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三周目の幼女  作者: 夜月周
第1章
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【幼女と騎士団】

「それでは、事情を話してくれるかな?」

そういって俺を見るレインの顔は表面上は優し気な少年という感じではあるが、その目の奥はぎらぎらとしていて幼女相手に向けられるものではなかった。

これは非常にやばい、疑われているといことは少なくとも前世の魔王の片鱗を感じ取ったのかもしれない。

牢屋の時は疲弊していて気付かなかったが、聖剣が近くにあるのを感じる。

ヨハネの屠った剣がその魂と力を俺と同じように感じ取っていても不思議ではない。

もしばれてしまえば旅をするどころではないだろう、また戦いの日々が待っているかもしれない。

人族のままそんなことを続ければ、耐性の少ないこの身体では心が折れてしまいかねない。

「じじょう?」

大人びた対応をしすぎれば、さらに怪しまれると思ったので、幼女らしく舌足らずにしゃべる。

首をかしげ、上目遣いでレインを見上げる。

ここはただの幼女だと思ってもらうほかない。

無意識にではなく自分からこのしゃべり方になるのは魂が拒否しそうになるが仕方ない。

「あぁ、ごめんね。あの人たちに捕まった時のことを話してくれないかな?」

「いいよ!」

彗ではなく、ヨハネとしてでもなく、クル村のスイとして話す。

「えと、おとうさんがせんそうにいってね、そうしたらね」

スイの記憶をたどって、両親を思い出し、その後を思い出す。

スイの意識に身を任せ話す。そうしていると涙がとめどなく目からあふれてきた。

魂に刻まれた記憶は、決して忘れないといえど、性格に強く影響を与えるのは体の記憶らしい。

話し終わる頃には話すことも難しいほど号泣してしまっていた。

その有様にレインは少し申し訳なさそうな顔になっていた。

だましているようで罪悪感がわいてくる。

ウソ泣きをしているわけではないが、記憶と体の記憶が完全に一体化するまではこの感情が分離した感覚が続くのだろう。

これでただの幼女だと思ってくれただろうか?

「そうか…スイはこれからどうしたい?」

「頼れる人もいないので、一人旅をしようかと思っています」

警戒の色が薄くなったことに油断して、突拍子もないことをいってしまう。

「何を言ってるの!?なんの力も持たないあなたが外に一人で出て生きていけると思ってるの!?」

リーシャが机をたたいて怒る。口調が崩れているところを見ると相当怒っているのだろう。

だがそのおかげでレインがこちらを疑う前にそちらに意識が向いてくれた。

「リーシャ落ち着いて、心配なのはわかるけど」

レインがリーシャをなだめる。

「でも、リーシャのいうことももっともだよ?君のような小さな子が、魔王が討たれたとはいえ魔物は街の外にはたくさんいるんだ。それに今は戦争中だしね。一人で旅をするのはあまりにも無謀だよ」

そういわれるとは思っていたが、やはり正直に言うべきではなかったな。

軽率な行動をしたことを悔やむ。

さて、どうしたものか。このままいけば、孤児院に預けられるか?いい待遇になるとすれば学園に入れられるか。

どちらにせよ、ある程度自由があれば抜け出すこともできなくはないが。

そう考えていると。

「どうしても旅をしたいの?」

リーシャがこちらじっと見つめながらいう。

「はい」

その力強い目線に押されながらも、返事をする。

「わかったわ、団長、この子をここで育てます、せめて一人で旅ができるようになるまで」

え!?ただでさえ疑われているのにそんなに長居することはできないぞ。

レインはこちらを見て少し悩んでいるようだ。

レインが却下するようにしなくては。

「騎士団に迷惑かけるわけには」

「大丈夫よ、私の手が空いてるときに稽古してあげるから、空いてない時間は暇でしょうから少し騎士団内の雑務をやってもらえばいいし」

やんわりと拒否しようとすると先回りをされた。

レインはふふっと笑うと会話の間に入ってきた。

「うん、それなら迷惑というほどではないね。むしろ助かるかな。もちろん給料はだすよ」

給料、その申し出に心が揺れる。軍資金は冒険者になって調達するつもりだったが、実際問題この年齢で登録できるかはわからない。

それ以前に一人で登録しに来た幼女に簡単に許可をだす人はいないだろう。

ならば、ある程度付き合って給料をもらってから、出ていくか。

旅はあきらめて普通に就職先を探すとでもいえば大丈夫だろう。

そう考え、この提案を受けることにする。

それに記憶が安定するにはもう少し時間がかかる、話して体を動かせばより早く安定するだろう。

「それじゃあ、お願いします」

「うん、よろしく」

そういって、レインが手を出してくる。

「ここでは団長って呼んでね」

笑顔で手を出してきたレインを見つめたあとその手を握る。

「よろしくおねがいします。団長」

手を握るとすこしレインの顔が引きつった気がしたが、再び見ると先ほどの笑顔に戻っていた。

「ではリーシャ同じ女だから彼女の世話は任せる、部屋の用意と案内、ここでの生活の仕方などを教えてやってくれ。

今日の仕事はほかの連中と俺でお前の穴を埋めるから休みかねてゆっくりしていろ。終わったら念のため報告頼む。それじゃあ俺は先に執務室に戻っているよ」

そういい終わるとレインは部屋を出て行った。

「それでは、まずここを案内しますね」

そういって俺の手を取る。

その手は優しく、リーシャが優しい子なのだとわかる。

丁寧な口調にもどってしまったことに少し残念さを覚えた俺は、リーシャを見上げて

「これからよろしくお願いします。リーシャおねえちゃん」

と精一杯の笑顔で話す、短い間でもずっとこのようなかしこまった態度でいられては疲れてしまう。

「え、ええ、お願いします」

顔を赤くしながらそっぽを向くリーシャがかわいく思えて少し意地悪したくなる。

「さっきみたいなはなしかたで話してくれないの?おねえちゃんができたみたいでうれしかったのに」

としょんぼりするとリーシャは慌てて目線を合わせてきた。

「ごめんなさい、だから泣かないで」

慌てながら撫でているリーシャに少し笑ってしまう。

「あ、ウソだったのね、もう、だから子供って嫌いなのよ」

ため息をつきながらも笑いながらそういう。

「それじゃあ、行きましょうか。これからよろしくね」

再度撫でてきた手は、温かく少しだけリーシャに近づけた気がした。

4月も終わりそうだというのにまだまだ寒いですね。

最近咳が出て風邪気味ですので、皆様も風邪にはお気を付けください。


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