表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/31

梨華の選択

2020年2月16編集済み



 梨華が王宮へ行くと、王宮へ初めて来た時に通されたのと同じ応接室に案内された。


「陛下がいらっしゃるまでどうかこちらでお待ちになって下さい」


「……分かりました」


 梨華が頷くと、この部屋まで案内してくれた侍女は壁際に控える。そんな状況に、梨華はしばらく経つと落ち着かなくてそわそわし始めた。


 手持ち無沙汰で、先ほど侍女が入れてくれた紅茶に口をつける。王宮出だされるだけあって高級な茶葉にホッと息を吐き、梨華は思わず声に出して感想を言う。


「ん、おいしい。この間の紅茶と違う種類みたいね」



 紅茶を飲んでひと息ついてやっと少し緊張も解けてきた頃。ようやく陛下が王子抱いた女性を伴って現れた。


ガチャッ

「待たせてしまったな……息子を連れてきたぞ」


「突然お邪魔して申し訳ありません。その子が私の甥の琉斗ですか?」


「ああ、そうだ……一度抱いてみないか?」


「ええ、ぜひそうさせてください。えっと、どうやって抱けばいいのでしょうか?赤ん坊なんて触ったことなくて……」


「ああ、そうだな……教えてやってくれ」


 梨華が戸惑っていると、陛下が王子を抱く女性に教えるように言う。女性は手慣れた様子で琉斗を抱いてあやしているので乳母か世話係の侍女なのだろう。


「はい、承知いたしました。腕をそちらへ持って行って……そうです、しっかり支えてあげてくださいね」


「え、えっと、こう……ですか?」


 女性に教えられてぎこちない手つきで琉斗を抱っこする。柔らかくて温かくて、小さくて、まだ首もすわっていない赤ん坊。まだ実感の湧かない姉はこんな小さな子を遺して死んでしまった事が無念でならないだろう。


「はい、どうか殿下のお顔をご覧になってください。」


「ええ、それじゃあ見せていただきますね。……かわいい。それにおじさんに撮ってもらった私の小さい頃の写真とそっくり……この子、確か琉斗って名前でしたよね?母親の琉花から一文字取って?」


「ああ、そうだ。琉花と余から一文字ずつ取って琉斗と名付けた」


「そうだったんですか。確かまだ一歳にはなっていないですよね?」


「まだ一か月になったばかりだ」


「そうでした。一ヶ月前に王子様が二人お生まれになったって国中で祝っていましたね」


 その時は自分には全く関係の無い話だと思ってたのにまさか甥っ子だなんて夢にも思わなかった。


「そうだったな。この一ヶ月は慌ただしくあっという間に過ぎてしまった。一歳の誕生日は祝ってもやれなさそうだ……さきほど幼い頃のそなたと琉斗がそっくりだと言っておったが、そうしていると本当の親子に見えるぞ」


「……この子は大きくなった時どう思うでしょうか?本当の親じゃないと知ったら騙されたとは思わないでしょうか。私は小さい頃から養子だって事知ってたからそういう風に思う事も無かったけど……」


「大賢者は琉斗の事も養子として育てる方が良いと考えているようだ。大賢者の場合琉斗がどう思うか、というより娘が未婚の母となると苦労する事を心配しているようだったがな」


「おじさんがそんな事を……確かに平民ではこの年で子どもを生むのは早すぎると言われるでしょうね。ただ、親のいない子として育てられる辛さも私は知っていますから」


 王侯貴族では政略結婚で結婚も出産も早い事も多いけど、難しい立場の琉斗を育てるなら平民のようにひっそりと生活する事になる。王都であれば多少は理解も進んで来ているけれど、貴族の多い王都周辺で育てる事は出来ない。住む場所も新たに探さないとなぁ……と考えていると、今までそばに控えていた女性が唐突に声を上げた。


「あっ殿下が……」


「王子がどうかしたのか?」


「琉斗?」


「殿下がお泣きに『オギャーッオギャーッ』なられそうです……と、お伝えしたかったのですが……遅かったですね」


 陛下と二人で覗き込んでいると、女性の言う通りに琉斗が泣き始めた。梨華は抱えていても気づかなかなかったのに、泣く前に分かるなんてすごいな。とても真似できそうにない。慌てて宥めてみたりする。


「わわっ、えっとどうすれば……?よしよし、お腹がすいたのかな?おむつかな?」


「お任せください」


「お、お願いします」


 しばらく梨華があやそうとするのを見守ってくれていた女性だったが、見かねて琉斗を梨華からそっと受け取ってあやし始めた。


「殿下、ご機嫌ななめでいらっしゃいますね。こちらの方は貴方の叔母さまですよ。さあよくお顔をご覧になって」


 女性はそう言って、優しく揺すりながら琉斗に私の顔を見せる。


「琉斗……くん?よろしくね。あなたのお母さんの妹の梨華ですよ」


 梨華が琉斗と目線を合わせて挨拶する。すると先ほどまであれほど泣いていた琉斗がピタリと泣きやみ、大きな目で梨華の顔をまじまじと見つめてきた。


「あはは、どうしたのかな?私の顔に何かついてる?」


「……琉花さまだと思われているのかもしれませんね。きっとまだ母君のお顔を忘れてはおられません」


「そっか……このまま育つとこの子は母親の顔を知らないまま大きくなるんだ。私なら双子だからそれは避けられる……」


 私は母の顔を知らない。おじさんから聞く母さんの話も、だからどんな人かうまく想像出来ないでいる。私も琉斗も、奇しくも生まれてすぐに母親を亡くしている。似た者同士、うまくやっていけるといいな。


「……あの、赤ちゃんに食べさせてはいけないものとかお世話の仕方とか教えて頂けませんか?この子を育てるために」


「おお、決心してくれたか」


「はい、まだ養子にするか本当の子どもという事にするかは決めていませんが、養父ちちとも話し合ってこの子にとって最善の選択をします」


「……すまんな、どうか琉斗を無事に育ててくれ。もう二度と会えなくても、父子とは名乗れなくても無事に生きていて欲しいんだ。どうか私の息子をよろしく頼む」


 陛下はこの時生まれて初めて人に頭を下げた。それは人生で最初で恐らく最後。フローリッシュ王国の国王としてではなく、一人の父親として手元で育ててやれない息子のためのものであった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ