40……星にお願いしよっか
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
♪
「懐かしいね」
「うん?」
「ファナちゃんとノエル」
そこまで言われてリトは納得した。少し離れた丘の上で、ファナとノエルの二人が自身の手を胸元に当てて目を閉じている。
それは「お願いごと」の仕草だ。
――かつてリトたちもやった仕草。隣に座る彼女が教えてくれたもの。
「ノエルに教えたのか」
「あら、わたしはハニカさんに教えてもらったのをそのまま伝えただけよ」
なんでもない風に言うけれど。きっと、こうやって風習は伝わっていくのだろう。その仕草が思い出として自分の中にあるのを感じて、リトはちょっとだけ心が温かくなった気がした。
♪♪
夜。ハテノキ村のはずれに位置する丘の上で。
リトは幼馴染のシエルと星空を見上げていた。少し離れた場所では、リトの同居人であるファナと、シエルの妹であるノエルが同じように空や村を見ている。
ここ数か月はシエルが麓の街に勉強に出ていたため、こうして丘に来ることはなかった。
「じゃあ、わたしが出る二日前に来たとき以来?」
「うーん、いや、ファナと一回だけ来たな」
「……。なにか言われたの?」
「へ?」
「なんか、弱ったなーみたいなの顔に出てる」
まいった、リトは頬をかいてため息をついた。
「……家族になる、って言われたんだよ」
「いいことじゃないの。兄妹みたいなものってことでしょ? リト、さみしがり屋だもんね」
「……そうなんだけど。なんていうか、改まって口にされるとさ」
「ああ。リトって直球に弱いものね。言わなくてもわかってるよってやつでしょ?」
もっとも、思ったことを隠さず口にするところが、ファナらしさでもあって。もちろん、言葉は嬉しかった。ただ――そう、照れていただけだ。
「シエルも昔はいろいろ口にしてたよな」
「あー、まぁ、ね。若かったし?」
リトがこの村に来たばかりでふさぎ込んでいたときには「どうして笑ってくれないの?」と訊ねてきたり、「そんな顔してる子とともだちになりたいって思わないもん」と怒ったり、「ほら、笑えてる。ね?」と微笑んだり。
そんな記憶を辿れば、あることに気づいた。――二人は良く似ているんだ、と。
♪♪♪
「……なこと言うくらいなら――の気持ちもいいかげんわかりなさいよ」
「え? なんて?」
シエルの言葉に慌てて現実に戻る。気がつけば、隣の彼女はなぜかそっぽを向いていた。
「なんでもないわよ」
「……ご、ごめん。……えっと、ハニカさんっていえば、秋に結婚式挙げるって聞いた?」
「えっ? そうなの? 決まったんだぁ」
村の保育園に勤める保育士さんで、シエルの先輩にあたる。結婚の話は、シエルが村を離れてから決まったものだった。みんなが顔見知りのこの村では、お祝いごとは総出で行う。
「……結婚式」
その言葉に夜でもわかるくらいに頬を染めた彼女を見て、リトは慌てて空を見上げた。
♪♪♪♪
「しよっか」
「え?」
「……星空に、お願いごと。昔みたいに」
まさかわざと勘違いさせる言い方したんじゃないだろうな――焦りながらも頷く。
すると、シエルがなぜだか右手を差し出してきた。
「あの子たち手つないでるじゃない。若い子から逆に習うのもいいんじゃないかなって」
「……」
「~~っ。な、なんでもない。いいしっ、べつにっ」
ふんと目をつぶってしまったシエル。
本当に自分は直球に弱い。手、つなぎたいんだけど――そんな目で訴えられたら断れるはずもない。それくらいなら察せられる。何年の幼馴染だと思ってるんだ、と。
リトはだまってシエルの右手へと、自身の手を添えた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
(……気が向いたときに更新するのを改めたいです)
今回は,シエル×リト.
幼馴染ゆえに通じ合う部分がある一方で,
それゆえの難しさやら気恥ずかしさやら.
シエルがファナにやきもちを焼くという案もあったんですが,
今回はこんな感じでした.
ほのぼののはずがいつしかリトをめぐる泥沼(ファナvsシエルvsノエル)に
なっていたとは…….
が,そこに現れる第四の勢力.
「わたしはリューだぞこの人間め」って口ばっかり偉そうなちみっこ.
朝リトを起こすときは,素足でふみふみします.
(もしかして,ちっさいリューに囲まれるハーレムものだった?)
とかいうパラレルストーリーは…………需要あるのか?
それでは次回,
『どら×どら2……星繋ぎ』
番外編その2.ファナの村でのお話です.
「じゃああれがファナ座なのっ!」
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.