第48戒 もう1人の自分
「まだ諦めるな。勝機はある」
目の前の自分はそう言う。だが、今の状況は絶望的だった。片腕を失い、魔力は枯渇している。さらに、今蹴り飛ばされる瞬間に左腕と左足を切断されていた。もう痛覚がおかしくなって気が付かなかったようだ。
「無理だよ・・・この体じゃね。それに、ここって?」
それは、白い空間だった。何も無い白い空間。
「ここは、真相の世界。とりあえずピンチだったんで呼んでみただけだ」
「・・・なんだよそれ・・・」
「そんなことはどうでもいい。重要なのはお前はまだ勝てるということだ」
「何言ってんだ。勝てるわけ・・・」
「大きな力には代償が必要だ。それが大きければ大きいほどそれは大きくなる」
もう1人の自分は突然そんなことを言い出した。それは、陽炎がよく言う言葉だった。
「まだ、お前は強くなれる。力を手に入れろ」
「代償がない」
「あるさ」
「いやないね。両腕はなくなった。片足もだ」
「いや、それじゃない」
「なら目か?それとも魔力か?」
「それも違う」
「じゃあなんなんだよ?」
2人は言い合った。あっちがそういえば、こっちがこう言う。そっちがそう言えばこっちがこう言う。これの繰り返しだ。
「お前は今かなり追い込まれているな。なぜそうなったか分かるか?」
「・・・」
「それはだな、お前が甘いからなんだよ。お前は甘い。甘々すぎて口にも入らん」
「・・・」
陽炎はずっと黙っている。なんと言われても・・・。その様子を見てもう1人の自分は続けた。
「その甘さが今の状況を作った。甘さを捨てきれないからここまでやられた。なぜあの時2人を無視してシュレイルを殺さなかった?なぜ2人を肉壁にしなかった?なぜ、初めから出てくることがわかってて不意打ちしなかった?全部甘いんだよ。お前がする何もかもがな」
「・・・そうかもな」
「そして、またお前は甘さを使った。3人は返してよかったが、2人は残して壁にすればよかった。あいつらはまだ大魔界帝国の国民じゃない。慈悲は分ける必要が無いんだぞ」
「・・・そうだな」
「慈悲はいらん。甘さは弱さだ。強くなれ」
「・・・だが、その甘さが5人を救った」
陽炎は小さく呟いた。それが聞こえたのかもう1人の自分は大声を出した。
「それが弱さだって言ってんだ!お前のその弱さが皆を悲しませるんだよ!」
陽炎はそれに反応して声をはりあげた。
「言わせておけば!お前に何がわかるんだよ!?力に溺れたクズが!」
「何!?お前が甘いからこうやって言ってんだろ!自覚がねぇのか!?」
「あるよ!確かに俺は甘い!自分でも思えるほどにな!だがな、それでみ皆を救えた!それだけで十分なんだよ!」
「お前が死んだら意味が無いだろ!お前の目的はなんだ!?幸せに生きることだろ!お前が死んだら幸せなのか!?違うだろ!だったら・・・」
「あぁ、そうだよ!俺は幸せに生きる!そのために障害となるものは全て消す。そのつもりで戦ってきたよ!だがな、俺が力に溺れていってあいつらは幸せなのか!?」
「っ!?」
「勝てない相手がいるから力を手に入れて、何かを失って!まだ力を手に入れて何かを失う!それを続けたいのか!?俺は嫌だ!今ここで甘さを失うことは、皆から嫌われることと同じだ!力を手に入れるために甘さを捨てる・・・いや失う!それは、皆の好きな陽炎を捨てることと同じなんだよ!」
「っ!?言わせておけば・・・」
「あぁ、言うね!どんなことも言ってやるよ!もし俺が甘さを捨てたらあいつらは許してくれると思うか!?」
陽炎は話が脱線しながらもどんどん話を進める。最初は押されていたが、いつもの陽炎よりかなり怒っている。
「許すさ!だって・・・」
「そうだ、絶対に許すだろう。だが、それであいつらは笑顔になれるのか?いつも通り笑ってくれるのか?きっと無理だろうな。あいつらの笑顔を見れないのはな、死んでるのと変わらねぇんだよ!」
「クッ!」
「力を手に入れないと死ぬかもしれないけど、それでも!俺はアイツらの笑顔を見るために大事なものは取っておく!そうしたいんだよ!」
「いずれその甘さがお前を死を招く。それだとしてもか!?」
「それでもだ!俺はアイツらのために勝つ。そして、強くなる。強いから好きなんじゃない。かっこいいから好きなんじゃない。そんなアイツらのために優しく、甘く、強くなる。そう決めたんだよ!」
ついにもう1人の自分は何も言わなくなった。顔を曇らせ下を向いている。すると、突然顔を上げこっちを見つめた。その表情には、何か全ての計画が上手くいった時と同じ表情を浮かべている。
「よくやった。そこまで元気になれば勝てるさ。試すようなことして悪かったな」
「・・・なんだよ・・・そういうことかよ・・・」
もう1人の自分は不敵な笑みを浮かべた。やっぱりもう1人の自分だ。やることも全然変わらない。
「クソ!声出しすぎて喉が枯れたよ」
「そう文句を言うな。それに強くなりたいだろ」
もう1人の自分はそんな提案をしてきた。
「それはあれか?甘さを捨てることか?」
「バカか。違ぇよ」
「ならなんだよ?さっきも言ったが、俺には代償がもうないんだよ」
「いやあるさ」
「だからないって」
「ある」
「ない」
「ある」
「だぁぁあ!もう、ないって言って・・・」
突然言葉を止めて目を開いた。そう、確かにあるのだ。それを見つけた。思いついた。
「だが、それをしたらあいつらは・・・」
「許してくれるさ。さっき言ってただろ」
「あぁ、そうだな・・・。だが、呪文が・・・」
「知ってるだろ。だから古代魔法が使えた」
「っ!?」
確かにその通りである。陽炎は何も言えずに黙っておくことしか出来なかった。もう1人の自分はその様子を横目に話をどんどん続けていく。
「それをしないと、本当に勝てない。本当に甘さを捨てることになってしまう。それなら、一か八かにかけて甘さを捨てないで勝つ。その方がいいだろ」
「だが失敗したら、普通に死ぬぞ。一か八かすぎんだろ」
「仕方がない。禁忌だからな」
そう、禁忌の魔法だ。失敗すれば死ぬしかない。だが、目の前にさっきまでいたシュレイルはそれを乗り越えてここにいるのだろう。だからあんな強さと古代魔法を持っているんだ。
「まさか、俺がこんなことをしないといけないとはな」
「それも一興だ。試験かなんかと思え」
「だが、何を手に入れるかは分からない。それに、俺には魔力がない」
その時陽炎の魔力は0だった。これ以上魔法は使えず、傷の回復もできない。それどころか、ところどころ体の一部がない。そんな体で出来るのだろうか。
「だから何度も言ってるだろ。出来るかじゃなくてやるんだよ」
そんなことを言ってきた。
「何度もって、1回しか言ってねぇだろ。ま、やるしかねぇよな」
「頑張ってこい。お前なら出来るさ」
そうして陽炎ほ片足でたった。初め変なところに呼び込まれて、突然を暴言をはかれ、怒鳴られ、怒られ、ダメ出しされ、言い返して口論になれば突然手のひらを返したかのように仲間になる。やっぱり自分だ。そんなことを思っていると白い世界はきえた。あとは自分でやるだけだ。こんだけ言われたんだ。いつの間にか話は終わっていたけどやる時はやる。そう思った。
「残念ね。さよならだわ」
そんな言葉が聞こえた。時間はあまりたってないみたいだ。だが、目の前にシュレイルはいる。時間は無い。すぐに小声で呪文を唱えた。
「じゃあ行くわよ!」
来た。剣を手にしてこっちに来た。だが、ギリギリで間に合ったようだ。
「”古代魔法発動”」
そう言って心臓に手を突っ込んだ。そして取り出した。あと時間は数秒。出来る。
「”жμεшыζю=β”」
その呪文は聞き取れない。なんて言っているかも分からず唱え終わった。そして陽炎は、その場に倒れた。
「あはははは!馬鹿ねぇ!本当に馬鹿ねぇ!自滅するなんて!何か言っていたけど、無駄だったわね!」
そしてシュレイルは振り返り外へ出ようとした。だが、異変に気づいた。何かなくなっている。さっきまであったものがなくなっている。
「ハッ!?血がない。あいつの・・・いや、アイツらの血が全部無くなっている!?」
そう、あれだけ流した血が全て無くなっているのだ。すると、少しの血が動いているのに気づいた。それは、どんどん動いていき陽炎に向かっている。そして傷口から中に入る。
「一体何が・・・!?」
何が起こっているのか分からない。すぐにでも陽炎を殺さないといけない。そんな気がしてシュレイルは動いた。だが、既に遅かった。
「っ!?なん・・・で・・・?」
シュレイルは本当に何が起こっているのか分からなかった。さっちゃん心臓を取り出して死んだはず。あれだけ怪我をしていたら何もしないでも死んだはず。死ぬ理由を探せばいくつでも出てくる。なのに目の前に男は立っていた。傷は全て治り平然と立っている。
「死んだはずじゃ・・・」
「フッ、俺が死ぬとでも?どうやら間に合ったようだな」
「間に合った?一体何が・・・」
「見てたらわかるさ。続きを始めよう」
「クッ・・・クソッ!”▁▂▎▊▊”」
またよく分からない言葉を唱え糸を引いた。すると、陽炎の両腕は切断され、体中に深い傷がつけられた。
「ふふふ・・・っ!?」
「残念だったね。もう効かないんだ」
そう言って足を進める。体は再生し傷はなくなった。
「ファイナルラウンドだ」
陽炎はそう言った。
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