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79……あみ?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


「ファーナーちゃーん。あーーそーぼーー」

 道の方から女の子の声がして、しっぽをぴんと立てる。

「ノエルなのっ。それに……えへへ」

 と、ファナは意味深な笑顔を保護者である少年リトに向けた。十歳くらい、まだまだ幼いが、最近はお姉さんっぽい顔を見せるようになった。ファナは、けれどなにも言わずに玄関へとぱたぱたと駆けていく。竜の証である羽としっぽが揺れるのを見送り、リトはひとり首を傾げた。


      ♪♪


「珍しいな、休みなのか」

「そうよ。せっかくの休みってことでノエルの相手を押しつけられたわけ」

 やれやれとわざとらしく首を振ったのは、十代半ばの少女だ。夏の青空を薄めたような水色の髪は今日もポニーテイルで、リボンは空で染めたような鮮やかな青色。

 リトの幼馴染で、シエルという。リトが学校で先生をしているように、シエルは保育士をしている。この村では、十五歳で仕事に就くのが一般的だ。

 学校は一日おきで、今日は休みの日。それで朝からノエルがファナを誘いにきたのだった。ノエルとシエルは姉妹。ファナに負けずに跳ね回るノエルは昔のお転婆なシエルを連れてきたみたいにそっくり――リトがそう感じていることはもちろん内緒で。

「……ノエルの相手ねえ。相手にされてるようには見えないんだけど」

「いっ、いいのよべつに。…………こうじつだし」

「へ?」

「あ、ううん。なんでもない。こっちの話こっちの話」

 ぱたぱたを両手を振るのを見て、リトはまた首を傾げて、それから前を見た。

 ファナとノエル。歩き方からすでに楽しさが伝わってくる。ファナの羽としっぽがリズム良く揺れるのと同じように、ノエルの方でもしっぽが揺れている。

 もっとも、それは本物のしっぽでも、ポニーテイルでもなく。

「ノエル。そのあみ、なにに使うの? くり採るのに便利そうだけど、夏だよね?」

 ノエルが持っているのは網だ。長い棒の先に、目の細かい網がついている。この村で、網といえば二種類ある。ひとつは魚採り。けれどそちらは水が抜けるように目が大きい。

「えへへ、これはね! 虫を採るアミなんだよ! なんだよ!」

「…………むし……とり、あみ? ……うん? …………うんん?」


      ♪♪♪


「てえいっ。やあっ。――とうっ」

「ふあっ、すごいのっ。セミが自分からあみに入ってくみたいなのっ」

 ノエルが肩から斜めにかけた虫採りかごからは、夏を凝縮したような鳴き声が響く。

 さすがはシエルの妹だ。……かつてのトラウマが蘇えりそうになり、リトは首を振った。

「じゃあ、ファナちゃんの番! はいこれ!」

 差し出され、ファナはおそるおそる網を受け取った。

「じゃじゃん! みてみてリトっ」

 ぴしっと構えて見せるファナ。虫取りというよりはちゃんばらみたいな。

「似合ってる似合ってる。間違えて自分が網に入らないようにな」

「はいらないしっ、ファナそんなぶきよーじゃないしっ」

 なんて、ぷぅと頬を膨らませたものの。

「やーっ、このっ、やあっ…………むぅ」

 成果ゼロ。これは、振りかぶったファナの網にリトが飛び込む流れか。と思ったところで、「いいしっ」ファナは網をノエルに返した。

 そして――木の幹をひと蹴り、ぴょんと跳んで、軽やかに着地。その手にはセミが握られていた。「かっこいい!」ノエルが歓声を上げると、セミは思い出したように鳴き始めた。

「……リトっ、みてみて! セミなのっ、ファナがつかまえたのっ」

 ジージージージー。顔に迫ってくる大声に腰が引ける。が、なぜかそれ以上下がらない。見ればシエルの腕があった。「ちゃんとほめなさいよ」なんて目をする。わかってるくせに!

「お、おう。すごいな」


      ♪♪♪♪


「セミはいっしょーけんめー生きてるの。食べられちゃうこともあるけど、でも、ファナたちは食べないから。だから、遊んでもらったら、ちゃんと帰さないとだめなの」

 たまに見せる人ではない視点。竜特有の人よりもっと自然に近い視点。

「うん、そうだね。カゴの中じゃかわいそう」

 ノエルはカゴを地面に下ろして、ふたを開けた。

「ばいばい、セミさん」「がんばれー」

 ジジと小さく鳴いたセミたちは、思い思いに青い空へと飛び立ってゆく。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


夏になりセミの声を聞くと、ふと虫取り網を振り回したくなります。

そうは思っても、おおっぴらにできる歳でもなく。

そういえば、虫取り網を持つ子供を見なくなりました。

タイミングの問題かもしれませんが、少しさみしい。

川遊びや魚釣りの子供はよく見るんですが……。


虫取り、楽しいのに。


それでは次回,

『80……お休みのがっこ』

静かで不思議なの――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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