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89……シエル先生!?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「そ、それではっ、授業を始めます」

 小さな村の片隅にある小さな校舎、そこの二つある教室の片方にて。十一歳から十五歳までの子供たちの視線を一気に受けるのは一人の少女だった。

 歳の頃は十五過ぎ、生徒たちより少しお姉さんに見える。空色の髪をポニーテイルにまとめた彼女はシエルという。

 声からは若干の緊張が窺えた。

「去年から保育所で保育士をやっています。保育士の方は初めと比べたらちょっとはましになったんだけど、こうやって先生として話すのは不慣れなので、聞きづらいところもあると思うけど、えっとよろしくお願いします」

 ぺこり、頭を下げる。子供たちが一斉に拍手を送り、

「お姉ちゃんかっこいい!」

「こらノエル。茶化さないの!」

 チョークを持った手で妹をびしっと指す。そのあまりに凛々しい様に、子供たちが目をきらきらさせたことに、シエルは気づかないふりをした。


      ♪♪


「さて、今日話すことは――……ていうかみんな顔見知りよね。先生っぽくしようといろいろ考えてたけどもういいかなって思ったので普通にやります!」

 シエルはいきなり全部を投げ出した。

 それもそのはず、小さな村だから大人も子供のみんな顔見知りだ。年齢なんて関係なしに遊んでいた。去年卒業したのはリトとシエルの二人だけだったし、リトが一歩引いたところでサポートするのが得意だったこともあり、シエルが表立ってのリーダーだった。

 だから、逆に取り繕う必要なんてない。なにもないのだが……。

(一年間保育士として仕事して、大人っぽく少しはおしとやかになったところを見せてやってほしい――って依頼だった気がするんだがなあ)

 教室の一番後ろ、持ってきたイスに腰掛けたシエルの幼馴染の少年――リトが頬をかく。ちらりと横を見やると、隣に座る十代半ばの少女は笑っていた。彼女――一見すると美しい金髪の少女なのだが、その実は校長先生であり村長でもある。シエルに先の理由で依頼した超本人であり、きっとシエルの言動も予想していたのだろう。

「ちょっとリト! なによその顔は。言いたいことがあるなら……えっと、こほん。手を挙げて発言してください」

 元クラスメイトだった現十五歳から十二歳までの子供は、いつもの痴話げんかか、なんだか懐かしい、なんて目で二人を見ていた。その生暖かい視線を感じて、

「はい。リトは居残りです。ということで授業を始めます。……あら? 二回目かしら」


      ♪♪♪


「今日ここに来たのは、みんなわかってると思うけど、明日からお仕事体験が始まるからね。この村じゃ、十六歳からなにかしら仕事に就くことになってるから、その勉強とか、自分がなにをしたいかのお試しとかそういう意味合いがあります」

「はい! シエルお姉ちゃんは、どんなお仕事体験したんですか?」

「いい質問ね。わたしは全部やりました」

「全部!?」「ぜんぶってなに?」「全部は全部だろ。全部ってことだろ」「…………?」

「毎年のことだから、この時期になると村のみんながお仕事体験にようこそ! って準備してくれるのよ。で、去年はわたしとリトの二人だけで。リトはすでに仕事してたから、その合間でできるのって決めてたのよ。で、先生でいいかってお仕事体験せずに勝手に一人で自分勝手にわたしになんの相談もなく決めてしまいました」

「せっかくみんなが準備してるのに申し訳ないって、お姉ちゃん、全部行ったんだよね」

 妹の補足を受けて、シエルはこれみよがしにため息をついて見せる。

「そもそも卒業生が少ないのが問題なのよ。ということで、今年から、年長クラス、つまりこっちの教室の子たちはみんな、お仕事体験ができるようになりました」

「……」

 シエルの言葉がさらっと耳を通り抜け、教室は静かになった。それも一瞬で。すぐに教室全体がざわざわと、お祭りのように騒がしくなった。


      ♪♪♪♪


「ちなみに、村長と校長先生のお仕事体験もあるからみんなくるんじゃぞー」

「はい! ファナやる! 村長さんと村長さんやるの! ……あれ? 村長さんがふたり?」

「念のための確認ですけど、それってなにやるんですか?」

「妾の代わりにトマトを食べたり、家人に怒られたり……してくれると、うん」

 実は本音だと一部の人だけが知っている冗談に教室に笑いが起こり。

 ――初夏。夏本番の前にして、子供たちだけのお祭りが始まった。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


次回からのお仕事体験編に向けての前振り。

に加えて、学生時代のリトやシエルのエピソードだったり、

相変わらずの村長さんだったり。

なんの事件も起こらない平和な光景でした。


それでは次回,

『90……喫茶〝トマリギ〟』

ウェイトレスさんなの!――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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