61……夏のにおい
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
リトの幼馴染のシエル、村での初めての友だちのノエル。
学校のみんなに、優しい村長さん。たくさんの人と触れあって。
そうして、初めての夏がやってきて――
♪
玄関を出るやいなや真夏としか思えない日差しが突き刺さり、リトは中に引き返した。
「……? 忘れもの?」
首を傾げるのは十歳くらいの少女、ファナ。赤い癖っ毛は今日も元気に跳ねている。
「ああ、俺は太陽の光を浴びると溶けることを忘れてた」
「溶けちゃうの!?」
「だから残念だけど――」
「すごいのっ、やっぱりリトはマホウツカイさんなんだねっ」
「いや、あの……」
日差しよりももっとまぶしいきらきらした目を向けてくる。
けれどここで「ああ、冗談だ」と言っても、いつものように「むぅ、だされた。リトのいじわる」と頬を膨らませるのだろう。ころころ表情が変わるのは一緒にいて楽しいが、せっかくなのでもっといろんな表情を知りたいとも思う。
だから。
「……」
リトは無言の笑顔でファナの頭をなでなでした。
このタイミングでそうされるとは思わなかったのだろう、ファナは、
「ふあっえっちょっり、りとっ」
とても慌てた。目はまん丸で、ほっぺは赤く染まり、口はあわあわ。手足は固まる一方で、竜の証である羽としっぽはぱたぱたと宙を叩いていた。
きっと――今日も楽しい一日になるに違いない。
♪♪
「暑い……」
「リトだらしないの」
「暑さの一因はお前にもあるんだが」
「お前じゃないしっ、ファナはファナ!」
「な。……夏」
「しりとりするの?」
「竜もしりとり知ってるんだな」
そんな言葉を交わしつつ、二人は細道を歩いていた。リトの右手にはバスケット。左手にはファナ。真っ盛りではないものの夏。それなのに、あいも変わらずくっついてくる。
しかも子供だからか……ちょっと熱い。
ファナ――竜の少女だ。空から降ってきたのを受け止めて、一緒に暮らし始めて。あの頃はまだ春の名残があったけれど、今ではすっかり夏色に変わり始めている。
出会ってまで短いが、あの日以降、リトの日常は毎日が新鮮だった。きっとこれからも、毎日がファナによって賑やかされるのだろう――そう思ったら自然と口元がほころんだらしく、
「またリトがいじわるなこと考えてる……」
不満げに言って、左腕によりぴったりとくっついてきた。
♪♪♪
「風がきもちいいね♪」
村はずれの丘の上。ハテノキという村の名前にもなっている古樹が一本。
リトがその木蔭に腰を下ろして手で顔をあおぐ一方で、ファナは太陽の光をいっぱいに浴びている。
「早く秋がくればいいのに」
「まだ夏にもなってないのにっ。もう、リトはわがままなの!」
リトの傍に戻ってきてしゃがみこむ。
「……雲がひとつもないからおべんと持ってピクニックなの、とか言ったの誰だっけな」
「あ、あれはわがままじゃないし」
「じゃあなんだったんだ?」
「……えっと。…………。…………お願い?」
♪♪♪♪
「ファナは夏が一番好きかなあ。あったかいし、たくさん遊べるし。夏だったら川遊びして濡れても平気なの! でも、お布団にくるまれないのはちょっとさみしい……」
ほっぺたにマヨネーズと混ぜたタマゴをつけたファナが目を細める。
「ほら、ついてるぞ」
「ふあっ? どこどこ」
「ほら、じっとしてろ」
「……えへへ。あーん」
大きく口を開け、ぱくり。リトの指をちょこっとなめて、ファナはいたずらっぽく笑った。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
夏編の最初はいつも通りのまったりから.
何気ない日常こそが『どら×ひび』です.
お盆休みということで,更新ペース速めでいきたいと思いつつ.
(できれば毎日?)
それでは次回,
『62……ありふれた花』
リト、かわいい――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




