↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/150

90……喫茶〝トマリギ〟

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「い、いらっしゃいませご主人様! なの!」

 村の喫茶店のひとつ〝トマリギ〟にて。開店前のお店の中では、店主であり二児の父親であるマスターが手際よく準備を始めていた。人の良い笑顔を浮かべ、鼻歌まじりだ。

 小ぢんまりした喫茶店特有の静かな朝は、今日は騒がしい。

 ホールで十歳ちょっとの少女が身を固くしていた。赤みがかった黒地に真っ白なエプロン姿。フリルが随所にあしらわれたそれは、普段は快活な少女を、人形のように可憐に見せる。まるで花が咲いたかのようだった。

「……えっと、リト? へん……じゃない?」

 彼女はファナ。授業の一環で、今日はお仕事体験で喫茶店に来ている。

 ウェイトレスどころかお仕事自体が初めてで、お尻から垂れる竜のしっぽも普段よりも固い。

 可愛い服を着せられたときは良かったものの、いよいよお仕事が始まることに気づいてがちがちになった。水を運ぶのすら不安な状態だったが、マスターの「とにかく明るく元気にいこう」という方針に合わせて練習を始めると、少しは緊張が和らいだらしい。

「うん? まあ、いいんじゃないか」

 テーブルについて練習相手をするのは、保護者代わりの少年リト。

「ところでマスター。いつからここは、お客さんをご主人様って呼ぶようになったんです?」

「可愛い子がお手伝いに来たときだけかな。ファナちゃん、最終試験だ。僕相手にいらっしゃいませといってごらん!」

「えと、い――いらっしゃいませっ」

「違う! 僕はマスターだ。すなわちご主人様! さあ、僕のことをごしゅ――いたっいたい」

 マスターは奥さんに引きずられていなくなった。

「……とりあえずファナ。ご主人様はいらないからな」

「えへへ、わかってるの! ファナ、ファナを養ってくれてるリトだけがご主人様だもん♪」

「……おい」


      ♪♪


「いらっしゃいませっ♪ 一名様ご案内なのっ」

「マスター、オリジナルコーヒー二つなの。アイスで」

「コーヒーとパスタです。えっと……ごゆっくり」

 小さなお店にはファナの明るい声が飛び、普段の何倍も明るくなったように感じる。

 ちゃんとできるのかリトは不安でいっぱいだったが、今のところは問題ない。ファナが持ち前の明るさで頑張っているのもあるし、村人たちの気質もあるのだろう。

 外からやってきたファナがこうして村人にもっと馴染めるといい、リトはそう思い、けれど、あの明るい声が自分のすぐ隣にいないさみしさを少しだけ感じた。


      ♪♪♪


「はい、リト♪ えっと、向こうのマスターからなの」

 少々あぶなっかしく運ばれてきたのはホワイトソースのパスタだった。

 お礼を言うと、マスターがやってきて、カウンター越しに顔を近づけてくる。

「娘が離れていくのはつらいよね。僕も父親だ、わかるよ」

 ……俺、そんな顔してたのか? 喫茶店マスターゆえの鋭い観察眼にリトは両手を挙げた。


      ♪♪♪♪


「ありがとうございましたっ、またのお越しをお待ちしておりますっ!!」

 閉店時間。小さな村ということもあり、早い時間に閉める。夏だから、外はまだ夕日色をしている。ドアを開けてお客さんを見送ったファナが、夕日色の髪を跳ねさせて入ってきた。

 その顔は達成感に溢れ、どこどなくお姉さんっぽくなったようにも見え、

「こうやって娘は僕らを置いていくんだ」

「……マスターは俺に語りかけてなにがしたいんですか」

「リトリトっ、今日はいっぱい頑張ったの! だからごほーびがほしいのっ」

 ご褒美、リトは焦った。べつにご褒美がいやなわけじゃない。ただ、ファナのご褒美は、一緒にお風呂に入るとか、一緒に寝るとか、そういうのだ。それをこの場で言われると困る。

「よし、わかっ――「お家まで手つないで帰るの!」

「……へ?」

「今日はリトの傍にあんまりいられなかったから、ちょっとだけさみしかったの。だから、お家に帰るとき、手、つなぎたいなって。…………だめ?」

「だめじゃないに決まってるだろ。とりあえず着替えてこい。そしたら帰ろうな」

 「うん!」笑顔満開で答えたファナを見送る。ファナが成長し、リトの傍にいる時間が減るのは確かにさみしい。けれどそれ以上に、ファナがファナらしく頑張っていることが嬉しくて。

「……いい父親になると思うよ。……シエルちゃんのお尻にしかれ――いた、いたいっ」

 お嫁さんの前ではよけいなことは言わない方がいい。改めてリトは心に刻んだ。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


お仕事体験というと小学校と中学校でやった記憶があります.

町の図書館だった記憶.


お仕事体験編ということで,

今回はどちらかというとリト(父親)サイドの話.

喫茶店モノは実は好物で,

拙作『こもれびぎつね!』も喫茶店モノ.

そっちは,店員とお客さんの交流をメインに書いた話です.

ご興味ありましたらそちらにも目を通していただけますと幸いです.


それでは次回,

10話毎に挟まる番外編(過去編)です.

『どら×どら7……ちび竜たちの子守り』

ボクら(リネ&トラ)のお仕事を紹介しよう!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。