62……ありふれた花
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
「えへへ、ベッドみたい」
白い小花が咲き乱れる丘に身体を横たえたファナが微笑む。
お気に入りの薄桃色のワンピース、健康的に焼けた手足が、シロツメの花の絨毯に埋もれていた。確かにその姿は、ベッドに沈む様子に似ている。
けれど、
「なんで俺が枕なんだよ」
「だってじゃんけんで勝ったもん♪」
ファナが枕代わりにしているのは、保護者代わりの少年リトの膝だ。夏の気配を帯びた日差しに温められた薄赤色の髪は、少し熱い。それでも、その温もりが、ファナの証明でもあって、
「あれ? リト、なんだかうれしそうなの」
「うん? そうか?」
「えへへ、リトがうれしそうならファナもうれしい」
村はずれの丘の上、巨大な古樹の木蔭。まったりと時間が流れる昼下がりのことだった。
♪♪
ときおり吹く風は不思議と冷たく心地よい。山の木々の中を通り抜けてくるからだろうか、温い空気に慣れた肌がひんやりとくすぐられるのがちょっとした幸せだった。
ファナは目こそ閉じているが眠ったわけではないらしい。風がこそばゆいのか、ときおりほっぺたを指でかいている。
「……えい」
「ふにゃあっ!?」
もちもちほっぺた。つい軽くつまんでしまったら、ファナが猫みたいな悲鳴を上げた。
むぅ、と起き上がって、リトのほっぺを両手で引っ張る。
「はんげきなのっ」
「ちょ、ひはっひはいってっつおいつおい!」
「リトへんなしゃべりかたなの!」
「このぉっ――」
ファナの攻撃の手を緩めさせるためにも、リトも右手でファナのほっぺを狙う。
それがしだいにくすぐりに変わり、今が夏だということも忘れてじゃれあってしまい。
「「……あつい」」
お互いが同時に降参して背中から倒れ込んだ。木蔭で涼んでいたはずなのに、どうして今、汗びっしょりになって呼吸も乱れているんだろうか……。
「なにやってんだ、俺たち」
リトがため息をついたそのとき、丘を登ってくる人影が見えて。
「ファーナ、ちゃーんっ」
「っ、ノエルっ」
ファナが軽い身のこなしでぴょんと起き上がり、同い年くらいの少女のもとへ駆け寄った。
「遊びに来ちゃったっ」
「えへへ、お休みなのに会えたのっ」
お互いの両手を合わせて、笑い合う。そんなまぶしい光景に、リトは手で顔を仰ぎ、
「元気だなぁ……」
♪♪♪
ファナとノエルは、ちょうど幹の反対側で、上手く木蔭に入りながら、シロツメの花でなにかをしているようだった。こちら側には、二人の楽しげな声だけが届く。
「なんかおっさんくさいわよ、リト」
「わるかったな、若さが足りなくて。昔は平気だったんだけどなあ」
「あら、昔っから家にひきこもってたから、わたしが連れ出してた気がするけど?」
「真夏に虫取りに駆り出されてぶっ倒れた記憶があるんだが」
幼い頃の思い出話を咲かせるのはリトともう一人。水色の、薄雲がかかった青空みたいな髪を後ろで束ねた少女だ。幼馴染で、名をシエルという。
恋人ではないが、意識していないかというとそうでもない微妙な関係だ。
♪♪♪♪
「リトリトっ。これあげるのっ」
ぱたぱたと駆け寄ってきたファナが、後ろ手に隠していたもの両手でつき出してくる。
シロツメの花で作った首飾りだった。崩れたところもあるが、丁寧さにが伝わってくる。
「このお花の花言葉、ありふれた幸せ、なんだって」
それは、日常の中に埋もれた、つい見逃してしまう小さな幸せ。
ファナが満面の笑みで笑う。ほめて頭を撫でると、くすぐったげに目を細める。シエルとノエルが微笑ましげに見て。ありふれた幸せって、こういうことかもな、とリトは思った。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
ちっちゃい女の子がシロツメクサで首飾り作ったりするのいいよねって,
そもそもシロツメクサの中に座ってる絵がいいよねっていう話でした.
歳とるとそういうのを見ることもなくなってさみしいですが.
そのために小説(妄想)があるのだと思えば!
ちなみに,前回の予告にあった,「リト、かわいい」は,
シロツメクサの首飾りを無理やりつけられたリトに対するコメント.
分量の関係で入りそびれたのですが…….
それでは次回,
『63……今はまだ』
シロツメの花で作るものと言えば――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




