どら×どら2……星繋ぎ
マホウツカイ見習いの少年リトの元に、ある日、竜の少女ファナが墜ちてきて。
飛べなくなってしまったらしいファナに、リトは「ここで過ごすか」と手を差し伸べた。
そうして2人の生活は始まりを告げる。
リトと過ごす内に、村の人とも仲良くなり、彼女の世界は少しずつ広がり始め――
……これは、ファナがまだ竜の村にいたときのお話。
♪
ここはとある山深く。周囲を深緑色の険しい山々に囲まれた、周りに比べて頭ひとつ高い山の上。そこに、ひっそりとたたずむ小さな村があった。
名前はない。
なぜなら、名前をつけたがる人間がその村の存在を知らないから。そして、住人達も名前を必要としていなかったからだ。
人里離れた場所ゆえに、月明かりのない夜は真っ黒に沈む。けれどその村で暮らすのは竜の子供たちだ。夜目の利く彼ら彼女らにとって、同じ暗闇の洞窟に比べれば何倍も居心地が良い。
そして、月のない夜の楽しみはそれだけでなく。
見上げた空は、どれだけ時間があっても数えきれないほどに、まばゆい星に溢れていた。
♪♪
「えっと、あの赤くて明るい星が……目玉?」
「そうそう。あの星は一年を通して見えるから、もしも迷子になっても方角の目安になるんだよ。だからだから、ちゃんと覚えておくこと。わかった?」
「はーい」「はい」「へーい」
「ルル。返事は?」
「……方角、なんとなくでわかる」
「それキミくらいだから。ふつうの竜はわかんないから」
「それに、方角が必要になるようなことにならないし」
「――はぁ、ルル。そんなさみしいこと言わないの。そんなときが来るかもしれないでしょ」
ため息をつきながら、ルルと呼ばれた少女の髪を撫でるのは、十代後半に見える少女だった。金色の長い髪は、肩のところで二股にわけられている。その髪先はまるでしっぽのようで、彼女が駆ければ、三本のしっぽが跳ねるように流れるだろう。
そう、彼女は竜だった。その証拠に、人に似た姿ながら、背に羽、お尻にしっぽがある。
彼女は竜の子供が暮らすこの村で、子供たちの取りまとめをする年長者の一人だ。
その彼女が撫でる黒髪の少女は歳の頃十とちょっと。指導を受ける子供竜の一人だった。
「でも、村を出たらみんな離れ離れになっちゃうんでしょ?」
ルルのすぐ隣にいた赤い癖っ毛の少女――ファナが声を上げる。
「あたりまえじゃないの。大人になるって、そういうことよ」
答えるのはレア。淡い金色の髪は短く中性的だが、きちんと揃えられているところに彼女の性格がよく表れていた。
「えー、じゃあファナ、大人になんかならなくていいもん」
「はいはい。レアはわかった風なこと言わないの。ファナもわがまま言わない」
えー、と二人そろって頬を膨らませる。ファナはまっすぐにお姉ちゃんを見上げ、一方のレアはぷいとそっぽを向いた。
そんな二人のあいかわらずの態度に、四人の子供の中で唯一の男であるマグが、
「ったく、姉ちゃん。次行こうぜ次。つきあってたら朝になっちまうって」
「そだね。とにかく、あの星だけは覚えておくこと。じゃ、次。今日の二個目の本題。星座についてのお話だよ」
――空には幾万もの星があって、それぞれには歴史があるんだ。
そして、人間はその星々を繋ぐことによって、また新しい歴史――物語を作り出した。
それが星座。
例えば、あの赤い星を目玉にした紅竜座は、ある小さな国の守り神だったと言われている。
街ひとつしかない国だったけれど、とても平和だった。だけど、ある夜、すぐ傍の山が炎を噴き上げたんだ。山肌を焼きながら迫り来る火の波を前に人々は立ち尽くした。
そこに現れたのがその山に棲んでいた竜だった。竜の吐いた炎は火の波を押し返した。だけど竜の力にも限界があった。一晩続いた噴火の前に力尽き、その国を自身の身体で守るようにして命を落とした。
その次の瞬間だった。
――竜は空へと飛び上がり、そのまま天へと昇っていったんだ。どこまでいっても、小さな瞳はまぶしいほどに、太陽のように輝き続けていた。そして今、空を見上げれば、赤い星が輝いている。その国から見た星の方角は、まさに竜が舞い昇った方角だった。
そうして、小さな国の守り神は星となって、今もその国を見守っているんだとさ――おわり。
♪♪♪
お姉ちゃんの話が終わっても、それを聞いていた四人の子供たちは黙ったままだった。
(ボクもその話を聞いたときはそんなんだったなぁ)
なんて、昔をしみじみと思い出していた。それがどれくらい前のことだったかはさておき。
「さて、それじゃ今日の最後はこれ」
そう言って、四人に画用紙とクレヨンを差し出した。人に近しい姿をしている利点を生かして、ふもとの街から仕入れてきたものだ。この村にはそういったものがいくらかある。
「そんな物語を想像しながら夜空を描いて――星座を作ってね♪」
明日までの宿題。子供は早く寝ないとだけど、たまには夜更かししたいでしょ?
そう言われて、ファナたちは、自分たちの四人部屋、その真ん中にあるテーブルに並べた白い画用紙とにらめっこをしていた。
「星座とか言われてもわかんないっ」
「……ちょっとファナ、静かにしなさいよ。いませっかくいいのが思い浮かんだのに」
「でも思い浮かんでないんでしょ? だったらファナと一緒だもん!」
「なによ!」
「――お、ルル。思いついたのか?」
ファナとレアが言い合っているのをよそに、ルルは画用紙にいくつかの点を描いてつなぐ。彼女はいつだってマイペースだ。けれど、それはときに、行動的なファナやレアよりも前に進む力を強く発揮する。
「……できた」
三人が画用紙を覗き込む。この線はどんな絵を表しているのか、うーんと首をひねる。けれどすぐに、レアがくすりと笑って、
「もしかして、両手を突き上げてるファナ?」
「……」
その回答にこくりとうなずきが返る。
言われてもう一度眺めれば、確かに――両手を突き上げ、おしりのしっぽのぴんと伸ばし、むうとほっぺたを膨らませるファナの姿がはっきりと浮かび上がってきた。
笑う三人を見て、ぷうとふくれたファナは、
「いいしっルルがそういうの描くんなら」
できあがったのは、腰に手を当てたレア。強気な彼女らしいしぐさだ。
「お、そっくりじゃないか」
マグが笑い声を上げると、
「ちょっと! 笑うなんて失礼じゃないのっ」
マグなんてこんなんなんだから――レアはクレヨンを走らせる。
できあがったのは、頭の後ろで手を組んでしっぽを立てている姿だった。
「あー、これよくやってる! 『ったくお前らっていっつも好き勝手してんな』ってめんどくさそうに言うくせに、一緒に騒ぎたいなってしっぽそわそわさせてるところなのっ」
「ばっ――そんなんじゃねえ」
「「え?」」
「……」
しっぽをピンと立てて反論したマグを、三人はまっすぐに見返して。
「……ルルの無言が一番きついわ」
がくりと首を落とす。
が、それもちょっとのことで。よしとクレヨンを手にして星座を描き出す。男だからか、四人の中で切り替えの速さは一番だ。
「ああ、やっぱりそうなるわよね」
「だよねっ」
頬を緩ませるレアとファナの顔を見て、ルルはわずかに頬を染めた。ほんとうにわずかだったけれど、幼馴染の三人には十分に伝わってしまう。
「……できたなら、ねる」
そうやって誤魔化すのが不器用なところも知り尽くしているから。だから三人は顔を見合わせて笑う。その笑顔は、ほんとうに温かくて、親友を超えた家族の団らんのようにまぶしい。
その日の真夜中。
一人がふと目を開けて身体を起こした。他のみんなを起こさないように静かに立ち上がり、そして部屋の真ん中のテーブルの上に手を伸ばした――。
♪♪♪♪
「はいはい、みんな朝だよーお寝坊さんは誰かなー?」
朝日が昇る時間になって、お姉ちゃんが四人の部屋を訪れた。いつも通りにノックなしで中に入った彼女は、そこに広がった光景に目を丸くした。
四人は、ベッドにも入らず、机の周りですやすやと眠っていた。
レアは腰に手を当てるように、ファナは大の字になって、マグは頭の下に腕を回して、そしてルルは、ファナの手とレアの手の両方をつなぐようにして。
「夜更かしついでに遊んでたのかな。ま、予想通り――うん?」
そして気づく。テーブルの上に並んだ画用紙に描かれている星座は、今の彼女たちそっくりだった。
「昼間はともかく、寝相までそっくりにならなくってもねえ?」
宿題はもらっていくよ、画用紙を回収しようとした彼女は、部屋のテーブルに相当する、四枚の画用紙が囲った五枚目を見つけた。
そこには、
「そうきたか……。こんなのされちゃったら、よけい起こせないじゃないか」
口元に手を当てた、三本しっぽの星座。いたずらっぽく笑うお姉ちゃんが描かれていた。
最後までお読みいただきありがとうございます.
本作は,まったり日常モノです.
気が向いたときに,好きな話から読んでいただけます.
番外編その2.
ファナの過去のお話です.
本編で星を見に行った流れで,星の思い出.
その夜にファナが見た夢の内容――みたいな感じで補足していただければ.
本編とはまた違った絆や賑やかな日常を描ければと思います.
次の『どら×どら』は50話のあと?
それでは次回,
『41……雨の味、雲の味』
雲って綿菓子みたいなの!――というお話です.
よろしくお願いします.
今後も二人の行く末を見守っていただけると幸いです.




