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72……水面に踊る

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 夏。午前中だけの授業とお昼ご飯が終わると村には子供たちのにぎやかな声が溢れ返る。

 他の季節なら校庭で遊び回ることが多いが、今の時期だけは別だ。

 夏の日差しよりもなお輝く笑顔で、村の端っこにある学校から駆け出していく。目指すは村の真ん中。広場から外れたところにある川だ。


      ♪♪


 川原には数十人の子供たちが集まっていた。男の子も女の子もみんな水着姿だ。

「準備はいいかっ?」

 一番背の高い男の子が訊けば、「「おーっ」」と手が挙がる。

「よし、全員だいじょうぶだな。リト先生は来てないけど、マスターさんが見てくれてるな」

 近くの橋の上にバリスタ姿の男性がいた。喫茶店のマスターだから、愛称はマスター。彼が手を振ると、集まっていた中の一人がうつむいた。マスターの娘だ。

「ようし、それじゃ、今年の川遊び解禁だっ!」

「「「わ――――ッ」」」


      ♪♪♪


「はぁ、やっと追いついた。あ、今年はマスターでしたか。ありがとうございます」

 急ぎ足でやってきたらしい、息を乱れさせて少年が川に到着した。先ほど話に上がっていたリト先生とは彼のことだ。まだ十六だが、歳の近さゆえに話が面白いと生徒からの評判は良い。

「手すきの人って決まりだからね。それに、この景色を見ないと夏を実感できないんだよ」

 川遊び解禁の日は村長をはじめ大人で決める。水着の売り出しが始まり、こっそり川原のごみを拾い、学校では危険性の注意とともに川原の植物や生き物についても勉強する。

「水が怖い子はやっぱり毎年いますね」

「年上の子が手を差し伸べるのも恒例さ」

 去年お兄ちゃんお姉ちゃんに教えてもらった子が、今年は新しい子に教える立場になる。

「廻っていくのを見るといい村だと感じる。この村でわが子を育てられて幸せだ」

 そのマスターの娘は、友人たちから一方的に水を掛けられていた。大人しい子だから格好の的になっているらしい。その彼女が、ふとうつむいてしゃがんでしまった。

「~~~~」

 隣から声にならないうめきが聞こえたが、リトは聞こえないふりをした。

 同じく心配した友人らが近づいて覗き込むと、

 ――ばしゃっ、と少女が思いっきり水を跳ね上げた。友人らの顔に見事に命中する。

「よしっ」

 なんてこぶしを握る父親が一人。そこだけ運動会だ。

「娘さんの成長を見るのも大切とは思いますけど。マスター」

「どうした? 僕の生きがいを邪魔できるものがこの世にあるだろうか、いや、な――」

「奥さんが『仕事ほっぽりだしてどこ行ったんだ』って店の前ですごい顔してましたよ?」


      ♪♪♪♪


 やっと落ち着いて全体を見渡せた。先生ということで、一応は見張り役になっている。日によって先生は変わるが、今日はリトの番だ。

 夕暮れになるまでずっと付き添うのは大変だから、この役目を買って出る先生は多くない。ただ、今日の当番をリトにしたのには理由がある。

 赤い癖っ毛を濡らし、これでもかとはしゃぐ少女。ファナ――リトの家に居候中の少女だ。この間村に来たため、ファナにとっては初めての川遊び。リトがはらはらしているのが見透かされていたに違いない。それで今日の当番になったのだと想像できた。

 視線の先のファナ。

「はしゃぐたびに跳ねる水は宝石のように彼女を飾り、濡れたことで白い柔肌はいっそうまぶしく、貼りついた水着は小ぶりでありながらひきしまったお尻の形を強調し、フリルの隙間から覗く胸元は控え目ながらもはっきりと咲きかけの少女らしさを示している。未成熟ゆえの甘ずっさぱが今にも口の中に広がりそうだ。シャボン玉のような、危うい均衡が組み合わさった幼い結晶は、奇跡と言っても言い過ぎではない。――ああ、俺の娘であり妹であるファナはなんて可憐なのだろう。――と言いたげな顔じゃな」

 隣から聞こえ出した独り言に、リトは思いっきりため息をついた。ファナよりは年上に見える少女。まさかこんな子供が村長だとは、外の人は思うまい。

「村長……さっき『あの子ったらまた仕事ほっぽりだして遊びに――』って」

「うそじゃな。ちゃんと断りを入れてきたぞ。『はいはい、いってらっしゃい』と言われた」

 それもそうか。村長が子供たちが安心して川遊びできているか見るのは仕事に違いない。

「いやはや、こうして我が子同然の子供らを見ていると、妖精は言い過ぎとしても、水面に踊るチョウや花のように可愛らしい――そう思わんか?」

「……いやぁ――ファナとかノエルなんかは床にはじけたコンペイトウに見えますけどね」






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


川遊びをする子供たちを外から見た話.

見ている方は実ははらはらしていたりします.

当人はただただ楽しいのですが…….


そんなわけで次回は当人たちの話.

心配するリトをよそにやりたい放題なファナたちです.


それでは次回,

『73……めぐる手のひら』

みんなと遊ぶほど楽しいの――というお話です.

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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