【幼女、門外へ】
遅くなり申し訳ございません。
最新話更新です。
リーシャを追いかけてしばらくたったが、ただでさえ歩幅の差があるというのに身体強化をしたリーシャに子供の身体の私が追いつけるわけもなくすぐにその姿を見失ってしまった。
方角だけは覚えていたので門がある方角へと走る。
「はぁはぁ」
騎士団内での鍛錬で少しはこの身体に慣れ、体力もついてきたが、やはり全力でこの距離を走り続けているとすぐに疲れてくる。
身体強化さえ使えれば負担を減らし、体力の消耗を抑えることもできるだろうが。
魔力の質は見る人が見れば一瞬で把握できてしまうものだ。
何者かはわからずとも普通の人族ではないことはすぐにわかってしまう。
そうなれば今まで通りここに居続けることなどかなわないだろう。
今ここは魔族に、それもそのうち一体はおそらく現代の魔王レベルの力を持っている。
そんな奴を相手に魔力を使わずに倒すことは不可能、ならばリーシャをなんとしてでも結界の内側に逃がさなければ。
考え事をしている間も体を動かしていたが、まだ門は見えてこない。
焦りのせいか、道が長く感じてしまう。
前にリーシャと通った時はすぐだったのに…
楽しく話をしながら買い物の手伝いに出た日のことを思い出す。
あの日常を守るためにも、早くいかないと!!!
その時魔力の反応とともに空中に飛び上がるリーシャの姿が見えた。
高く高く飛ぶリーシャにその力の強さを改めて認識する。
優秀と言われるだけはある、今のこの世界の基準では恐らくかなり上のほうだろう。
でも、門の外にいる強力な魔族には勝てない。
奴に勝てるのは、人族では勇者だけだろう。
リーシャが門の上に出たころようやく門が見えた。
だが、門からは大量の門外の住民がこちら側へと向かってきていた。
「早くいかないといけないのに!」
焦りながらもリーシャのように飛び越えることはせずに住民たちの間を必死にかいくぐりながら人ごみを突き抜ける。
ようやく住民達の間を抜けれたとき大きな音をたてながら門がしまろうとしていた。
どうやら門の外に取り残されていた人たちを門の中へと入れることに成功したようだった。
門が閉まり切る瞬間門の外に魔法で魔族を抑えるリーシャの姿が見えた。
「お姉ちゃん!」
呼びかけるが距離が遠いこともあり、門の閉まる音と、魔法の衝撃でその声はかき消されリーシャには届いていないようだった。
門の中に入った負傷兵はすぐさま治療を受け、住民たちは先ほどの集団を追いかけて行った。
私はすぐ門の前へと到達すると兵士の中に何度かあったことのある門の担当者を見つける。
「おっちゃん!!」
「スイちゃんじゃないか?だめじゃないか!早く避難しないと!」
まさか私がここにいるとは思わなかったのだろう、驚いた顔でこちらを振り向く。
「リーシャお姉ちゃんが!」
「わかってる、俺たちを逃がすために門外に出撃してくれた。だが大丈夫だ、彼女は強い、すぐに帰ってくるよ」
落ち着かせるように私の頭を撫でる。
でも待つだけではだめだ、きっとリーシャでは魔族を撃退することはできない。
「でも!」
反論をしようとした私の声を担当者は遮り私を持ち上げ逆を向かせる。
「お姉ちゃんを信じてあげなさい、さあ早く逃げるんだ」
私をもと来た方向へと押し出すと彼はほかの兵士たちに指示を送り始めた。
門を正規の方法で抜けることが不可能だと判断した私は都市の中心へ向かうふりをして途中で横道に入り都市を囲んでいる塀へと足を向けた。
リーシャのように飛び越えるほどの魔力を使えば人族がいかに魔力を通しにくい身体のつくりをしていたとしても体外へ出る魔力が多すぎて
誰かに感づかれてしまうかもしれない、ならば。
私は壁を昇るために最小限の魔力を手足に込めると。
塀へ魔力を操作し手足をくっつける。手を放し上へ持ち上げ再びくっつける。
同じ作業を両手両足、順番に繰り返し塀を昇っていくある程度門からは離れているしこの非常事態だ。
目撃者はいないだろう、いたとしてもこの非常事態が見せた幻覚だとおもうだろう。思ってくれ!
素早く手足を動かしたおかげが思っていたよりも早く昇れたが、門が閉まってからはずいぶんと時間が経ってしまった。
門の方向を見るとリーシャと二人の魔族の戦いが始まろうとしていた。
「もう一人は!?」
強力な魔力を持った魔族を探すと、どこから取り出したのか、玉座をその場に置き観戦の準備を始めていた。
「何やってんだ…あいつは馬鹿なのか?」
間抜けなその光景にあきれつつも少し安心する。
リーシャの力量ならばあの二人であってもおそらく苦戦することなく撃退できるだろう。
そう判断した私は、塀の端に立ち次は足へと魔力を集め衝撃を受ける準備を素早く済ませ飛び降りる。
少しの滞空時間の後着地すると魔力を身体強化の魔術に変換し走る。
少ない魔力ならば門の前の先頭に紛れることも可能だと判断したためだ。
二人の魔族は問題ないが、彼女たちを倒した後後ろに控えていたもう一人との戦闘が始まる前に到着しなくては。
「そして二人で門内へ逃げる!」
いかに魔王と言えどディーネが作ったこの結界を超えることは不可能だ。
どのような方法を使っても門の中にさえ逃げればいい、私がいればきっと一緒に入ってくれる。
そう信じて私は門の前へと急いだ。
だが、門へとたどり着いたとき目に入ってきたのは予想していたものとは違っていた。
苦しそうに息をし、今にも膝をつきそうなリーシャと、彼女を嘲り攻撃を加え続ける二人の魔族の姿だった。
その姿に思わず叫ぶ。
「リーシャお姉ちゃん!!!!」
リーシャは驚いたようにこちらを向いた。
どうしてここに?そう聞きたそうな顔をしたリーシャに近づこうと脚は止めない。
身体強化はすでに解いているので、感づかれる心配はない。
私は全速力でリーシャへと走る。
途中ではっとしたリーシャがこちらへと走りだした。
二人の魔族はなぜか攻撃をしてこない、もう一人の魔族に命令でもされたか?
その疑問を解消しようと目線だけ玉座の魔族へとむけるとこちらをじっと見つめる男の魔族が見えた。
彼の表情は面白いおもちゃを見つけたかのように歪んだ笑みを浮かべていた。




