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68……両手に……はな?

マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。

飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。

リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。

学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。

そうして、初めての夏がやってきて――

      ♪


 村はずれの一軒家、居間のガラス戸を開け放して腰掛ける。足をぷらぷらさせながら横庭の小さな畑を望み、ふと見上げれば、空は澄み渡り、どこまでも昇っていけそうなほど透明だ。

「リト。あーん」

「あーん」

 隣のリトに声を掛けたのは幼い少女だった。赤い癖っ毛は元気いっぱいに跳ね、顔には木漏れ日のような明るい笑顔。

 答えたのは少年だった。少女の保護者である彼――リトは少女の甘えるしぐさにも慣れたものだった。

 そう、甘えているのはファナ――少女の方だ。

 つまり、ファナが自身の保護者であり家族である少年に日頃の感謝をこめてあーんしているのではなくて、

「――あむっ。………………えへへ、たまごやき、あまくておいしいの♪」

 食べさせて、とねだっているのだ。

「お返しなのっ。あーんしてっ」

「……。あーん」

 恋人も逃げ出しそうなほどに甘ったるい空気が流れる中、

「リト。こっち向けい。ほら、あーんじゃ、あーん。あーーーん」

「あーん」

「どうじゃ? 妾の作ったたまご焼きは。ふわふわあまあまたまごやき」

 左にファナ。右にはファナより少し年上に見える金髪少女(リトより年上)。両手にファナの方がまだましだと、リトは心の中で嘆いていた。


      ♪♪


 金髪、ひらひらいっぱい白黒ワンピースの幼女。名前はレイミ。職業は村長。御年不明。

 『遊びに来た』とのたまった彼女は昼食を持参していた。それも三人分だ。

『妾が作ったご飯だ! 妾が決まりを作る!』

 と言い出した村長さんの提案は、

『自分で食べるの禁止。あーんしてもらうこと』

 だった。

「リトにいっぱいいっぱいあーんしてもらうの! レイミちゃんにもっ」

 ファナはすっかり上機嫌。リトが反対しようと口を開きかけたときには手遅れで、レイミはガラス戸を開けた居間に腰を下ろしてお弁当を広げ、ファナは家の中からお茶とコップを持ってきていた。

「リト、はやくはやく」「早くせい」

 そして今に至る。


      ♪♪♪


「レイミちゃんも。あーんなのっ」「あーーん。……んむんむ。…………ほれ、お返しじゃ。あーん」「あーーーーん♪」「こら、ファナ。乗り出すな」「だって、こうしないとレイミちゃんと食べさせ合いっこできないしっ」「しなくてよろしい」「やだ」「わがまま言わない」「わがままじゃないしっ。だいたいリトだって、レイミちゃんにあーんされるときほっぺた緩んでたしっ、とってもうれしそうだったし!」「ファナにされるときもゆるみまくってたのう?」「……ぐっ、こいつら」「こいつじゃないし! ファナはファナ」「こいつじゃないぞ。レイ」「村長さん、やめときましょう。その見かけでも無理があります」「失礼なやつよの。そんな口はコロッケでふさいでやる。ほれ、あーんせい。あーーん」「……。……あーん」「――ぱくっ。えへへ、おいしいのっ」「はしたないぞファナ。わるい子にはおしおきだ。あーんしろ」「あーん。……ってうええ、にぎゃい……」「身体にいいんだぞ。しっかり食え」「ほれ、リト。あーん」「はぁ。あーん。…………うえ」「ふっふっふ、ピーマンが苦手だなんて、リトはまだまだまだまだ子供よのう」「村長。あーんしてください」「やじゃ! トマトはだめじゃ!」「だめです。みんなできっちりわけないと。好き嫌いしてたらおっきくなれないですよ?」「好き嫌いのないシエルに同じこと言えるのか? ん?」「それ、村長さんが言っても怒りますよ、あいつ」「……。……あーん。うう、じゅくじゅくですっぱくて甘い。おいしくない」


      ♪♪♪♪


「おなかいっぱいなの」「うむ。満足まんぞく」

 身体の小ささにしてはよく食べた二人はお茶を流しこみ、息をついた。

 けれどお弁当箱にはまだ中身が残っている。

 ――ということは、

「リト。あーんするね! もうリトしかいないのっ。いっぱい食べて♪」

「妾のあーんの方が好きじゃろ? ほれ、あーん、あーーん」

 ため息をつきかけて、けれど、たまにはいいかと大きく口を開けるリトだった。






最後までお読みいただきありがとうございます.


本作は,まったり日常モノです.

気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.


お弁当を男女で食べるときのお約束。

久しぶりに村長さんを登場させたら暴走しました。

……おそろしい。


掃除中に食べるお昼とか掃除後に食べる夕食って、

なんだかすっきりして気持ちがいいので好きです。

きれいになった心でご飯がおいしい! 的な(謎)


それでは次回,

『69……まだまだお掃除なのっ』

階段掃除中に下からスカートの中をのぞいちゃえ――というお話です.

(嘘です)

よろしくお願いします.


今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.

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