梨華の悩み
今回少し残酷なシーンがあります
(人の死体の描写です)
多分R15がつかないくらいなので、大丈夫だとは思いますが苦手な方はお避けください
2020年12月28日編集
「……僕が君のお母さんに最後に会ったのは、情報屋から君たちが狙われている。と聞いて、正体を明かさずに依頼を受けて密かに守ろうと彼女の家に行ったときのことだった」
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今から20年前、王国のスラムの一角にある若干古びた木造の家でのこと。
コンコン
黒いマントを着て黒いフードをかぶって顔を隠した大賢者《僕》はその家のドアをノックした。
「……誰だっ!」
「殺しの依頼を受けたケインです」
ガチャッ
大賢者が偽名を名乗ると扉が開き男が出てくる。そしてキョロキョロと辺りを見回して、大賢者一人で誰にも見られていない事を確認する。
「……中に入れ、速くしろっ!」
男は僕を確認するとすぐに中に入るように促した。僕が中に入るとすぐに濃い血の匂いがして、僕は目を背けたいのを必死に堪えてその原因となる場所を見たんだ。
やはりそこには血塗れでベットにあお向けに寝ている彼女がいた。彼女は、鋭利な刃物で心臓を一突きにされすでに絶命していた。大量の血を流し、刃物は刺さったままで酷い有様だった。
僕は間に合わなかった……相手が王族だから、確実に証拠を押さえて慎重に動こうとしたのが間違いだった。もう少し早ければと今でも後悔しているよ。
ただ、それを悟られては全てが水の泡になってしまう。なんとか動揺を静めて素知らぬフリをしたんだ。
「っ……それで誰を殺せばいいんですか?見たところここにはいないようですが……」
「それならここにいる、そこのガキ二人だ。そうですよね、お貴族様」
男はベビーベッドに眠る君たち二人の赤ん坊を見てから、奥にいるもう一人の男を見たんだ。するとその男がこちらにやって来て、今まで暗くてよく見えなかったその顔がはっきり見えた。それは君達の父親だった。
「それは違う、殺すのは一人だけだ。それに、私は貴族ではなくて王族だ」
「そうですか、まあそれは良いとして。どっちを殺るんですか?俺にはどっちも同じに見えて気味が悪い」
「そうだな、どちらでも良いが……良いことを思いついたぞ」
手下の男が訊ねるとあいつはしばらく思い悩んだ後、そう言ってテーブルの上の林檎の入った籠から林檎を二つ取り出し、両手に一つずつ持って男の前に立つ。
「どちらか好きな方を選べ、やる」
「……もらいますけどどうしてまた急にそんなことを?」
「いいから選べ、選んだら説明してやる」
「えっと、じゃあ……これを」
そう言って男が指を指し、選んだのは……あいつが右手に持っている林檎だった。
「そうか、それじゃあ右の奴を連れて行こう。左のは殺せ」
「分かりました。けど、そんな適当でいいんですか?」
「良い、どうせ顔で見分けはつかないし、変わらない」
「そうですか、確かにどっちでもそう変わりませんからね」
「ああ。お前、これを殺しておけ。我々は時間がないので先に行く。ちゃんと強盗の仕業に見せかけておけよ」
そう言うとあいつは君が包まれていた毛布を片手で雑に掴んで君を僕に向かってポイッと放り投げたんだ。まるで物のような扱いだったよ。それから、あいつはもう一人の……琉花の方を丁寧に抱いて男を従えて去ったんだ。
今はあの時琉花も引き取れば良かったと思うよ。ただあの時は先王が存命で、僕は戦友だった先王に弟の罪を告げる事が出来なかった。
娘である琉花を利用して王位簒奪を企てていたあいつが、断罪無しに琉花を手放す事は無いと分かっていたし。君のように孤児として生きるよりは王族の娘として何不自由無く、政略の駒としてではあっても大切に育てられる方が良いと思ってしまったんだ。
実際は継母に虐げられたり、政略結婚だとしても早い、いとこ同士で血の近さも懸念される結婚をさせられ。それを実現する為に結婚より前の妊娠まで強いられたりと辛い思いをして、結局出産で命を落としてしまった。
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「……これが僕の知る全ての事実だ。僕はね、愛するあの人を殺し、実の娘である君たちを利用し殺そうとしたあいつは!あいつだけは許せないんだ」
「……おじさん。私もそいつのこと許せない。けど、復讐しようとかは考えてないよ。今そいつは、お城の地下牢に幽閉されているんでしょう?それなら、私がさらに罰を加える必要はないでしょう?そうだよね?」
「……ああ、そうだな。君の言う通りだ。目には目を、歯には歯をだな」
「それって、おじさんがたまに言ってるハン何とか法典の奴?」
「ああ、日本では復讐の意味として使われているが、本来は被害者が受けた害と同等の罰を与え、必要以上の罰を与えないという言葉だ。そして同時に復讐を禁じているものでもある」
「……だから、その。おじさんもそうして欲しいんだ。あっちが手を出さない限り私たちも手を出さない。決して復讐なんかしないって約束して欲しい」
「ああ、分かってる。約束する、あちらが手を出さなければ私も手を出さない、と」
「うん、そうして……それで、私のことはもう分かったけど。結局どうすればいいと思う?その王子様?甥っ子?を私が育てるって話」
「君はどう思っているんだい?かなりいい条件だとは思うが育てたいとは思わないのかい?」
「……良い条件、良い条件ではあるんだけど。それだけで引き受けるるってのもどうかと思って」
「確かに、条件だけを見て育てるのは違うが、それだけの感情で簡単に引き受けるような子じゃないだろう、君は」
「まあそうなんだけど。でも色々考えると放っておくわけにもいかないし……聞いた限りで言うと、このまま王宮で育てたら冷遇されるか暗殺されるかだし、王位継承問題で内戦の火種になるかもしれないと思う」
「……まあ、そうなる可能性が高いな」
「うーん、そんな大切なことを私の一時の感情で簡単に決めてもいいのかなって思って」
「仕方ない、実際に育てるのは君なんだ。君に堅い意思がないと、子育てなんてできないぞ。というか、迷っているならやめておけ。でないと、君もその子も周りの者もみんなが不幸になる。子供を育てるなら、絶対に愛して、護るんだ」
「……そうだよね、そうじゃなきゃいけないよね。今のところ私にはできそうにないかな。不安でいっぱいでそんな自信は湧いてこないよ」
「君が無理ならそれでも良い。誰にだって出来ないことの一つや二つはあるし。こういうのは、無理にやって良いことなんて一つもありはしないんだから。それにそもそも父親が不甲斐ない無いせいでこうなってるんだ」
「……陛下にそんな事言っちゃって良いの?でもそうね。とりあえず一週間の内に精一杯考えておくよ」
「……そうしなさい。僕は陛下が生まれた時から知ってるから大丈夫だ」
大賢者のその軽口に笑いながら立ち上がった梨華は、落ち着いて考えるために台所から出て自分の部屋に戻って行った。




