」

「?…ナイン」

「もっと気持ちを込めて!魔法の呪文を唱えるみたいに…」

「ナイン!」

「うーん…ダメだな。試合の時みたいにパワーが出ないや。僕の名前が君のファーストスペルなのは驚いたけど、強力なだけあって魔法の発動条件がありそうだよ」


 ファーストスペル…アドバイスをくれたバリュフには感謝しきれないな。

 それにしてもあいつはどうして俺を鍛えるような事をしたんだろうか。ノートにも魔獣を一撃で倒す程の実力があった。きっとあの二人ならロイド達に勝てたはずなのに…


「本気出されてたら俺達負けてたよな」

「え?誰に?」


 アン・ドロシエルは頭だけになっても生きている。この大会に出て得られたのは、ナインを強くする魔法の呪文ぐらいか…


 もっと強くならないと…




 2時間ほど飛び続け、ラミルダの滝に到着。元の世界へ続くゲートを通り、見慣れたアパートの和室に戻って来た。


「たっだいま~!」

「おい靴脱げ。汚れるぞ」


 灯沢と生徒会長達を帰らせてから、俺達は下の階のたちへ挨拶に行った。


 コンコンコン…


 ノックをするとドアノブが回り、エプロンを付けたツバキが迎えてくれた。


「おかえり。もう帰って来たのね」

「まあ大会出るだけが目的だったし…あれ、なにこの匂い」

「これからお昼よ…一緒に食べたいって言うなら──」

「光太~ハンバーガー食べに行こー!」

「せっかく誘ってるんだから招待されなさいよ!」


 部屋の中は異常なほど暑かった。気温が落ち着いた春なのに、なぜか暖房が稼働している。


「なにこれ、我慢大会?」


 しかも昼食は鍋のようだ。色も真っ赤で匂いも強い…凄く辛そうだ。


「おーナインよ。やっぱハンバーガーにしよーぜ」

「そうだねー」

「逃げるな!」


 ツバキによって強引にちゃぶ台の前に座らせられた。前の鍋と後ろの暖房に挟まれ、恐ろしい程に暑い。


「あちーよ!誰だこんな馬鹿みたい事やろうって考えたやつ!」


 サヤカか!?ジンか!?それともツバキか!いやこんなふざけた事を提案するのはツカサだ!


「私です」


 返事をしたのはキッチンに立っていた見知らぬ少女だった。


「誰!」

「上の階のあなた達の部屋の隣のさらに隣に引っ越して来た石動(いするぎ)加奈子(かなこ)です」

「ややこしいな!」

「組は違いますけど、黒金君とは同じ学年ですよ」


 同じ学校の人か。眼鏡掛けた地味な子…やっぱり見覚えがあるような気がする。


「引っ越しの挨拶にお昼作ってくれるって言うから楽しみにしてたらこれだよ。灼熱地獄」

「鍋は暑い時ほど美味しく感じられんです。さあ、召し上がってください」


 だからって室温を上げるにしても限度があるだろ…


 彼女に催促されて、俺達は嫌々真っ赤になった具材を口に入れた。それからすぐ、サヤカが倒れた。


「からっ!水!」

「いけませんよ。この辛い物を食べた直後に水を飲むと身体に悪いです」


 石動は平気な顔して食べ続けている。味覚が壊れてるんじゃないのか?


「美味しいな。腹も膨らんでメンタルトレーニングも出来て一石二鳥ってやつか」


 そして俺達の中からも1名。平気でこれを食べる人物がいた。


「ツカサ、あんたおかしいんじゃないの!?」

「あーごちそうさま。俺アイス買ってくるね」


 ツバキはジタバタと床で転げ回り、ジンは買い物と偽って逃走していった。


「黒金君、食べないんですか?」

「一口目で食欲失せちゃったよ…」

「せっかく作ったのに…残念です」

「ごちそうガッ!?」


 この女!席を立とうとした瞬間に口の中に具を!


「こうして異性に食べさせてもらうとさらに美味しく感じるらしいです。どうですか?」

「…ごちそガッ!」

「どうですか?」

「…オイシイデス。モットタベタイナ」


 3発目でもう口の感覚がなくなった俺は、諦めて食事を続けた。






「はぁー…ケツが焼けるように痛い」

「光太!そろそろ15分立つよ!交代して!」


 昼食の後、早速腹を壊した俺達は時間制にしてトイレを使い続けていた。


「おい!(クセ)えんだよ!腹で毒でも作ってんのかよ!」

「文句あるならコンビニのトイレ使えよ!」

「トイレのためだけにコンビニに入るのはマナー違反っで~す!」


 今度はナインがトイレに入った。下手に動くとまだ残っている物が出そうなので、俺は廊下に座って15分経つのを待った。


「…そう言えばナッコー、一番端の部屋だね」


 また変な呼び名付けたな…


「だな。2階の空き部屋は真ん中だけか…」

「大家さん、隣は幽霊が出るから誰も住ませる気はないって言ってたよ」

「えーなにそれ。怖ッ…」


 そんな事故物件の隣に俺たちは住んでたのか。


「仲良くなれると良いねぇ」


 そして次の日。まだ腹の調子が悪いままだが、俺は登校する事にした。

 玄関を開けて外に出ると、ちょうど石動が階段を降り始めるところだった。


「あ、おはようございます」

「おはよう…」


 石動は階段を降りるとこちらを向いてその場に立った。まさか俺の事を待っているのだろうか。

 階段を降りて学校へ出発すると、石動は俺の隣を歩き始めた。


「あの…」

「なんですか?」

「どうして俺の隣歩いてるの?」

「せっかくなので一緒に登校しようかと…迷惑でしたか?」


 こういう尋ね方ズルいよな~…はいって言えねえもん。


「い、いやそんな事ないよ…石動さんって一人暮らしだよね」

「はい。興味があったので両親に頼んだら、学校に近いあの部屋を借りてもらえました。黒金君は…彼女さんと二人暮らしですか?」

「あー…うんうん!そんなところかな」


 世間話をしているとあっという間に学校へ着いた。誰かと登校するのは意外と悪くないと感じた。


「黒金君、おは…」


「おはよう」

「灯沢さん。おはようございます」

「俺のクラスメイトなのに名前知ってるの?」

「同学年の人は名前を全て覚えました」


 凄い人だな。きっと物を覚えるのが得意なんだろう。


「それではこれで」


 一礼をして自分の教室へと入っていく。なんて礼儀正しいやつなんだ。どっかのサキュバスとは大違いだ。


「…そうだった」


 教室に入った途端、男子達に睨まれて思い出した。アノレカディアに行く前に灯沢を泣かして、あいつら敵に回したんだった。

 しかしもう今は仲直りしてるんだ。ここで軽く会話を交わして、友情を見せ付けてやろうじゃないの!


「そうだ灯沢!…灯沢?」

「………何?」


 彼女は冷めた目で俺を見た。あれ?確かに仲直りしたよな?この世界に帰って来るまで、色んな物を見てトークしたよな?


「…なんでも、ないです」


 今話し掛けるのはやめておこう。いや、今後一切関わらない方が身のためかもしれない。敵にしてしまった相手が悪かった。


 ガクンッ…ガクンッ…


 授業中、眠気に襲われた。まだ戦いの疲れが残っているのだろうか。

 現状成績はオール4だ。1つぐらい下がっても大丈夫。今はゆっくり眠ろう…




「黒金君、起きてください黒金君」

「ん…」


 俺を揺さぶるのはどこのどいつだ?


「もうお昼ですよ。一緒にご飯食べませんか?」


 石動か…


「…なんで?」

「食事は誰かと一緒に食べた方が美味しいですから」

「だったら同じクラスの水城と食えよ。デザート配ってたりするぞあいつ」

「賑やか過ぎるのは嫌いです」


 こいつ俺と同じだ。友達いないんだろうな。可哀想に。


「加奈子~!早く食堂行こうよ~」

「少しお待ちを。一緒に行きませんか?」

「…行かねえ」

「そうですか…残念です」


 いや友達いるじゃねえか!どうして俺を誘った!?お前達の輪に俺が入れるとでも思ってんのか!


「ふぅ…行ってくれた」


 俺ってば入学当初はファッション陰キャだったけど、ここまで来るとマジのレベルだな。友達って呼べるやつ何人いるんだ?

 灯沢はなんかキレてるし、水城は…あいつは器が大きいんだろうな。

 はい、もう友達って呼べる人いない。ダメだこりゃ。


 ブルブルブルブル…


 スマホが震えた。どうやらナインが電話を掛けてきたようだ。


「もしもしナイン?どうした?」

「光太大変だよ!前に学校で暴れたあの獣人だ!」

「なんだって?…俺をそっちに呼ぶ魔法とかないか?」

「うん。今から召喚するから、準備してねって言おうと思ったんだけど」

「今から!?」


 ピチュン!


 次の瞬間、俺は教室ではない単端市内のどこかに立っていた。周囲に一般人の姿はなく、少し先の方でジンとツカサが獣人と戦っていた。


「今度こそやつを仕留める!力を貸してくれ、光太!」

「おっしゃあ!」


 ナインからウエストバッグを受け取り、装着しながら獣人の元へ走った。

 あいつめ、今度こそ倒してやる!

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