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78……夜の村のレイミ

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 きっかけは少しの好奇心だった。

 好奇心はネコを殺す。好奇心は竜を殺す。好奇心は××を殺す。

 この後のことを思うと、先に死んだ方がましなんじゃないかと、身体を見下ろして深い深いため息をつく。

 夏の夜、吐く息は透明で、けれど心は冬の日の息みたいに白く濁っていた。


      ♪♪


 今日は子供たちの川遊びの解禁日だった。『村長なのだから安全に遊べているかを見るのは義務だ』そう言い張って仕事を放り出したのが昼間。川遊びを見て夏を実感する意味合いもあった。長く生きた彼女にとっては、節目節目を意識することはとても大切なのだ。

 夕方になって家に戻ると、もちろん仕事が溜まっていた。優先すべきものを処理し終え、一向に減らない書類を明日の分と机の隅に放り出す。

 凝り固まった肩に手をやりつつ外を見ると、広場に知った姿があった。もっとも、彼女は村長であるから知らない村人などいないのだが。

 けれど、珍しい人物ではあった。

 ひとりはネナナ。来年から学校に入る幼い少女だ。

 その後ろにはファナ。夏が来る少し前に、空から降ってきた竜の少女。

 さらには少し離れた物陰に、ネナナの母親とファナの現在の保護者である少年までいる。

 そういえば夕刻、村はずれに向かうネナナを見かけたことを思い出す。晴れているのに手に赤い傘を持っていて不思議だった。道の先には家がひとつしかないことから、傘を返しに行くのだろうと容易に想像できた。ファナならきっと当たり前のように貸すだろう。

 そんなことを考えていたせいで、べしゃ――っと転んだのは内緒だ。

 広場に動きがあった。ネナナが歩き出し、母親が家に駆けて行き、ファナは回れ右をし、リトが後をつけていく。そんな光景を見送った村長は、ふとそれに気がついて部屋を出た。

 玄関。村長として身だしなみに気をつけるために置かれた姿見を確認する。

 見た目十代前半、長い金髪を優雅に垂らした少女が写る。

「……まあ、子供の見た目じゃが、家に連れ戻されることもあるまい」


      ♪♪♪


 道端で小さなぬいぐるみを見つけた。ジグザグの木の形をした、中に綿が入ったものだ。ハテノキ――この村の守り神。保育所で作ったお守りだった。

 『おかあさんがね、のりが取れないようにぬってくれたの! だからもち歩いてもへーきなのっ』頬を染めて教えてくれたネナナを思い出す。

「――さがしにいくっ」

 それは家の中から聞こえた。ネナナだ。どうやら大切なお守りがないことに気づき、探しに出ようとしているらしい。「だめよ、明日になさい」と母親の声が続く。

 慌てて村長はドアをノックした。ぬいぐるみを置いて、すぐさま木の陰へ。薄く開けられたドアから母親が顔を出すと、「あ――っネナナのっ!」と小さな身体が隙間をくぐり抜けた。ぬいぐるみを掲げ、胸に抱く。

「よかったわね。村の妖精さんが届けてくれたのかしら」

「えへへ――えっと、ありがとうございましたっ」


      ♪♪♪♪


 嬉しくなったところで家に戻り、ベッドにもぐれば今日も幸せだったに違いない。

 けれど、嬉しくなるとつい意識が楽しい方へ向いてしまうものだ。子供たちが川で遊んでいた光景を思い出す。

 靴と靴下を脱いで川に立つ。足元をくすぐる水はひんやりと気持ち良い。川面には星々が映り込み、まるで星空にいるみたいで。

「ふふっ」

 つい浮かれて、くるりと回る。ひらりとスカートの裾が揺れた。

 とん――と足をついて、つるりと滑った。声も出ず、音だけは楽しげなしぶきが立ち上がる。

「……びしょぬれ」

 それはもう見事なまでに。

 さすがに家人に見つかるだろう。そうなったら正直に話すしかない。夜の散歩に出かけたらつい川に入りたくなって、つい楽しくなってくるりと回ったら滑ったのだと。

 どんな顔をされるかがはっきり浮かんだ。怒られて心配されて。

 けれど、それは人と人のつながりのひとつだ。まるで家族みたいな。ネナナと母親、ファナとリト。血がつながっていても、つながっていなくても、絆の温かさは変わらない。

「甘えられる人がいるなら甘えてしまうのがいいんじゃよ」

 ――ばしゃり、今度はわざと仰向けに倒れて。両手を広げれば身体は星空に浮かんだ。

 空から見れば、彼女の金髪は流れ星のように見えただろう。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


つい気が向いてしまって夜の散歩に出る話.

ひとり外出なので会話はほとんどなく.


いたずら好きな村長は裏でも相変わらず.

こっそり隠れてハメを外して楽しんでいるようです.

でも近いうちに川遊びに水着で参戦するはず…….

ちっちゃいのでサービスなのかよくわかりませんが.


それでは次回,

『79……あみ?』

虫取りに道具がいるの?――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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