66……お掃除なのっ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌に合わせて、背中の羽とお尻のしっぽがごきげんに揺れている。
そして、つい今しがたまで動かしていた手を止め、
「……む~~~~」
すぐ前を、少し勝気な目をじぃと凝らして見始めた。明るい夏の日差しが癖のある赤毛を温めていることにも気づかないほど真剣だ。少女の髪に手を置けば、入れたばかりのスープの器のように温かい。そして、お日様の良い香りがするはずだ。
ふいに少女は右手を伸ばした。
握られているのは白い布だ。少し古くなったタオル――すなわち、おろしたての雑巾。
少女が目の前をそれで拭えば、きゅっきゅっきゅ、と小気味良い音が奏でられる。
「えへへっ」
少女の顔に花が咲く。すると、目の前にいた半透明の少女も笑う。
「リトリト、ぴっかぴかなの!」
「ファナファナ、さっきからしっぽ、叩いてくるんだけど」
「ふあっ――ご、ごめんなさいっ。あとファナファナじゃないし! ファナはファナ!」
少女は頬を膨らませ、しっぽをぱたぱた動かしてリトを叩く。
「終わったか?」
「うんっ。次なの!」
竜の少女――ファナが言うと、彼女の身体は自動で右に動いた。もちろんそれは彼女が飛んでいるからでも、リトがマホウを使っているからでもなく。
「えへへ、かたぐるま、楽しいの」
太陽が天頂に着くまでまだまだ時間がある初夏の朝。
ファナとリトの二人は、自宅の窓ガラスを拭いていた。
♪♪
村はずれにあるここリトの家は、実は歴史ある一軒家だ。
現在はリトと居候の少女の二人暮らし。十年ほど前は、リトの育て親二人とリトの三人暮らし。二人が村に引っ越してきたときは空き家だったが、有名な作家であったり、星の研究者であったり、様々な人に受け継がれてきたと聞いている。
ただ、歴史あるゆえにそこら中にガタがきているのもまた事実だった。大雨が降れば雨漏りは当たり前、この間など、屋根に上ってはしゃいだ挙句、屋根を突き破った少女もいた。
そう、言ってしまえばぼろい。けれど、リトはこの家に愛着があった。長年住めば、どうしてもそうなってしまうのだろう。だから壊れたら修理したし、汚れれば掃除をした。
「リト、窓ガラスが汚れてるの」
ファナがそう言ったのは今朝のことだった。
確かにひと月ほど拭いておらず、また雨が多い時期だったことも原因だろう。雨粒の白い痕が残る窓ガラスは、指摘されると気になってしまった。
「拭いたことあるか?」
「うん! ファナ、窓ガラス拭くのは上手だねって言われたことあるよ!」
♪♪♪
屋内を拭き終えた二人は横庭に来ていた。物干し竿と小さな畑を背中に、窓に向かう。
「……リト」
頭の上からファナに呼ばれて返事をすると、
「あそこ」
と、ファナが家の中を指差した。ガラスの向こうは居間で、ソファとテーブルがある。そのテーブルの上に白い布が見えた。さっきまでファナが手にしていたはずの……。
「おといれ行ったら忘れてきちゃったの……」
♪♪♪♪
ファナの手には霧吹きがあった。外側はどうしても汚れるから、洗剤を薄めた液を吹きかけるのだ。といっても、実はただの洗剤ではなく。くれた幼馴染の少女曰く、『あわあわふわふわすごいえきたい』だそうだ。ちなみに、幼馴染は村長さんからもらったらしい。
年齢不詳の美少女村長さんの知恵袋は驚くほど大きい。あと多分マホウも使える。
「見て見てリト! できたの!」
「ああ。……だよな、そうなるよな」
泡で描かれた三角と四角――家だろう。ちなみにリトは、つい気が向いて描いたものの自身の画力のなさにやつあたりとばかりに、ホースで水をぶっかけるのが常だ。
――リトもこっち描いていいの! そう言われて、家の隣に描けば、
「えへへ、おいしそうなお団子なのっ。家よりおっきいからお腹いっぱい♪」
「…………(すまん。木だ)」
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ガラスクリーナーがあったら絵を描くしかない!
すぐに飽きて「の」にしたりしますけど。
ちなみに「×」にすると、まんべんなく拭ける量になるらしいです。
知恵袋!
村長さん(幼女)と窓拭きする話は……いつか?
それでは次回,
『67……もっとお掃除なのっっ』
村長さん参戦! ホースで水ぶっかけ!――というお話です.
(あやしい)
(「っっ」ってするとアニメ2期みたい)
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




