運命の日4
2020年10月14日大幅編集しました
王様はお茶を口に含んで一呼吸置くと、語り始めた。
「余がお前を呼んだ理由にも関係してくるから、先に説明しておくが、おぬしには双子の姉と甥がいる。」
「私の姉と甥?さっきから言っていますけど、どういうことなんですか?」
「おぬしの双子の姉琉花は余の側室である。余と琉花との間に産まれた子がおぬしの甥だ。」
私の姉……それに甥がいる。双子だというなら姉もまだ十六歳のはずだ。王族だという事を考えても子を産むには少し早いのでは無いだろうか。
「なぜその姉は王様の側室になることができたのですか?普通双子が王様の側室になんてなれるはずがないと思うのですが。」
「それは、おぬし達の父親が王族であり私の叔父であったからじゃ。おぬしの叔父は、王位を狙っておっての。叔父の王位継承権はその時点では三位で、暗殺以外ではほとんど不可能に近かったのじゃ。その暗殺もことごとく失敗しておった。
そこで叔父はおぬしたちの母を孕ませその子を使って王位を狙おうとした。目論見通り娘が産まれ、余の妻にして産まれた子を王座につけようとしていた」
「なるほど。それで王様を亡きものにし、その子を傀儡にして操ろうっていう算段ですか」
王子が幼いうちに王が亡くなると、新しい王が成人するまで摂政を置いて政治を行う。その際外戚が摂政になって国を思うままにするのはよくある事だ。
「そうじゃ。だがしかし。そこである問題が起こった。それが何か分かるかね。」
「はい。それは……私、ですね。」
「ああ、そうじゃ。生まれたのがおぬしか琉花一人なら何の問題もない。だが双子は悪魔の子だと忌み嫌われているから、娘を余の妻にするときに不都合が生じる。そこで、あやつはお前たちのうちどちらかを殺すように指示し、もう一人の琉花を家に連れ帰り娘として育てていた。ということじゃ。」
「……それではなぜ私は生きているのですか。」
「それは、その話を聞いた大賢者がおぬしを救ったからじゃ。大賢者はお前を余の叔父から受け取り、殺したことにして育てていたのだそうだ」
「……それで、私はおじさんの家の前に捨てられていた孤児だということにしておじさんが育ててくれた、ということですか。」
おじさんに対する恩がまた増えてしまった。育ててくれただけでなく命の恩人だったなんて……しかも王族の面倒な厄介事に巻き込んでしまっている。
「それで、そのことを陛下は知らなかったのですよね?」
「ああ、知らなかった。知ったのは琉花が死んでからのことじゃ。もし自分が出産の際に死んでしまった場合を考え、琉花が出産の前に侍女に渡していた遺書にそのことが書かれていたのじゃ。それを見たわしはすぐに反逆罪で叔父を捕らえ、叔父を王宮の地下牢に幽閉したのじゃ。」
「それでは、私がその人に狙われる心配はないのですね。」
「ああ、この件に関わった者すべてを捕らえ牢にいれたからな。安心してくれ。」
「でもそうですか。姉は一度も顔を見る事無く亡くなってしまったのですね。とても複雑な思いです」
「おぬしと琉花は瓜ふたつだったから余もおぬしを見ると不思議な気分になる。まるで琉花がまだ生きているかのようだ」
少ししんみりした空気が漂う。存在すら知らずにお互い違う人生を歩んできて、片方の命はすでに尽きてしまっている。こんな数奇な事が起こり得るのだろうか。事実は小説より奇なり。そういう現実を少なからずこれまで見てきたはずだけど、自分の事となるとてんで理解が追いつかない。悲しいとかいう感情さえまだ浮かんで来ないのだ。
「……今日来てもらったのは琉花の忘れ形見である息子の琉斗の事だ。叔父を捕らえ、琉花も死に、おぬしの甥の琉斗には今後ろ盾が一人もおらんのじゃ。」
「それは……大変でしょうね」
「その通り、王宮というところはとても恐ろしいところじゃ。数々の陰謀や策略が渦巻き、誰もが己のことしか考えておらん。そんなところに何の後ろ盾もなく幼い王子がいたら、そやつらの格好の餌食となってしまうであろう。
ましてあやつには弟がおる。それもほぼ同時期に生まれた王妃の子じゃ。そやつらは皆、弟が次の王になることを望むじゃろう。そのために琉斗は命を狙われておる。
このままでは、確実に琉斗は命を落とし、弟の翔斗が次の王となるだろう。余は琉斗を助けたい。だから……王宮の外でおぬしに琉斗を安全に育ててほしいのじゃ」
「大変な状況なのだという事は分かりました。ですが、それでなぜ私なのですか。他にも適任者はいると思うのですが。」
「適任者はおぬしだ。他にはいない。条件だが、まず、秘密がもれないように王宮の外の人間でなくてはならない。第二に信用できる人間でなくてはならない。第三に怪しまれない人間でなくてはならない。第四に身寄りがない人間でなくてはならない第五に守るために強い人間でなくてはならない。…こんな条件を全て満たせるものはおぬししかいないだろう。」
一つ目の条件と五つ目の条件は分かる。王宮の人間に狙われているから外にやるのに、王宮の人間に任せるなんてこと問題外だし。強い人間でなくては襲われたときに王子様を守れない。私は大賢者である養父の教えを受けて魔法を極めてきた。そこらの刺客よりは強い自覚がある。四つ目はよく分からない。確かにおじさん以外に身寄りは無いけど、それになんの意味があるのだろうか。
「でも、ニつ目と三つ目の条件には合っていないと思います。会ったばかりで信用ならない情報のほとんどない怪しい人間です。」
「おぬしは琉斗の叔母であるし、大賢者の娘でもある。余は大賢者を信用しておるからな。それに見た目からおぬしと琉斗は親子に見えるので怪しまれにくい。
孤児の戸籍は後から血縁が見つかった場合を考え変更しやすくなっている。琉斗がおぬしの本当の子だという事にできる。
それに大賢者以外の身寄りが無いおぬしならば、親兄弟を使って脅される事も無い。大賢者は自分の身どころか世界さえ守った男だ。どうじゃ、これ以上ない適任者であろう?」
「分かりました。しかし、私が引き受けるかどうかは別です」
「十分な報酬と、それとは別に琉斗を育てるのにかかる費用を渡す。もうそれ以外に方法が無いのだ。どうか引き受けてはくれないか」
「子育てなどした事がありません。結婚はできてもまだ成人もしていない年で、一人で子育てなど難しいと思います」
おじさんが苦労したのを知っているし、本当の親じゃないからと悩み苦しんだ経験があるから簡単には答えを出せない。そもそも今朝まで存在も知らなかった子だというのもある。引き取れば今までのように魔法の研究に打ち込んだり気軽に海外へ放浪の旅に出たりは出来ないだろう。
「大賢者も協力するだろうし、乳母や子守など雇えばなんとかなるじゃろう。そのことについては心配していない。とりあえず、無事に育ててほしいのじゃ。もちろん、教育方針はおぬしに任せる。」
「けど…………大事な事なのでとりあえず少し考えさせてください。一度に色々ありすぎて混乱しているので、冷静になって考えたいんです」
「ああ、かまわんとも。じっくり考えてくれ。だができれば、三日以内遅くても一週間以内には答えを聞きたいんだが。かまわんかね?」
「はい、それまでには答えを出します」
おじさんにも直接詳しい事情を聞かないといけないね。梨華はどす黒い笑みを浮かべて帰宅の途についた。




