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第77戒 最後の幸せ

 少し時間が経つと、ディリー達が風呂から上がって来る音が聞こえた。


「そろそろだな。皿並べるぞ」


「うん」


 そう言って皿を並べていく。そして、陽炎がちょうど並べ終わったところで部屋のドアが開いた。


「早かったな・・・て、お前ら服どうした?」


「それが・・・無いの。無くなってるの」


 そんなわけないだろ。と言いたい気持ちでいっぱいだが、もしかしたらもあるのでとりあえず見に行くことにした。


「ほら!ここにあるはずなのにないのよ!」


「・・・まぁ、ここには無いな。当たり前だけど」


 陽炎は呆れたように言う。しかし、ディリーは何でか分からないと言った様子で指を指す。陽炎はその指を持って、後ろに向けた。


「・・・後ろにあるんだよ」


 ディリー達はそう言って指を向けた方を見て固まった。そして、体を小刻みに震えさせる。


「早く着替えろよ。朝食はもうすぐできるんだからな」


 陽炎はそう言って風呂場を離れた。テムの元に戻ると既に皿は並べられていて、朝食も完成していた。テムはスプーンとフォークを並べて待っていた。


「悪いな、待たせちまった」


「いや大丈夫だよ。皆は?」


「今着替え中。来るまでに時間がかかりそうだから料理器具は洗っておくよ」


「ありがとう」


 ━━ディリー達は陽炎がちょうど洗い終わった頃に来た。そして、来るなりすぐにら席に着く。


「お前ら、来るのは遅いのに座るのは早いな」


 陽炎はすぐにツッコんだ。ディリー達はそれが図星だったためか、びくんっと体を震わせた。


「まぁいいや。さ、皆で食べよう」


 陽炎は席につきそう言った。すると皆は手を合わせ合図を待つ素振りを見せる。


『いただきます』


 全員で声を合わせてそう言った。


「ご馳走様でした」


 陽炎だけそう言った。すごく早かった。食べ始めて7秒くらいで全て食べてしまった。流石のテムも目を疑った。皆はまだ残っているが手が止まる。


「かーくん早すぎじゃない?」


「普通だろ」


 そう言って皿を片付ける。全員は驚きすぎて声も出なかった。


 ━━さらにそれから数十分が経った。全員は食事が終わり皿を片付ける。そして、皆は外へ出ていった。


「偉いな。こんな日まで稽古するなんて」


「毎日やらないと体が訛っちゃうからね」


 陽炎は稽古をする皆を見て外へとでてきた。外に出るなり陽炎は椅子に座って皆を観察し始める。


「かーくんもやろうよ」


 テムはそう言ってきたが、食べたあとは流石にキツい。陽炎はやめておくと皆に言った。


「はっ!やっ!」


「えいっ!ふーっ!」


 皆の声が聞こえる。可愛い声だ。ずっとみんなを見ていると何かが煌めいている。


「汗か・・・」


 皆の汗が煌めく。それを見ていると星のようだ。


「練習でかく汗は良いな。あんなことでかく汗よりマシだ」


 そんなことを言う陽炎の頭の中にお仕置をしている時の皆の顔が浮かんだ。


「ちょっと何を考えてるの?」


 突然ルーシャの声がして冷や汗が吹き出した。


「な、何でもないよ・・・」


「?」


 ルーシャはとても不思議そうな顔で首を傾げた。陽炎はそんなルーシャを見て笑う。


「なんで笑うのよ!」


 ルーシャはいつも通り頬をふくらませて怒る。これがいつも日常。ただ1人を除いてその日常を楽しんでいる。


「テムちゃん、どうしたの?」


「え!?な、何でもないよ!」


 フェルルはテムに聞いた。テムは何でもないとは言ったがどこかおかしい。フェルルは不思議な感じになって陽炎の方を見た。陽炎もこっちを見ている。その顔はどこか悲しい顔だった。


「あ、そうだあれを作ろう」


 そう言って突然陽炎は立った。そして、魔法を使わずに普通に素材を持ってきてかまどを作り始めた。


「何してるの?」


「バーベキューセットを作ってるんだ。昨日言っただろ」


「そういえば言ってたね」


 皆は陽炎が作っているものに興味津々なようだ。取り囲むように陽炎の周りに集まってきた。陽炎は、そんな皆に見せるように着々と作っていく。気がつけば日が暮れ始めていた。


「もうこんな時間か・・・あとは固まれば完成なんだが、今日中には無理だな」


 陽炎がそう言うと皆はしょんぼりする。


「じゃあ、次にやろうな」


 陽炎は優しい声でそう言った。すると、皆が安心したような笑顔になる。


「何安心してんだよ。そんな不安なことがあったのか?」


「えへへ〜、だってぇ〜」


 ディリーは凄く嬉しそうな顔で照れる。陽炎もその顔を見て微笑んだ。


 ━━それから数時間がたった。全員は夕飯を終え、風呂場へと向かい始める。風呂場に着くと、服を脱ぐ前に陽炎が口を開いた。


「なんで全員一緒に入るんだよ。風呂に入り切らねぇだろ」


「大丈夫だって」


 何が大丈夫なんだよ、と言いたかったが何が作戦があるのだろうと思い服を脱ぐ。脱ぎ終わるとタオルを手に持って中へと入った。その後を追って皆も入ってきた。


「で、どうすんの?」


「こうするの。こうやって皆でくっつけば入るんだよ」


「へぇ〜それは良い案だな」


 陽炎は少し興味深いと言った感じで体を洗い風呂に入る。そして、足を伸ばして楽な姿勢をとる。


「お前ら、ちゃんと体は流せよ」


『は〜い』


 全員は体を流し風呂の中に入る。入り切らないので、全員陽炎に抱きつく形になっているが陽炎は何も思わない。


「ルーシャ、お前だけなぜ俺の腰の上なんだ?」


「え?だってここならかげくんを気持ちよくさせられそうだったから」


「それならいいけど・・・」


 陽炎は少し困ったような顔をしたが、確かに気持ちよくなりそうだからどかさずに抱きついてみた。


「ちょっ、かげくん!?」


 皆が陽炎とルーシャを見て微笑む。ただ1人を除いて。


「テム、本当にどうしたの?今日は朝からおかしいよ」


「え?大丈夫だよ。本当に心配しないで」


「・・・」


 テムは微笑む。そして、風呂場を出て行ってしまった。


「どうしたんだろう・・・」


「・・・俺も上がるよ」


「え?早くない」


「俺はいつも早風呂だろ」


「確かに」


 そんなことを言って陽炎は風呂場を後にした。


 ━━皆は20分たつと風呂場から出てきた。その間陽炎は家中を探し回ってテムを探していた。しかし、見つからなかった。そして、ディリー達が風呂から上がってきて陽炎はリビングへと戻ってきた。


「テム!?こんなところにいたのか」


「あ〜ごめんね。ちょっと用事があったから・・・」


「フッ、別にいいさ」


 陽炎はそんなことを言ってテムの隣に座る。テムは陽炎を見てその場に座り込む。


(ずっとこんな時間が続けば良いのに・・・)


 テムの頭の中はそんな考えでいっぱいになった。そして、決心したように静かにうなづいた。


 ━━11時59分・・・


「さぁ、行きましょう」


 テムは牢屋へと来ていた。中にいるメルを牢屋から出して外へ出て行く。


「待て!」


 突如後ろから声がした。振り向くとそこには、陽炎がいた。陽炎は全て分かっていると言った感じで立っていた。


「かーくん・・・ごめんね。やっぱり一緒にいるのは無理だよ」


 テムはそう言う。それに対して陽炎は言った。


「なんで?」


「だって・・・私がいると、かーくんの国とエルフの国で戦争になっちゃう・・・」


「・・・」


「だから、ここにはいられないの。皆に迷惑かけたくないから・・・」


 テムはそう言いながら泣き始めた。大粒の涙を流しながら陽炎を見つめる。


「だが、そっちに行けばお前は捕まる。拷問もされるし凌辱もされる。それでもいいのか?俺は嫌だ。お前が犯されるのを黙って見ている訳には行かない」


 陽炎がそう言うとテムは凄く嬉しそうな顔をした。そして、大粒の涙を大量に流し顔を手で覆う。


「考え直してくれ!俺と一緒にいてくれ!・・・今日1日、俺のわがままを聞いてくれるっていう約束だったろ!これが俺の今日最後のわがままだ!」


 そう言って陽炎は手を差し伸べた。あとはこの手を掴むだけで良い。それだけでまた幸せになれる。・・・でも、しなかった。テムは振り返ると2人で歩き始めた。そしてテムは指輪を外して言った。


「・・・もう、12時は超えてるよ・・・ごめんねかーくん・・・楽しかったよ」


 そう言って振り返る。そして、陽炎に近寄ってきた。テムは陽炎に近づくと指輪を渡していつもより長く、上手に舌を入れてキスをした。


 くちゅっ♡くちゅっ♡くちゅっ♡・・・


 不思議な音がなる。2人は終わるとテムだけ後ろを向いた。そして、顔だけ振り返り言った。


「ありがとう!かーくん!」


 テムは泣きながらそう言って行ってしまった。


「テム・・・」


 陽炎の声が虚空の中に消えていった。

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