白いケモノは尻尾をブンブンさせました。
翌日、メイドさんの元に、国の宰相が来ていました。宰相は王様と一緒に、国を支えている人です。
宰相はため息をつきました。
「陛下は本気で、塔に引きこもるつもりか?」
「そのようですよ。毎日、シロさまに会っていたのに、三日も会えなくて、不満だったようですからね。四日は、シロさまを独り占めしないと気がすまないんじゃないでしょうか」
「……陛下からは、一週間と聞いている」
「それはそれは」
メイドさんは、ふっと微笑みました。
「陛下はシロさまが小さい頃から、お兄さまの修行にも必死で耐えられ、一途にシロさまを思ってきました。これくらい大目に見たらいかがですか?」
「……まあ、そうだな。シロさまが可愛くて辛抱たまらん。今すぐ嫁にしたい。約束の十年になったし、もういいよな?と、言ってきたときの陛下の鬼気迫る目。思い出すと、背筋が凍る」
「それはしかたないかと。陛下はシロさまのことしか、考えていませんもの。ところで、陛下のお兄さまは、本当に隣国にいるのですか?」
「いる。〝ハロー、元気か? 私は嫁さんをもらった。子供もいる。ははは。おまえも頑張れ〟と手紙がきていた。……それを見た陛下は、手紙を握りつぶしていたがな」
「それは、それは。手紙の文章が軽すぎて、キレますね」
宰相はため息をつきました。
「兄殿下は、昔から陛下に対してだけ、なぜか厳しいんだ」
「きっと、可愛がりかたが下手くそなんですね。陛下には愛情が伝わっていませんもの」
「いや、伝わらなくてもいいと考えていると思うぞ」
「ドMですか」
やれやれと、メイドさんは肩をすくめました。
「おまえもよく、シロさまに仕えてくれたな」
「いえ。シロさまに出会わなかったら、わたしは陛下を誤解したままでした。シロさまが、わたしや陛下、そして皆さまも変えたのですよ」
「そうだな……シロさまは女神様だ」
ふたりは、穏やかに尻尾を揺らしました。
月日が経ったある日。シロのおなかはふっくらしていました。もうすぐ赤ちゃんが産まれるのです。
「王様。王様。おなかをなでてください。赤ちゃんが動いていますよ」
王様は破顔して、おなかをなでました。
「元気な子だな……」
「そうですね。きっと、尻尾がブンブンしているのでしょうね」
「シロ、おなかを冷やしたら大変だ。この服を着てくれ」
王様はもこもこの服をシロに着せました。
「ふふっ。あったかいです。この服なら赤ちゃんも安心ですね」
王様は幸せそうに微笑みました。
シロも顔をくしゃくしゃにして笑っています。
二人の尻尾はブンブンゆれて、時々、重なりあっていました。
生まれてくる赤ちゃんにも、尻尾があるでしょう。
小さな小さな尻尾がブンブンするまで、あと少しです。
おしまい。




