73……めぐる手のひら
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
大陸の果ての証とも言われる巨大な樹――ハテノキが見下ろす小さな村。
村を眺めるように流れる清らかな川は、自然の恵みのひとつとして欠かせないものだ。それは、子供たちにとっても同じ。夏――川は格好の遊び場となる。
今日は川遊びの解禁日。村の学校に通う子供たちがみんな揃って川に来ていた。色とりどりの水着が跳ねまわる姿は、空から見れば花畑かチョウの舞いにも見えるだろう。
♪♪
比較的浅いところに二人の少女がいた。歳は十ほどで、全体で見れば中の中にあたる。
ひとりは藍色の髪を肩ほどまで伸ばした少女。薄水色のワンピースタイプの水着には、白や黄色の水玉模様が踊っている。
もうひとりは赤い癖っ毛を跳ねさせた少女。白と薄赤のチェック柄、セパレートの水着だ。
水着にフリルがついている点が二人に共通している。彼女たちが飛び跳ねるたびにフリルはふわりと舞い、動きを可愛らしく彩る。
「わっ――うう、ぬるぬるして動きにくいの……」
「でもファナちゃん、前の村でも川遊びしたことあるんじゃないの?」
その問いに、ファナと呼ばれた赤毛の少女は足元が安定しているのを確認して、
「あるけど、もっと山の深いところだったの。川原も川の中もとげとげの石で。それにこーんなおっきい岩がたくさん転がってて」
両手で大きな輪を描く。自分たちよりはるかに大きい岩。
「そ、それをぱんちで割らないと帰してもらえないっ」
「ふえ? そんなことないよ?」
「あ、そうなんだ。だよね、いくら竜でも」
「だってそれくらい、もっと小さい子でもできちゃうの」
ファナがえへへとはにかむ。お尻のしっぽと背中の羽――竜の証のそれらがひと振り動く。
「……それは…………その、小さいときに、岩を実際に割ってみたりなんて?」
「うん!」
「え」
「えへへ、冗談なの♪ いくら竜でも、ファナみたいな子供じゃ割れないよ?」
ころころと笑うファナに、藍色の髪の少女ノエルはぽかんと口を開けて。
「だましたなーっ」
不意打ちで思いっきり抱きつけば、二人そろって水の中へと転がった。
♪♪♪
「でも、こっちの方がのどかでほっとするの」
「そう? 山奥の方が自然! って感じがすると思うけど……」
「うーん。ノエルは……『もっと自然! 大自然!』とか言って、ものすごい速い川に投げ込まれたり、滝の上でイカダに乗せられたり――――って方が好き?」
「……それも冗談?」
「えへへ」
「冗談だって言ってよっ」
♪♪♪♪
実はファナは水が好きじゃない。顔を洗うのはいまだに苦手だ。だから昔は、川遊びも怖かった。冷たいので身体が濡れるのが苦手、ましてや顔をつけるなんて。
けれど、一緒に育った竜の子たちのおかげで、夏の川遊びだけは例外になった。
川遊びは楽しい。大好きなみんなを思い出すし、ただただ気持ちいいことも嬉しい。
「……水、にがて?」
だからだろうか。ファナは川べりでぼんやりしているクラスの女の子に声を掛けた。いろんな歳の子が集まったクラスだ。ファナより年下の彼女が水が怖くても不思議ではなかった。
「ファナ……お姉ちゃん?」
「だいじょうぶ。ほら!」
両手を差し出す。少女はためらっていたが、動こうとしないファナに根負けした。
「……は、離したらだめだよ? やだよ? ぜったいのぜったいにだめだからっ」
「わかってるの。今日も明日も明後日も。遊べるようになるまでちゃんと握ってる」
その言葉に安心した少女は、次の瞬間、隣から飛んできた水で思いっきり濡れた。
ぱちくりと瞬きする少女の目に、じわりと涙が浮かんだが、
「ファナちゃん、逃げないようにしっかり握っててね♪ ふっふっふ」
慣れればどうってことない、怖がる前に濡れちゃえ、と二人は笑みを向ける。
避けることもできず、続けざまに水を掛けられる。すぐに、顔を濡らすのが水か涙かわからなくなった。けれど少女は、握られた手のひらの温もりだけはしっかりと感じていたのだった。
ハテノキが見下ろす小さな村で、子供たちは今日も笑顔で手を取り合っている。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
川遊び.
案外水を掛け合うよりも,ただおしゃべりをしている方が楽しい.
きっと環境の違いがそうさせるのでしょう.
そして子供ゆえの容赦なさ.
大人のように甘々指導しないのが子供流です.
それでは次回,
『74……すーすー』
み、見ちゃやなのっ――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




